このITコラムを長く続けてきてわかったことは、ネットをパソコンやスマホなどの電子機器のみにつないでいるというのはIT北京原人のすることであり、これからはエブリシングネットにつないでいくべき。ただし、人間は除く。あいつらにつないでも特にいいことはない、ということである。それが「IoT(モノのインターネット)」だ。

モノにはいろいろあるが、その代表格のひとつが「車」であり、すでに「コネクテッドカー」と呼ばれる、インターネットへの常時接続機能がついた車が開発されている。

交通事故の要因というのは、車体の不具合もあろうが、大体が人為的ミスである。よって事故を減らすためには、いかに人間の手数を減らし、車の方が勝手にやってくれるようになるかにかかっている。いずれ実現するであろう自動運転化に向けて、いまさまざまなアップが始められているのだ。

今回のテーマ「V2X」も、コネクテッドカーの一味と言える。

今、ここの情報をやりとりするV2X

V2X(Vehicle to Everything、車車間・路車間通信)は、自動車と他の自動車の間(V2V:Vehicle to Vehicle、車車間)、あるいは自動車と信号機や道路標識などのインフラV2I:Vehicle to Infrastructure、路車間)がクラウドを通さずに直接に相互通信することによって、自動車事故や渋滞を低減することを目的とした無線通信システム(ルネサス Webサイトより)

未だかつてなく目が滑る説明だ。

クラウド(これだけIT連載を続けても未だにFF7の方が先に思い浮かぶ)と呼ばれる、ここではないどこかにある情報群にアクセスして情報を得るのも大事だが、事件も事故もここではないどこかではなく、現場で起こっているのだ。

つまり、事故が起きるとしたら、現場は今走っている道路で、相手は前や後ろ、対向車線を走っている車である。つまり、遠くにある情報ではなく、今まさに前を走っている車や近くにある道路標識と情報をやりとりするのがV2Xである。 人間が全然気づいていない危機を、車同士が察知して運転者に注意を喚起したり、自動的に回避できるようにしてくれたりするのだという。

通信相手は車だけではない。落石注意などの標識があれば、運転者が見落としていても「落石に気をつけろ」と、どう気をつけたらいいかは別として、とりあえず警告はしてくれるのだ。

常に注意力を持て、漫然と運転するのは良くないと言われても、こちらは毎日同じ時間に、同じ道で、同じ会社に向かっているのだ。惰性で運転するなと言う方が無理である。会社についてからも漫然としているぐらいだ。

そのように運転者の注意力に限界がある以上、車同士が勝手に話をつけて、気を利かせてくれるというのは頼もしいことではある。

しかし、このV2Xは自分の車がV2X機能搭載で、周りの車もV2X車じゃないと意味がないのではないだろうか。こっちが「LINE交換しようぜ」と言っても、相手が「ガラケーなんで」と返してきたらそこで終わってしまうのと同じである。

V2Xが最高のパフォーマンスで機能するには、走っている車が全部V2X機能つきになるのが好ましいのだろうが、おそらく全車標準装備、となるまでには相当時間がかかるはずだ。

それまでは、機能がついている車と、ついてない車が売られることになると思うが、つけるかどうかを選ぶのが「人間」というのが大問題だ。

おそらく私がディーラーに「このV2Xという機能をつければすごく安全になります」と言われても、「高くなるならいらない」と言ってしまうだろう。

安全性というのは、かかる費用を差し置いても大事なことである。むしろ金が惜しいなら、事故らないために安全性を高める機能を搭載すべきだろう。それにもかかわらず何故つけないかというと、「自分は事故らない」と慢心しているからだ。

つまり、危機意識が低い奴ほど、車にも危機対策をしない。よって、意識が高い人が安全性の高い車に乗ってくれても、意識の低い人間が安全性の低い車に乗って走り回るため、V2Xが真価を発揮できないという可能性が十分あり得る。

V2Xに関わらず技術は高まる一方だが、人間の意識、またはそれを使えるだけの経済力がまったくついていけてねえ、という事態は多く見てきた。選ばれし人間しか使えない技術では意味がない。

本当に交通安全を実現したかったら、安全に関わる機能は「全車全プレ」、運営の詫び石がごとく無差別に配るくらいでよいのではないだろうか。


<作者プロフィール>
カレー沢薫
漫画家・コラムニスト。1982年生まれ。会社員として働きながら二足のわらじで執筆活動を行う。デビュー作「クレムリン」(2009年)以降、「国家の猫ムラヤマ」、「バイトのコーメイくん」、「アンモラル・カスタマイズZ」(いずれも2012年)、「ニコニコはんしょくアクマ」(2013年)、「やわらかい。課長起田総司」(2015年)、「ねこもくわない」(2016年)。コラム集「負ける技術」(2014年、文庫版2015年)、Web連載漫画「ヤリへん」(2015年~)、コラム集「ブス図鑑」(2016年)など切れ味鋭い作品を次々と生み出す。本連載を文庫化した「もっと負ける技術 カレー沢薫の日常と退廃」は、講談社文庫より絶賛発売中。

「兼業まんがクリエイター・カレー沢薫の日常と退廃」、次回は2017年11月14日(火)掲載予定です。