今回のテーマは「ニューロモルフィックコンピューティング」だ。

こういうのはアルファベット3文字に略してやってくるのが今までのパターンだったので、「なんで今回だけそのままで来たん?」というのが最初の感想だ。

もしかして3文字に略したら、何かの隠語になってしまうのか、と色々略してみたが、そんなこともなかったので謎は深まるばかりである。隠語になるパターンを見つけたという方はご一報いただきたい。ダ・ヴィンチコードを解くより重要な話である。

人間の脳がコンピュータより優れているところ

「ニューロモルフィックコンピューティング」、今まで3文字の略語にムカつき続けてきたが、単語が長くてもムカつくということが判明した。毎日が発見の連続だ。その名の通りコンピュータのことだが、どのようなコンピュータかというと、人間の脳を模したコンピュータのことである。

悪いことは言わないからやめておけよ、と人間の脳を持つ者として思うが、前に何かのテーマで(これが思い出せない時点でたかが知れている気がする)人間の脳は実はすごく優秀なのだという話をしたような気がしなくもない錯覚がする、と私の優秀な脳が言っている。(参考:カレー沢薫とIT用語(35) コグニティブ)

では、人間の脳のどこが、わざわざコンピュータに真似させるほど優秀かと言うと、まずデザインではない、デザインが最高という話なら「脳チラ見せスタイル」とかが女性誌を席巻するはずだ。

デザインはどうでも良いとしても、そのサイズは注目に値するらしい。まず、頭に納まるサイズだ。どれだけ顔がでかくても、ドアに突っかかって部屋に入れないほどデカイということはないだろう。脳というのはその能力や容量に対し、驚くほどコンパクトなのだという。

確かに、先日何かのテーマで(これも思い出せない)容量のデカイPCを買ったら、PC自体がでかく、さらに音がうるさい、という話をしたと思う。もしも自分の頭が、今私の使っているPCぐらいのでかさ、重さ、うるささ、だったら、まっすぐ歩けないし、騒音問題に発展する。(参考:カレー沢薫とIT用語(48) CPU)

また、脳は非常に省エネだという。確かに、我々の頭は1日3回の食事と数時間の睡眠で動くし、それらを一切与えなくても、しばらくは動く。これが1日48時間の睡眠と、牛一頭食べないと動かない、となったら、まず牛にとって迷惑だし、効率的とも言えない。

さらに、脳は同時にいくつものタスクを処理する能力がある。確かに私も、音楽を聞きながら原稿を描き、さらにソシャゲの操作をし、冷蔵庫に食い物を取りに行って戻ったら、何をやっていたか全部忘れる、というように、いくつものタスクを連日同時に行っている。

これは忘れっぽいというわけではなく、私の脳はデリート機能が得意、ということだろう。このように、高性能かつ、コンパクト、さらに省エネという、真似しない方がおかしい機能を、我々は生まれつき搭載しているのである。

脳だけでなく、二足歩行ですら、ロボットにさせようとしたら大変なことなのだ。人間は機能的に存在するだけでも奇跡と言って過言ではないはずなのに、何故そこをもっと褒めてもらえないのか不思議でならない。私に会った人は、今度から「存在しているから偉い」と褒めてほしい。

俺の考えた最強のニューロモルフィックコンピューティング

つまり、ニューロモルフィックコンピューティングは人間の脳の優れた部分を模したコンピュータであり、当然ポンコツなところまでは真似ないのだと思う。逆に言うと、人間の脳もポンコツ要素を取り除けば、ニューロモルフィックコンピューティングになれるのではないだろうか。

では、私がニューロモルフィックコンピューティングになろうと思ったらどうしたらよいだろうか。

まず、外側がいらないだろう。昨日から腹を盛大に下しているし、肩が痛い。そして、それを理由に全く仕事をしていないし、いつもの倍(14時間)寝ている。

そして何より、見た目が悪い。世の中には、見た目が良い外側に搭載されている脳もいるが、残念ながら私はそのタイプではない。むしろ、優秀なはずの脳をこんな容貌の、関節が悪くなっている外側に入れるのは無礼だ。ダイヤを雑巾で包むようなものであり、今すぐ、あのパカって開くビロードに包まれたケース(これも名前が出てこない)のような外側にいれてやるべきだろう。

というわけで、まず脳だけを取り出す、これでかなりニューロモルフィックコンピューティングになったと思う。だが、脳だけ単体で転がっていても、おそらく役には立たないだろう。少なくとも、脳の命令を受けて動く手足ぐらいはつけてやるべきかもしれない。だが、その手足も三日ぐらいで関節が痛み出すような気がしてならない。

何となく、銀河鉄道999の哲郎が機械の体を欲しがっていた理由がわかってきたような気がする。脳に関節が痛まない手足をくっつけた状態、それが俺の考えた最強のニューロモルフィックコンピューティングである。


<作者プロフィール>
カレー沢薫
漫画家・コラムニスト。1982年生まれ。会社員として働きながら二足のわらじで執筆活動を行う。デビュー作「クレムリン」(2009年)以降、「国家の猫ムラヤマ」、「バイトのコーメイくん」、「アンモラル・カスタマイズZ」(いずれも2012年)、「ニコニコはんしょくアクマ」(2013年)、「やわらかい。課長起田総司」(2015年)、「ねこもくわない」(2016年)。コラム集「負ける技術」(2014年、文庫版2015年)、Web連載漫画「ヤリへん」(2015年~)、コラム集「ブス図鑑」(2016年)など切れ味鋭い作品を次々と生み出す。本連載を文庫化した「もっと負ける技術 カレー沢薫の日常と退廃」は、講談社文庫より絶賛発売中。

「兼業まんがクリエイター・カレー沢薫の日常と退廃」、次回は2017年6月27日(火)掲載予定です。