二次元最高。

そう断言できる毎日だ。ブラウザゲーム「刀剣乱舞」で「へし切長谷部 極」を迎えてから特にそう思う。二の腕にこの5文字を彫ってもいいぐらいである。

「俺の推しに奥行きはいらない」

3D技術が発達しようと、VRが登場しようと、未だその考えは覆されてはいない。立体的なのも悪くはないが、「やはり平面に描かれている推しが1番カッコイイ」と思っている。

しかし、信じられないことにそれを鑑賞している自分に奥行きがあるのだ。深淵を覗いている時は、こっちも深淵にも覗かれているというのなら、二次元を凝視しているときは、こっちも二次元になっていてしかるべきである。それにもかかわらず、こちらは三次元のままというクソ仕様なのだ。

つまり、我々は二次元になれないので、二次元の中で生きることもできない。リアルど根性ガエルを試してみても、ただのグロ画像になるだけだ。

よって、我々は立体であるが故に立体の中でしか生きられない。まず、住んでいる家からして立体の建築物だ。ダンボールやブルーシートは平面だと言われるかもしれないが、それらを使って作った家はやはり立体物である。そういう家すらないという場合でも、立体的なファーストフード店の100円コーヒーなどで朝まで粘れる。

立体建築物というのは、奥行きや高さがあるため、適当に作ると大惨事を招きかねない。ダンボールハウスならセンスだけで作られていても仕方ないかもしれないが、金を払って1年以上住む予定の家なら、アドリブではなく、あらかじめ書いた設計図を元に、耐震強度とかいろいろ考えてから建てられた家に住みたい、と考えるのが普通だ。

その「いろいろ考えてから建てる」工程も進化している。それが今回のテーマ「BIM」だ。

「最初から三次元」なのがBIM

BIM(ビー・アイ・エム)ことBuilding Information Modeling(ビルディング インフォメーション モデリング)は、建物のライフサイクルにおいてそのデータを構築管理するための工程である。典型的には、3次元のリアルタイムでダイナミックなモデリングソフトウェアを使用して建物設計および建設の生産性を向上させる。この工程でBIMデータを作成し、そこには建物形状、空間関係、地理情報、建物部材の数量や特性が含まれる(引用:「BIM」『フリー百科事典 ウィキペディア日本語版』2017年11月20日 (月) 17:00)

おそらく、これで意味がわかる人のほうが少ないと思う。しかし、他のBIMを説明しているサイトにすら、「BIMには一言で説明しきれないさまざまな要素があります」と書かれているぐらいだ。説明する側が「どう説明していいかわからねえ」と言っているなら、こちらも安心して「説明されてもわからん」と言うことができる。

まず、BIM最大の特徴は「最初から三次元」という点だ。もちろんぶっつけ本番で施工に入るというダンボールハウススタイルではない。今までは設計図(二次元)から三次元のモデルを立ち上げていたが、BIMの場合、最初からコンピューター上で3Dのモデルを作成していく。そして、そのBIMモデルから逆に平面図や断面図を切り出し、2D図面を作成することができるのだ。

また形状だけではなく、その部分は壁なのか建具なのか、またはダンボールか、などの「属性情報」を持たせることにより、材料集計などの数量データも算出可能だという。

また、その建物が何もない亜空間に建つということは希で、ほとんどが地球上のどこかに建つことになる。当然場所によって、気温、湿度、日当たりなどが違うし、群馬なら風や不思議な力の影響もあるだろう。

BIMなら、建物が環境によりどのような影響を受けるか事前にシミュレーションすることも可能であり、それによって材料を決められる。あるいは、どう頑張っても不思議な力に建物が耐えられないという結果が出れば、建てる前に取りやめることもできる。

またBIMの大きなメリットとして、すべての情報が統合されているので、それを共有すれば業務がスピーディかつ正確に行える、という点がある。

今まで、建物の設計から施工までにはさまざまなソフトウエアが使われていて、情報が分断されていた。そのため、設計の段階ではビジネスホテルだったが、完成時にはラブホテルになっていた、という間違いが起こることもなきにしもあらず、だったかもしれない。

しかし、BIMの場合は、最初から最後まで、どこの工程の人間も同じデータを見るため、情報もイメージも共有しやすい。その中にどうしてもラブホを作りたいという人間が混ざっていなければ、間違いなく、全員がイメージした通りのビジホが建つはずである。

こうして見てみると、良いところだらけのBIMだ。しかし、これにも大きな欠点がある。

施主から下請けまで、建築にかかわるすべての会社がBIMシステムを持っている、ということがほぼないのだ。

我々が「データ送ったから見といて」と言われても、そのデータを開けるソフトを持っていなければ見られないのと同じである。俺たちのJPEG、またはExcel、Wordのデータが開けない企業はほぼ皆無だろう。しかし、BIMシステムを入れている会社はまだ少なく、それを導入するのにまずコストがかかるため、日本ではBIMの普及が遅れているそうだ。

おもしろい対戦ゲームを買ったのに、同じゲームを持っている友達がいない。もしくは、友達自体がいない。そんな物悲しい状況である。


<作者プロフィール>
カレー沢薫
漫画家・コラムニスト。1982年生まれ。会社員として働きながら二足のわらじで執筆活動を行う。デビュー作「クレムリン」(2009年)以降、「国家の猫ムラヤマ」、「バイトのコーメイくん」、「アンモラル・カスタマイズZ」(いずれも2012年)、「ニコニコはんしょくアクマ」(2013年)、「やわらかい。課長起田総司」(2015年)、「ねこもくわない」(2016年)。コラム集「負ける技術」(2014年、文庫版2015年)、Web連載漫画「ヤリへん」(2015年~)、コラム集「ブス図鑑」(2016年)など切れ味鋭い作品を次々と生み出す。本連載を文庫化した「もっと負ける技術 カレー沢薫の日常と退廃」は、講談社文庫より絶賛発売中。

「兼業まんがクリエイター・カレー沢薫の日常と退廃」、次回は2017年11月28日(火)掲載予定です。