今回のテーマは「MVNO」だ。

その前に、これを読んでいる多くの皆様が、スマホや携帯電話を所持しているか、はんぺんをスマホだと言い張って生活していると思う。ではそのスマホはどこの会社のものだろうか。

「紀文」だ、という場合、それははんぺんだと思うが、それ以外の人は大体「au」「docomo」「SoftBank」という、いわゆる三大キャリアのものだと思う。

しかし、中には「三大キャリアを使うのは情弱のすること」「三大キャリア所持が許されるのは小学生まで」という意識かどうかは知らないが、それ以外の会社のものを使っている人もいるだろう。

「MVNO」とは「それ以外」の総称である。

脱サラ・そば屋感覚では難しいMVNO

MVNO(Mobile Virtual Network Operator) 仮想移動体通信事業者
MVNOとは、携帯電話などの無線通信インフラを他社から借り受けてサービスを提供している事業者のこと。「仮想移動体サービス事業者」とも訳される。無線通信サービスの免許を受けられるのは国ごとに3~4社程度しかないが、免許を受けた事業者の設備を利用することで、免許のない事業者も無線通信サービスを提供することが可能になる。(IT用語辞典 e-Wordsより抜粋)

上に書いてある通り、無線通信サービスの免許を持っている会社は国ごとに3~4社しかなく、日本で言えば「au」「docomo」「SoftBank」だ。

では何でそれしかないかと言うと、免許を取るのも大変だが、通信設備の設置に莫大な費用がかかるからである。つまり「脱サラして無線通信会社を始める」などという、そば屋やカフェ感覚ではとても無理なのだ。

よって我々は、莫大な費用をかけることができた3社から1社を選び、その会社が莫大な費用をかけて設置した通信網を使って、通話やソシャゲなどをしているのである。つまり、「au」を選んだら使える通信網は「au」の物のみとなる。

では、免許も通信網も持たない「MVNO」の機器はどうやって通信をしているのか。通信していると思っているのは本人だけで、はんぺんに話しかけているだけか、そういう意味での「仮想」か、と思うかもしれないが、簡単に言うと三大キャリアの通信網を借りているのだ。

結局使うのが三大キャリアの通信網なら、「MVNO」を使うメリットはどこにあるのかというと、他人と違う自分の演出、というわけではない。端末と通信網がニコイチになっていないので、SIMフリーのスマホを用意すればどの会社の回線でも使える。また、旅先でもスマホ用SIMを買って挿せば使えるので、海外旅行によく行く人にとっては大変便利だということだ。

そして何より3大キャリアより安いというメリットがある。なんで安いのかと言うと、まず「MVNO」は通信会社からまとまった回線を借りて、その利用権を多くの人に分割して販売することにより利益を出しているからだ。多くの場合1GBから契約できて、LINEやTwitterなど特定のサービスの通信量はどれだけ使ってもゼロとみなすMVNOなども登場しており、選択の幅もいろいろとあるらしい。

MVNOを検討する前に確認すべきこと

良い事だらけのように見えるが、もちろんデメリットもある。一定の通信量を超えると速度が遅くなったり、規定量を超えると追加料金が発生したりするそうだ。大手キャリアの「とりあえずこのコースに入っていれば、いくら使っても定額です」みたいなコースに諾々と入っている人間には向かない気がする。(編集注:MVNOにも少数ながら使い放題プランは存在します)

また店舗が少ない、もしくはない、という問題もある。三大キャリアの営業所はどこにでもあるだろう、私の村にもあるぐらいだから、都会なら1メートルごとにあると言っても過言ではない。何か不具合があれば、すぐ店舗に行けばいい。auのスマホをdocomoに持ち込まない限りは対応してもらえるだろう。

逆に店舗がないと、困ったとき駆け込む先がないのだ。

先日、夫のiPhoneのイヤホンが壊れ、それを買ったauショップに行ったのだが、それだったらアップルストアに行った方が早いですと言われ、最寄りのアップルストアを調べてもらったのだが、その結果「隣県」という答えがでた。まったく最寄っていない。どうやら我が県にはアップルストアが存在しなかったようだ。結局取り寄せという形になり、相当時間がかかってしまった。

iPhoneでこの始末である。「MVNO」を選んでしまったら、最寄りの店舗が飛行機圏内にしかない、という事態は十分ありえる。そもそも店舗がないから、「MVNO」を使い始めることさえ不可能かもしれない。

ともかく、困ったときに駆け込める店舗が多い方が便利に決まっているし、サポート自体、やはり大手の方が手厚いのだ。今のところ「MVNO」は、多少の疑問は自分で解決できる玄人向けであり、何も解決できないし、する気もない人間は多少割高でも、今までどおり三大キャリアを使ったほうが無難である。

またそういうタイプは店員の説明をろくに聞かず、うなずいているうちにいらないオプションがついている場合も多いので、「MVNO」に変えるよりまず「店員の話をよく聞く」ことで料金がかなり下がったりするのである。


<作者プロフィール>
カレー沢薫
漫画家・コラムニスト。1982年生まれ。会社員として働きながら二足のわらじで執筆活動を行う。デビュー作「クレムリン」(2009年)以降、「国家の猫ムラヤマ」、「バイトのコーメイくん」、「アンモラル・カスタマイズZ」(いずれも2012年)、「ニコニコはんしょくアクマ」(2013年)、「やわらかい。課長起田総司」(2015年)、「ねこもくわない」(2016年)。コラム集「負ける技術」(2014年、文庫版2015年)、Web連載漫画「ヤリへん」(2015年~)、コラム集「ブス図鑑」(2016年)など切れ味鋭い作品を次々と生み出す。本連載を文庫化した「もっと負ける技術 カレー沢薫の日常と退廃」は、講談社文庫より絶賛発売中。

「兼業まんがクリエイター・カレー沢薫の日常と退廃」、次回は2017年9月26日(火)掲載予定です。