今回のテーマは「貯金」である。テーマとしては「親の死」と同じくらい暗くなることが分かり切っているお題だ。

よくニュースなどで「老後を不自由なく暮らすには貯金が5,000万ぐらい必要」などと言っているのを聞く。結論から言うと無理である、つまり、貯金が5,000万ない=野たれ死ぬ。そして、貯金がゼロでももちろん野たれ死ぬ。よって、どちらにしても野たれ死に以外はないので、貯金しても無駄という結論が導き出される。

数十年前、まさにそういう思想だった人が今「老後破産」という流行の最先端を走っているのだろうが、この老後破産はそういう人だけではなく、割と真面目にやっていた人でさえ、どうにもならない理由でなったりもするらしい。今でさえそうなのだから、私たちの老後はもっとエクストリームなことになっているだろう。経済的マッドマックスである。

私は浪費家だ。しかも、小額買いの浪費家であり、金がない上に周りはゴミだらけで売る物すらない。さらに最近は、ソシャゲのガチャにハマりそこで得られる「JPG」という、物ですらないデータに散財するようになった。そのうちデータすら超えて「概念」みたいなものを買い始めるかもしれない。

この浪費癖は子供の時からであり、もらった小遣いはすぐに使い果たしていた。

月の小遣いはすぐに使ってしまうので、別口の小遣いがもらえる機会は逃さなかった、私が小学生のころ、我が家はまだボットン便所であり、そこに貯まっている肥えをババア殿が畑に運んでいたりしたのだが、それを手伝うと千円もらえたので喜んで運んでいた。

そして、もらった千円は、その日のうちにゲーセンで使い果たしていた。「ウンコを運んで得た金をその日のうちに溶かす」という、色んな意味でクソみたいな金銭感覚だったため、親はたぶんこの時から私のことがかなり心配だったと思う。

親は、というか私の実家自体は、金に関しては堅実である。「よそに借金だけはするな」が口癖であり、借金はおろかローンすら嫌いで、車なども一括で買っており、ババア殿はさらにその上を行き、家を一括で買っている。

なので私も、浪費癖はあるが、借金はしたことはないし、ローンも住宅ローン以外は組んだことないし、いざという時も「よそに借金するな」という教えを守り、一番に親に借りに行くと思っている。

それに消費者金融などに借金すると、それが返せなくなり、膨大な利子がついた借金を結局親に返してもらうなど、さらに迷惑をかけることになる。つまり親に借りるのが一番合理的かつ、親孝行なのである。

しかし、そんな堅実な親だが、全く無駄遣いをしなかったというわけではない。

私が小学生ぐらいの時、母親が突然「美顔器を買う」と言い出したのだ。その時母がいくつだったかは覚えていないが、多分40ぐらいにはなってたんじゃないかと思う。

当時はなぜ母上がそんな気になったかナゾだったが今ならわかる。多分その美顔器を見て「これを使えば生まれ変われる」と思ってしまったのだろう。世の中には、これを使えば女は生まれ変われるグッズにあふれている。それは化粧品だったりエステだったりするが、そういう物を見つけては、生まれ変わろうと金を出してしまうのである。

そして、それは、結婚しようが子どもがいようが、40過ぎていようが関係ない、ということを母上の行動は如実に表していた。その美顔器がいくらだったかは知らないが、購入前に父親ともめていたからかなり高価なものだったのだろう。その時私がどういう行動に出たかというと「異常なほど母親の肩を持った」のである。

しかも「高い化粧品を買い続けるより、美顔器を買った方が将来的に得だよ」等、妙に合理的に父を説得しようとしていた。私のアシストが関係あったかはわからないが、美顔器は無事購入されることになったのだが、なぜあの時、あんなにも母の味方になったかというと、多分将来の自分を自己弁護していたのではないかと思う。

私はまだ、その時の母の年には行っていないし、正直もう美容などどうでもいいと思っているのだが、多分母もその時までそう思っていたのかもしれない。だが突然その美顔器に出会って思い立ってしまったのだ。

よって私もこれから「思い立つ日」がおそらくやってくるのだ。その日の自分を想定して母を弁護したのではないかと思う。

ちなみに、その美顔器はしばらく使われていたが、その内、高級小物置きになった。つまり思い立った結果がどうなるかまで母は示しているのだが、それでも私は今後同じことをするだろう。違うところは多々あるが、やはり母娘なのだ。

しかし、私と母の最大の違いは、私は夫に無許可で勝手に買うだろうということである。

<作者プロフィール>
カレー沢薫
漫画家・コラムニスト。1982年生まれ。会社員として働きながら二足のわらじで執筆活動を行う。
デビュー作「クレムリン」(2009年)以降、「国家の猫ムラヤマ」、「バイトのコーメイくん」、「アンモラル・カスタマイズZ」(いずれも2012年)、「ニコニコはんしょくアクマ」(2013年)、「負ける技術」(2014年、文庫版2015年)、Web連載漫画「ヤリへん」(2015年)など切れ味鋭い作品を次々と生み出す。「やわらかい。課長起田総司」単行本は全三巻発売中。