今回のテーマは「祖母との思い出」だ。

私にはババア殿が都合2人ほどいるが、父方の祖母は数年前亡くなった。ちょうど100歳の時だったので、これ以上ないほど天寿を全うされている。それでも私の父ほか、子供たちは「あまりにも早い死」みたいな空気を出していたので、よい人生だったのではないだろうか。

母方のババア殿はまだ存命で、父方のババア殿より大分若く、今年88歳になる。「88歳で若いとは如何に!? 」と思うが、父方の祖母が三十路過ぎていたころ、母方の祖母はまだJKぐらいの年だったのである。つまりギャルだ。

しかし、ギャルと言えどすでに米寿なので、最近は歯が悪いらしく、「堅いものとかマジ無理なんだけど」と食事で難儀をしているよう。しかし、頭は割とはっきりしていて、「あんたんところは共働きだし、大分貯めてるんでしょ? 」とダイレクトに金のことを聞いてくるなど、今も冴え渡っている

しかし、ギャルのこういったところは今に始まったことではない。彼女は一貫してリアリストでクールなのだ。ギャルの娘、つまり私の母は結構センチメンタルで涙もろいところがあるのだが、27年間一緒に暮らしたにも関わらず、ギャルが泣いたところは一回も見たところがない。さすが、伊達に旦那が車にひかれて死んでねえ、といった感じである。

そう、言い忘れたが、私の母方の祖父、つまりギャルのダァは事故死しているらしい。らしいというのは、私が生まれた時には既に死んでいたからだ。しかも、それを知ったのは私が成人後である。別に、衝撃的な話だから私が大人になるまで待ったとかではない。大人になるの待ちだとしたら、いまだにその話は封印されているだろう。精神的には幼稚園を留年し続けている。

私が21歳の頃、初めての就職でコケて、メンが若干ヘラってしまい、母親に連れられて心療内科に行ったのだが、その時に医者から家族構成などを問われ、あっさり母の口から、祖父が事故死だったことが語られたのである。それを聞いた私は、自分のメンのことなど忘れて「えっそうなんだ!? 」と思ったのをよく覚えている。

正に「突然の死」だったわけだが、その時、母は既に成人後で恐らく結婚して家を出ていたであろうから、「子供を抱えて路頭に迷う」のようなことはなかった。しかし、ギャルが突然一人暮らしになってしまったので、母は父を連れギャルと同居を始め、そこで私が爆誕したのだと思う。

いまだに、どの話も詳しく聞いていないので、時系列があやふやだが、多分そうなのだと思う。この他者への圧倒的興味不足が、私のコミュ症である最たる要因であることは確かだ。

ちなみに、「夫を亡くし路頭に迷う」どころか、我が家の経済は祖父の死後も祖母に拠るところが大きいらしく、母が「経済的な意味でも祖母には1秒でも長く生きてもらわねば」と言うようなことを言っていた。半分はジョークだろうが、半分はマジだろう。

もちろん、その仕組みは聞いてないから知らないのだが、私がそういうことを聞かなかったのは、家のことを全く心配していなかったからだと思う。子供だって、家に不穏な空気が流れていたら、「我が家は大丈夫か」と心配したり、気を使ったりするはずだ。

我が家にもそういったクライシスは絶対あったはずだが、それを子供が感じとらせなかったというだけでも、うちはいい家だったのだろう。それか、私が家が燃えていても気づかないほど鈍かったか、火元が私だったかだ。

母も還暦を過ぎた今でも、パートで外に働きに出ているようだが、ギャルも60の定年まで外で働いており、退職後は我が家の家事を一手に引き受けていた。しかしある日、遺跡の発掘のアルバイトに出かけた。唐突な話で恐縮だが、本当に唐突だったのだ。

そこで祖母は足を負傷してしまい、しばらく思うように動けなくなった。よく老人が足をやってしまったことが原因で、そのまま寝たきりになってしまうという話を聞くので、よもや、ギャルもこのまま……と少し思ったが、彼女は普通に復活した。その後、ギャルは何かの病気で処方された薬が合わず、思考や言語が不明瞭になった時期があった。よもや、そのまま認知症に……と危惧されたが、薬をやめたら治った。

意外と不死鳥のように蘇るギャルだが、冒頭言った通り、今年米寿である。それで夫から、「何か贈り物をあげなければ」と言われたので、「よし、金をあげよう」と即答した。夫には、「いや、それはなかろう」と言われたが、逆にそれ以外ない。父の日・母の日のプレゼントは、いまだに安物でごまかす私だが、ギャルに贈り物をあげられる機会は父母以上に限られているだろう。

だからこそ、真っ向から誠意の現ナマを贈りたい。だがもちろん、その金額をケチる可能性はある。

筆者プロフィール: カレー沢薫

漫画家・コラムニスト。1982年生まれ。会社員として働きながら二足のわらじで執筆活動を行う。
デビュー作「クレムリン」(2009年)以降、「国家の猫ムラヤマ」、「バイトのコーメイくん」、「アンモラル・カスタマイズZ」(いずれも2012年)、「ニコニコはんしょくアクマ」(2013年)、「負ける技術」(2014年、文庫版2015年)、Web連載漫画「ヤリへん」(2015年)など切れ味鋭い作品を次々と生み出す。「やわらかい。課長起田総司」単行本は全3巻発売中。