【コラム】

兼業まんがクリエイター・カレー沢薫の日常と退廃

135 連続特集・カレー沢薫と「IT用語」(75)V2X

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このITコラムを長く続けてきてわかったことは、ネットをパソコンやスマホなどの電子機器のみにつないでいるというのはIT北京原人のすることであり、これからはエブリシングネットにつないでいくべき。ただし、人間は除く。あいつらにつないでも特にいいことはない、ということである。それが「IoT(モノのインターネット)」だ。

モノにはいろいろあるが、その代表格のひとつが「車」であり、すでに「コネクテッドカー」と呼ばれる、インターネットへの常時接続機能がついた車が開発されている。

交通事故の要因というのは、車体の不具合もあろうが、大体が人為的ミスである。よって事故を減らすためには、いかに人間の手数を減らし、車の方が勝手にやってくれるようになるかにかかっている。いずれ実現するであろう自動運転化に向けて、いまさまざまなアップが始められているのだ。

今回のテーマ「V2X」も、コネクテッドカーの一味と言える。

今、ここの情報をやりとりするV2X

V2X(Vehicle to Everything、車車間・路車間通信)は、自動車と他の自動車の間(V2V:Vehicle to Vehicle、車車間)、あるいは自動車と信号機や道路標識などのインフラV2I:Vehicle to Infrastructure、路車間)がクラウドを通さずに直接に相互通信することによって、自動車事故や渋滞を低減することを目的とした無線通信システム(ルネサス Webサイトより)

未だかつてなく目が滑る説明だ。

クラウド(これだけIT連載を続けても未だにFF7の方が先に思い浮かぶ)と呼ばれる、ここではないどこかにある情報群にアクセスして情報を得るのも大事だが、事件も事故もここではないどこかではなく、現場で起こっているのだ。

つまり、事故が起きるとしたら、現場は今走っている道路で、相手は前や後ろ、対向車線を走っている車である。つまり、遠くにある情報ではなく、今まさに前を走っている車や近くにある道路標識と情報をやりとりするのがV2Xである。 人間が全然気づいていない危機を、車同士が察知して運転者に注意を喚起したり、自動的に回避できるようにしてくれたりするのだという。

通信相手は車だけではない。落石注意などの標識があれば、運転者が見落としていても「落石に気をつけろ」と、どう気をつけたらいいかは別として、とりあえず警告はしてくれるのだ。

常に注意力を持て、漫然と運転するのは良くないと言われても、こちらは毎日同じ時間に、同じ道で、同じ会社に向かっているのだ。惰性で運転するなと言う方が無理である。会社についてからも漫然としているぐらいだ。

そのように運転者の注意力に限界がある以上、車同士が勝手に話をつけて、気を利かせてくれるというのは頼もしいことではある。

しかし、このV2Xは自分の車がV2X機能搭載で、周りの車もV2X車じゃないと意味がないのではないだろうか。こっちが「LINE交換しようぜ」と言っても、相手が「ガラケーなんで」と返してきたらそこで終わってしまうのと同じである。

V2Xが最高のパフォーマンスで機能するには、走っている車が全部V2X機能つきになるのが好ましいのだろうが、おそらく全車標準装備、となるまでには相当時間がかかるはずだ。

それまでは、機能がついている車と、ついてない車が売られることになると思うが、つけるかどうかを選ぶのが「人間」というのが大問題だ。

おそらく私がディーラーに「このV2Xという機能をつければすごく安全になります」と言われても、「高くなるならいらない」と言ってしまうだろう。

安全性というのは、かかる費用を差し置いても大事なことである。むしろ金が惜しいなら、事故らないために安全性を高める機能を搭載すべきだろう。それにもかかわらず何故つけないかというと、「自分は事故らない」と慢心しているからだ。

つまり、危機意識が低い奴ほど、車にも危機対策をしない。よって、意識が高い人が安全性の高い車に乗ってくれても、意識の低い人間が安全性の低い車に乗って走り回るため、V2Xが真価を発揮できないという可能性が十分あり得る。

V2Xに関わらず技術は高まる一方だが、人間の意識、またはそれを使えるだけの経済力がまったくついていけてねえ、という事態は多く見てきた。選ばれし人間しか使えない技術では意味がない。

本当に交通安全を実現したかったら、安全に関わる機能は「全車全プレ」、運営の詫び石がごとく無差別に配るくらいでよいのではないだろうか。


<作者プロフィール>
カレー沢薫
漫画家・コラムニスト。1982年生まれ。会社員として働きながら二足のわらじで執筆活動を行う。デビュー作「クレムリン」(2009年)以降、「国家の猫ムラヤマ」、「バイトのコーメイくん」、「アンモラル・カスタマイズZ」(いずれも2012年)、「ニコニコはんしょくアクマ」(2013年)、「やわらかい。課長起田総司」(2015年)、「ねこもくわない」(2016年)。コラム集「負ける技術」(2014年、文庫版2015年)、Web連載漫画「ヤリへん」(2015年~)、コラム集「ブス図鑑」(2016年)など切れ味鋭い作品を次々と生み出す。本連載を文庫化した「もっと負ける技術 カレー沢薫の日常と退廃」は、講談社文庫より絶賛発売中。

「兼業まんがクリエイター・カレー沢薫の日常と退廃」、次回は2017年11月14日(火)掲載予定です。

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インデックス

連載目次
第137回 連続特集・カレー沢薫と「IT用語」(77)BIM
第136回 連続特集・カレー沢薫と「IT用語」(76)ファイアウォール
第135回 連続特集・カレー沢薫と「IT用語」(75)V2X
第134回 連続特集・カレー沢薫と「IT用語」(74)フリーミアム
第133回 連続特集・カレー沢薫と「IT用語」(73)タンジブル
第132回 連続特集・カレー沢薫と「IT用語」(72)HTML5
第131回 連続特集・カレー沢薫と「IT用語」(71)Flash
第130回 連続特集・カレー沢薫と「IT用語」(70)PoC
第129回 連続特集・カレー沢薫と「IT用語」(69)UI/UX
第128回 連続特集・カレー沢薫と「IT用語」(68)MVNO
第127回 連続特集・カレー沢薫と「IT用語」(67)GUI
第126回 連続特集・カレー沢薫と「IT用語」(66)USB Type-C
第125回 連続特集・カレー沢薫と「IT用語」(65)サーバ
第124回 連続特集・カレー沢薫と「IT用語」(64)デジタルツイン
第123回 連続特集・カレー沢薫と「IT用語」(63)半導体
第122回 連続特集・カレー沢薫と「IT用語」(62)IIoT
第121回 連続特集・カレー沢薫と「IT用語」(61)ADAS
第120回 連続特集・カレー沢薫と「IT用語」(60)アディティブ・マニュファクチャリング
第119回 連続特集・カレー沢薫と「IT用語」(59)LPWA
第118回 連続特集・カレー沢薫と「IT用語」(58)ディスラプティブ・イノベーション
第117回 連続特集・カレー沢薫と「IT用語」(57)HEMS
第116回 連続特集・カレー沢薫と「IT用語」(56)ニューロモルフィックコンピューティング
第115回 連続特集・カレー沢薫と「IT用語」(55)M2M
第114回 連続特集・カレー沢薫と「IT用語」(54)MR
第113回 連続特集・カレー沢薫と「IT用語」(53)シンギュラリティ
第112回 連続特集・カレー沢薫と「IT用語」(52)Society5.0
第111回 連続特集・カレー沢薫と「IT用語」(51)Industry 4.0
第110回 連続特集・カレー沢薫と「IT用語」(50)CPS
第109回 連続特集・カレー沢薫と「IT用語」(49)3Dプリンタ
第108回 連続特集・カレー沢薫と「IT用語」(48)CPU
第107回 連続特集・カレー沢薫と「IT用語」(47)e-文書法
第106回 連続特集・カレー沢薫と「IT用語」(46)CGM
第105回 連続特集・カレー沢薫と「IT用語」(45)MFP
第104回 連続特集・カレー沢薫と「IT用語」(44)チャットボット
第103回 連続特集・カレー沢薫と「IT用語」(43)メッセンジャー
第102回 連続特集・カレー沢薫と「IT用語」(42)PLM
第101回 連続特集・カレー沢薫と「IT用語」(41)CAD
第100回 100回にわたる連載を振り返って
第99回 連続特集・カレー沢薫と「IT用語」(40)モバイルペイメント
第98回 連続特集・カレー沢薫と「IT用語」(39)ダークネット
第97回 連続特集・カレー沢薫と「IT用語」(38)IPアドレス
第96回 連続特集・カレー沢薫と「IT用語」(37)JPEG
第95回 連続特集・カレー沢薫と「IT用語」(36)SCM
第94回 連続特集・カレー沢薫と「IT用語」(35)コグニティブ
第93回 連続特集・カレー沢薫と「IT用語」(34)ハプティック
第92回 連続特集・カレー沢薫と「IT用語」(33) 会話型UI
第91回 連続特集・カレー沢薫と「IT用語」(32) APT
第90回 連続特集・カレー沢薫と「IT用語」(31) 4K・8K
第89回 連続特集・カレー沢薫と「IT用語」(30) コネクテッドカー
第88回 連続特集・カレー沢薫と「IT用語」(29) ビーコン
第87回 連続特集・カレー沢薫と「IT用語」(28) ゼロデイアタック
第86回 連続特集・カレー沢薫と「IT用語」(27) 生体認証
第85回 連続特集・カレー沢薫と「IT用語」(26)CPM
第84回 連続特集・カレー沢薫と「IT用語」(25)NAS
第83回 連続特集・カレー沢薫と「IT用語」(24)デジタルサイネージ
第82回 連続特集・カレー沢薫と「IT用語」(23)テキストマイニング
第81回 連続特集・カレー沢薫と「IT用語」(22)ファビコン
第80回 連続特集・カレー沢薫と「IT用語」(21)ERP
第79回 連続特集・カレー沢薫と「IT用語」(20) オンデマンド
第78回 連続特集・カレー沢薫と「IT用語」(19) VoIP
第77回 連続特集・カレー沢薫と「IT用語」(18) ディープラーニング
第76回 連続特集・カレー沢薫と「IT用語」(17) テレワーク
第75回 連続特集・カレー沢薫と「IT用語」(16) 5G
第74回 連続特集・カレー沢薫と「IT用語」(15) O2O2O
第73回 連続特集・カレー沢薫と「IT用語」(14)SaaS
第72回 連続特集・カレー沢薫と「IT用語」(13)シングルサインオン
第71回 連続特集・カレー沢薫と「IT用語」(12)オムニチャネル
第70回 連続特集・カレー沢薫と「IT用語」(11)ユビキタス
第69回 連続特集・カレー沢薫と「IT用語」(10)ホワイトハッカー
第68回 連続特集・カレー沢薫と「IT用語」(9)ビッグデータ
第67回 連続特集・カレー沢薫と「IT用語」(8)ランサムウェア
第66回 連続特集・カレー沢薫と「IT用語」(7)クラウド
第65回 連続特集・カレー沢薫と「IT用語」(6)ドローン
第64回 連続特集・カレー沢薫と「IT用語」(5)人工知能
第63回 連続特集・カレー沢薫と「IT用語」(4)マルウェア
第62回 連続特集・カレー沢薫と「IT用語」(3)FinTech(フィンテック)
第61回 連続特集・カレー沢薫と「IT用語」(2)VR
第60回 連続特集・カレー沢薫と「IT用語」(1)IoT
第59回 mixi時代のリア充アピールと「消灯」
第58回 春の花粉症と個々人の「体質」
第57回 飲み会に誘われた→たたかう、にげる?
第56回 SNS疲れと「インターネット上の友達」
第55回 カレー沢流・「真の親孝行」と「かんぴょう巻」
第54回 地方在住のオタクと「ガンジス川のまんじゅう」
第53回 カレー沢薫が激賞する「別腹で食べるべきスイーツ」
第52回 カレー沢薫、「ゆとり」「さとり」を語る
第51回 もしカレー沢薫の作品がアニメ/実写化したら
第50回 兼業漫画家が語る「健康法」と「クソゲー」
第49回 安直?楽勝?作家から見た「過去のヒット作のリバイバル」
第48回 兼業作家とマイナンバー
第47回 デザインを学んだカレー沢薫の「卒論」
第46回 カレー沢薫が「最後の晩餐に食べたい」一品
第45回 オタクがオタクであり続ける理由
第44回 漫画家・カレー沢薫がはじめてコラムを書いた日
第43回 カレー沢暴力からの卒業
第42回 兼業漫画家と女の「諦め」
第41回 カレー沢暴力(薫)が語る、「お断り」な仕事の依頼
第40回 女が「美」を希求する理由、そして“ありのまま”の罠
第39回 上京の旅路のロハスな過ごし方
第38回 酒もたばこもやらない兼業漫画家が愛する「嗜好品」
第37回 兼業漫画家と怒りの賢者モード
第36回 福山雅治の結婚と「公式設定」
第35回 もし「カレー沢薫」が改名するとしたら?
第34回 漫画家デビューしたいなら、まず石油王になってから
第33回 猫もまたいで通る「老後」の話
第32回 兼業漫画家が考える、「前の作風の方がよかった」と言われた時の対処法
第31回 カレー沢薫が偏愛する、ある猫の物語
第30回 「結婚すればリア充」なのか? 非リア充/リア充の境界線
第29回 猫派の兼業漫画家、「犬」を語る
第28回 漫画家の仕事をクールに演出する「作業用ドリンク」
第27回 続・「カレー沢薫先生サイン会」の開催動機
第26回 兼業漫画家の「作業用BGM」
第25回 カレー沢薫が語る「恋愛」~壁ドンは本当にときめくのか~
第24回 兼業漫画家とLINEスタンプ
第23回 兼業漫画家に学ぶタスク管理の極意
第22回 酒やたばこより健康を害する、たったひとつの事柄
第21回 兼業漫画家の「夏の風物詩」
第20回 漫画家の夫になるということ(あるいは、夫婦が暮らすということ)
第19回 漫画家という職業選択と親心
第18回 二次創作の醍醐味と争いを生まないための「注意」
第17回 漫画家・カレー沢薫が語る「アイデアのつくり方」
第16回 猫よ、人の望みの喜びよ
第15回 カレー沢薫というペンネームを生んだ「病」
第14回 コミュ障界の石川五ェ門が人間観察をしない理由
第13回 「カレー沢薫先生サイン会」の開催動機
第12回 兼業漫画家の美容意識と"オタクの美醜"
第11回 あなたは米に「萌え」られるか
第10回 健康で文化的な兼業漫画家の生活
第9回 漫画家の絵の上達と「オウンゴール」
第8回 漫画家の夫をめぐる「傾向」と「受難」
第7回 カレー沢薫の華麗なる交友関係
第6回 漫画家は怒り、編集者はスコップを持つ
第5回 兼業漫画家は"大平原"の夢を見るか
第4回 カレー沢流・漫画制作におけるライフハック
第3回 "兼業まんがクリエイター"の日常を徹底解剖
第2回 確定申告、その経費と内訳~カレー沢薫の場合~
第1回 "漫画を描かない漫画家志望"がデビューするまで

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