【コラム】

カレー沢薫のほがらか家庭生活

63 七五三

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今回のテーマは「七五三」である。だが、私が現在8歳児だというならともなく、もう三十も折り返し地点である。つまり、30年近く前の話だ。そんな昔の話、顔に消えない十字傷ができたとか、死人が出たとか、相当インパクトのある事件が起こってない限り覚えていないと思う。

それにしても七五三というのは、文字通り2年ごとに記念イベントがやってくる。その後も、小中高入学・卒業or退学と、数年ごとにでかい節目がやってくるのである。

だが、その後の停滞っぷりがすごい。七五三より、ここ数年の記憶の方が遙かにない。なぜなら、記憶するほどのことが一切ないからだ。みんなそうかと思ったら、ここ最近私の周りはベビーブームで今年に入って同級生3人から出産報告があった。どうやら、人様の人生は今も動き続けているようである。「さすが他人の人生。順調だ」と感嘆した次第である。

しかし、記憶があまりないからと言って七五三をやっていないわけではなく、人並みにやっている。割と親がそういう行事をつつがなくやるタイプだったからだ。おそらく、着物か、そこまでは頑張れなかったとしても、ワンピースか何かでお参りをして、写真撮影をしたはずである。

ちなみにそれから十数年後、さらに頑張れず、成人式にリクルートスーツで行った。このペースでいくと、パンイチで棺おけに入れられると思う。

その時の写真はまだ実家にあるはずである。しかし、我が家は記録魔かつ物が捨てられない親父殿のおかげで、人が住んでいる遺跡になっているため、発掘しようと思ったら専門家への要請が必要だろう。ちなみに七五三の写真は、家のカメラではなく写真館で撮影したはずである。さらにそこで撮られた私も写真が、しばらく店先に飾られたはずである。

そう思い続けて今日まで来たが、本当に飾られていたのであろうか。他の同級生が飾られているのに、自分は一向に飾られないことに自我が崩壊し、自己防衛本能が「飾られた」という記憶を捏造したのではないだろうか。

しかし、今となっては確かめる術も証拠もない。飾られている自分の写真を写真に撮っているようであれば、いよいよである。飾られていなかったとしても、せっかく自我が気を利かせてくれたのだから、「飾られた」ということにしておこう。

あの写真館は今もあるのだろうか。そもそも少子化で、カメラの性能も良くなっているのだから、わざわざ写真館で写真を撮る人自体減っているのではなかろうか。しかし、写真館側だって黙って衰退しているわけではないようである。

先日、姪っ子の七五三写真を見せてもらった。先日と言っても10年前なのだが、あまりに人生が停滞しすぎて時間の区切りが大雑把になってきた。その内、50年前のことを「昨日」と言い出すと思うが、それは脳の接続が悪くなっているだけなので、追求せずに寝かしつけてほしい。

ともかく、平成二桁生まれの七五三写真を見せてもらったのだが、明らかに昭和の七五三と違うのである。まず衣装がかわいい。私の時も貸し衣装だったと思うが、三代にわたって受け継がれてきた、と言っても通るような厳かな着物だった。

しかし今の七五三の衣装は、着物でもパステルカラーだったり和洋折衷だったりと、とにかく子どもが着てかわいいデザインになっているし、フリルのついた和傘などアイテムも凝っている。さらにポーズも、千歳飴を持って棒立ちとかではない。モデルのようにポーズを決めている。そうなのだ。まるで雑誌のモデルのような写真が出来上がるのである。

子どももオシャレ好きなら喜ぶだろうし、親もまるでファッションモデルのようなわが子の姿にご満悦である。素人でもある程度の写真が撮れるようになった今、いかに素人には無理な写真を撮るかで、写真業界は顧客を得ているようだ。

これをママ友あたりに「うちの子の写真」と見せられ日には、平均以上のマウンティングスピリッツのある親なら「負けていられるか」と、6歳児でもその日の内に写真館で七五三写真を撮ってしまうかもしれない。

だが、親の方針も色々だ。古い良き着物姿で、千歳飴棒立ち、両隣にスーツの両親という古来から伝わる七五三写真を撮る家もあるだろう。それに対し、「うちも邪栖十(ジャスティン)ちゃんみたいなカワイイ服着たい」とダダを捏ねる子どももいるかもしれない。

それに対し繰り出される言葉は、「よそはよそ、うちはうち」である。どれだけ時代が変わろうと、家庭内からこの台詞が消えることはないだろう。

筆者プロフィール: カレー沢薫

漫画家・コラムニスト。1982年生まれ。会社員として働きながら二足のわらじで執筆活動を行う。
デビュー作「クレムリン」(2009年)以降、「国家の猫ムラヤマ」、「バイトのコーメイくん」、「アンモラル・カスタマイズZ」(いずれも2012年)、「ニコニコはんしょくアクマ」(2013年)、「負ける技術」(2014年、文庫版2015年)、Web連載漫画「ヤリへん」(2015年)など切れ味鋭い作品を次々と生み出す。「やわらかい。課長起田総司」単行本は全3巻発売中。

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インデックス

連載目次
第65回 ペット
第64回 風水
第63回 七五三
第62回 結婚記念日
第61回 十五夜
第60回 最寄駅
第59回 ハロウィン
第58回 寝坊
第57回 友だちの家
第56回 不動産会社の思い出
第55回 おばあちゃんの知恵袋
第54回 家族写真
第53回 トイレの使い方
第52回 近所付き合い
第51回 引越し
第50回 お盆
第49回 100均の神アイテム
第48回 DIY
第47回 間接照明
第46回 家賃
第45回 観葉植物
第44回 畳vsフローリング
第43回 エアコン
第42回 お風呂vsシャワー
第41回 丁寧な暮らし
第40回 ミニマリズム
第39回 部屋着
第38回 収納
第37回 掃除
第36回 家具のこだわり
第35回 筆記用具
第34回 映画館
第33回 小学生の時の思い出
第32回 家電
第31回 祖父との思い出
第30回 祖母との思い出
第29回 本棚
第28回 父の日・母の日
第27回 学校行事
第26回 お年玉と誕生日
第25回 仲直り
第24回 お祭り
第23回 花火大会
第22回 春休み
第21回 部活
第20回 教習所
第19回 勉強机
第18回 進路
第17回 通学
第16回 兄弟との遊び
第15回 兄弟喧嘩
第14回 朝ごはん
第13回 運動会の思い出
第12回 正月の過ごし方
第11回 夏休みの思い出
第10回 おこづかい
第9回 モロファミコン世代
第8回 貯金と浪費家
第7回 習い事と「そろばん教室」
第6回 カレー沢流の親孝行
第5回 コタツ、それは女神の微笑み、母なる海
第4回 おふくろの味
第3回 私不在の家族会議
第2回 新潟での家族旅行
第1回 カレー沢薫の実家

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