今回のテーマは「学校行事」だ。

この言葉を聞いただけで、リストカット跡に似た皮膚のたるみが疼く。下半身から生えた7本のコンプレックスで歩行している私だが、「青春コンプレックス」は特に太い。他の6本が倒れても、これだけは最後まで地中に突き刺さったまま動かないだろう。

実際は他の6本も全然倒れないし、むしろ年々太くなっているのだが、それにも以上に青春コンプレックスはもはや「磐石」の貫禄を見せつつある。つまり、私は劣等感だけは生涯安泰である。日本の年金制度も見習ってほしい。

私は、人の成功を見ると口から十二指腸が出て死に、他人の不幸を聞くと十二指腸が出たまま生き返る人間だと何度も言ってきたが、実は言うと全くその通りの人間なのだ。

先日、ツイッターの「NGワード設定」(その単語が含まれるツイートはTLに表示されない)を見たら、「アニメ化」「重版」というワードが入っていた。おそらく、史上空前に精神の調子が悪かった自分が設定したのだろう。それを見て「これはひどい」とはなったが、その設定を消すことはしなかった。今でも空前絶後にメンのヘルスの調子が悪いからだ。

だが、同業者のサクセスよりも、私の内臓を押し上げるのが「若者の青春」だ。これから先、私が100万部本を売って、作品が映像化したとしてもこれだけは変わらない。両手両足にキャビアをはめるような、総金歯の金持ちになったとしても、からあげくんをふたりでわけあっている高校生カップルに横切られただけで、リストカット跡に似たあかぎれがパックリ割れである。

なぜそんなに羨ましいか。それは、自分が今後、社会的に成功する確率はゼロではない(マイナスだ)としても、ティーンの青春を取り戻すことは完全に不可能だからだ。

「そこまで嘆くことか」と思われるかもしれないので、分かりやすい例を言おう。たまに芸能人がJKや未成年とIN行したというニュースが世間をにぎわす。基本的に、芸能人でなくても大人が高校生にINしたりされたりすると(IN行だけに)罪になる。

ちゃんとした交際ならノーカンとの見方もあるが、そんなものJK彼女が何かでヘソを曲げて「おまわりさんIN行です! 」と言ってしまえばそうなってしまうのだ。最初から爆弾を抱え、その着火スイッチは相手が握っている状態なのである。

よって、誰にも怒られることなく、JKとIN&OUTしようと思ったら、自分がDKかその年齢の時にするしかないのだ。つまり、成人後は「一生、JKとノーリスクで付き合えることはない」のである。

愕然とするだろう。しなかった人はそのままでいい。だがこのように青春には、「もう二度とできないこと」が山ほど詰め込まれているのだ、実際にやってみたら大して楽しいことでもなかったのかもしれないが、何せ体験していないから分からないし、それを体験することはもうできないのだ。だから一生それを羨んで生きるしかない。

「学校行事」とはそんな青春の場である。むしろ、「青春以外することはない」と言っても過言ではない。つまり、私は学校行事において常にやることがなかった。いただけである。いるだけで輪に入っていないので、やることがない。人にこれをやれとも言われないし、だからと言って自分から何をしたらいいかとは聞けない。孤独であり、孤独の中でも最も難易度が高い「集団の中の孤独」だ。

私は、こういう行事を楽しめた者も羨ましいが、「サボる」というカードが切れた人間も羨ましい。昔、「修学旅行をサボった」という人間に会って「信じられん」と思ったが、今思うとクレバーである。修学旅行なんて、観光地じゃなくて「楽しめない自分が、他の楽しそうなやつを見る」という、リアル地獄めぐりでしかない。

そんな、常にいるだけだった高校を卒業する時、当時の担任が生徒一人ひとりに、個人的に撮った学校行事の時写真を渡していた。もちろん、その写真は本人が写っているものだ。当然、私にも渡され、その封筒を開けてると、そこには1枚だけ写真が入っていた。

その写真は文化祭の時の写真で、私が映っていたが映っていなかった。正確には、私の顔は全く映っておらず、下を向いている私の頭頂部のみが映っている写真だった。「これがあなたの青春そのもの」。そう、ユーミンの声が聞こえた気がした。

しかし、今思うと担任もつらかっただろう。どれだけ探しても私が映っている写真がこれしかなく、だからと言って私だけ渡さないわけにもいかない。しかし、正解を言うと「渡さなくていい」だ。

筆者プロフィール: カレー沢薫

漫画家・コラムニスト。1982年生まれ。会社員として働きながら二足のわらじで執筆活動を行う。
デビュー作「クレムリン」(2009年)以降、「国家の猫ムラヤマ」、「バイトのコーメイくん」、「アンモラル・カスタマイズZ」(いずれも2012年)、「ニコニコはんしょくアクマ」(2013年)、「負ける技術」(2014年、文庫版2015年)、Web連載漫画「ヤリへん」(2015年)など切れ味鋭い作品を次々と生み出す。「やわらかい。課長起田総司」単行本は全3巻発売中。