【コラム】

カレー沢薫のほがらか家庭生活

29 本棚

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今回のテーマは「本棚」だ。

私は本をあまり買わない。他人には自分の本を「買って燃やしてまた買え」となどと言っているが、買うとしてもキンドルなどの電子書籍がほとんどである。しかし、自分がしないことを他人に強要するのは恥ずべきことだ。即刻、キンドルが入ったPCをツルハシで破壊して、また買おうと思う。

だが、それは全て厚い本の話だ。薄い本ならしこたま買っている。もっと簡単に言うと、ブラウザゲーム「刀剣乱舞-ONLINE-」のエロ同人誌をクソほど買っているということだ。もちろんエロくないのもある。しかし、低く見積もって8:2でエロだ。

当然、本棚には収まりきらない。よって家の物置のひとつが完全にエロ本小屋と化している。開けたら知らない中学生たちがたむろしていた、という事態が起こっていてもなんら不思議ではないお宝スポットだ。

薄い本とは、文字通り、厚さは薄いが、普通の本より面積がある。それが、地層なら3億年はかかるだろうというぐらい積み重なっているのだ。よって、一見「これは歴史がある」と地層学者をうならせるが、実際には1、2年でできたものである。

そして、その地層にも「関東ローム層」のような種類があり、私のように刀剣乱舞層を作る者もいれば、おそ松層、YOI層を作る者もいる。ある意味、オタクの歴史が見てとれる貴重な資料だ。

私はその地層を物置に築いているが、隠しているかというと全然隠していない。扉を開けた途端、表紙に描かれたほぼ衣服を身に着けていないキャラの尻と目があってしまうことがある。せめてエロじゃない薄い本をトップに置くぐらいした方がいいのだろうが、その点の管理はかなり杜撰である。もちろん、その物置には夫も入る。よって、夫も尻と目があったことが何度もあるはずだし、そこがエロ本小屋になっていることも理解しているはずだ。

しかし、夫も実家の家族も「私の所有物(特に本)に関し徹底して何も言わない」という点が共通しているのだ。「家族にエロ本所有を把握される」と、「エロ本所有が把握され、それについて言及される」との間には、調子がいい時のモーゼが割った海ぐらい隔たりがある。

例えば、母親にエロ本所有がバレたとする。だが。母親が何も言わずに放置すればノーダメージだ。それをきちんと机の上に並べられたりするからダメージが生じ、さらには「せめて私より若い子が出てる本にしなさいよ」などと言われたら、木っ端微塵になる。

だから、私も夫に「長谷部が好きなのは良く分かったが、攻められてる燭台切も好きなんだな」と言われたら、家ごと本を燃やす。もちろん、私も夫も一緒に燃やす。生かしてはおれぬし、生きてもおれぬのだ。

しかし、本当に何も言われないので、「バレても何も言われないならいいや」という意識のままま大人になったし、家族は私が何を読んでいるかなどそこまで興味がないのだろうと思っていた。

しかし、26歳で漫画家デビューが決定し、親に伝えたところ、母親は開口一番「エロ漫画か? 」と言った。別に"おかあちゃんジョーク"ではない。母が下ネタを言ったところなど見たことがないからだ。つまりマジである。そして、母がなぜ瞬時にそういう結論を出したかというと、間違いなく私の持っている漫画類から判断したのだろう。つまり、それについて何か言おうが言うまいが「親は見ている」のである。

先日ネットで「息子のSNSアカウントを全て把握している母」が話題になったが、あれは特に珍しいことではないのだろう。なぜなら、子供は基本的に「そこまで見ないだろう」「SNSとか親に分かるわけがない」と油断しているため、隠してないのだ。隠してないなら見つかるに決まっている。つまり、家族に何か隠したかったら、一子相伝の秘伝書を守る覚悟で隠さないとダメなのである。

逆に、私が家族の買った本などに興味があったかと言うと、割と勝手に読んでいた。高校1年生時、暇だったので兄の本棚にあった村上春樹の『ノルウェイの森』を読んで非常な衝撃を受けたこともある。その後、村上作品は何冊か読んだが、それは難解で分からなかった。しかし、『ノルウェイの森』は今でもフェイバリットである。

しかし今になって、『ノルウェイの森』が好きなのは、エロかったからであり、他の村上作品がピンとこなかったのは、それに比べてエロが少なかったからでは説が浮上してきた。しかし、ただエロさで言えば、中三の時に買って、25歳ぐらいまで持っていた『新世紀エヴァンゲリオン』のエロ同人誌の方がエロかったと思う。よって、私が『ノルウェイの森』が好きなのはエロ目的ではない。

有名になり過ぎて、いろいろ言われることが多くなった村上作品だが、私は春樹との思い出をいいものにしておきたいのだ。

筆者プロフィール: カレー沢薫

漫画家・コラムニスト。1982年生まれ。会社員として働きながら二足のわらじで執筆活動を行う。
デビュー作「クレムリン」(2009年)以降、「国家の猫ムラヤマ」、「バイトのコーメイくん」、「アンモラル・カスタマイズZ」(いずれも2012年)、「ニコニコはんしょくアクマ」(2013年)、「負ける技術」(2014年、文庫版2015年)、Web連載漫画「ヤリへん」(2015年)など切れ味鋭い作品を次々と生み出す。「やわらかい。課長起田総司」単行本は全3巻発売中。

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インデックス

連載目次
第60回 最寄駅
第59回 ハロウィン
第58回 寝坊
第57回 友だちの家
第56回 不動産会社の思い出
第55回 おばあちゃんの知恵袋
第54回 家族写真
第53回 トイレの使い方
第52回 近所付き合い
第51回 引越し
第50回 お盆
第49回 100均の神アイテム
第48回 DIY
第47回 間接照明
第46回 家賃
第45回 観葉植物
第44回 畳vsフローリング
第43回 エアコン
第42回 お風呂vsシャワー
第41回 丁寧な暮らし
第40回 ミニマリズム
第39回 部屋着
第38回 収納
第37回 掃除
第36回 家具のこだわり
第35回 筆記用具
第34回 映画館
第33回 小学生の時の思い出
第32回 家電
第31回 祖父との思い出
第30回 祖母との思い出
第29回 本棚
第28回 父の日・母の日
第27回 学校行事
第26回 お年玉と誕生日
第25回 仲直り
第24回 お祭り
第23回 花火大会
第22回 春休み
第21回 部活
第20回 教習所
第19回 勉強机
第18回 進路
第17回 通学
第16回 兄弟との遊び
第15回 兄弟喧嘩
第14回 朝ごはん
第13回 運動会の思い出
第12回 正月の過ごし方
第11回 夏休みの思い出
第10回 おこづかい
第9回 モロファミコン世代
第8回 貯金と浪費家
第7回 習い事と「そろばん教室」
第6回 カレー沢流の親孝行
第5回 コタツ、それは女神の微笑み、母なる海
第4回 おふくろの味
第3回 私不在の家族会議
第2回 新潟での家族旅行
第1回 カレー沢薫の実家

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