今回のテーマは「M2M」だ。つまり、「すごくM」という意味だ。

「M」の内容は各自考えて欲しい。私の考えを書いても良いが、載せられないことを書くのはもう疲れた。

M2Mで「がん」の摘出に成功?

M2Mとはもちろん略語で、正式には「Machine to Machine」と書く。もしかして「to」と「2」をかけているのだろうか。これは大爆笑だ、この連載が始まって以来一番笑った。

私の人生がいかに笑顔の少ないものかわかってもらったところで、「Machine to Machine」の話をしたい。直訳すると「機械から機械」だ。そしてこれも、今IT業界で最もアツい「IoT」の一派と言っていい。

この連載で何回出てきても「IoT」が何だったか忘れることでお馴染みの読者&作者である(なのに「Information of TIMCO」の方は覚えている)ため、もう一度おさらいすると、IoTは「モノのインターネット」という意味だ。PC機器だけではなくありとあらゆるものをネットに繋げてしまおうという話である。

そしてM2Mも、Machine(モノ)にネットを繋ぐ、そして同じくネットに繋がったMachineと連携して動作を行うのだ。いままで間に人間が入っていたことを、完全に機械同士のやり取りで完結させるという点がM2M最大の特徴だ。

つまり、がんの摘出に成功したということである。「機械to人間to機械」で何か問題が起こったとしたら、大体原因は人間である。ただ、人間は「何もしてないのにこうなった」と主張するので(人間の中で「怪しげなセクシーサイトを見た」というのは「何」にカウントされない)原因不明なものはマシントラブルとされてきただけだ。

つまりトラブルというのは、できるだけ人間を排除した方が起こりにくいのだ。私も今すぐ私の仕事から私を取り除きたくてたまらない。大体、作家というのは、機械が勝手にやってくれる部分が少なすぎる。21世紀にもなってこんな仕事は他にない。

一刻も早く「機械to機械」で100万部売れる作品を作るシステムを作るべきだ。もちろん著者名だけは私にする。

機械と機械が仕事をすると、人間は…?

また、具体的に言うと、車の自動運転などにこの機能が使われる。ネットに繋がった車が同じく繋がった周囲の車と通信し、適切な車間距離をとったりするらしい。

自動運転と聞いたとき、機械が運転するなんて怖いと思ったが、よく考えたら機械より人間の方がよほど不安定である。体調も悪くなるし、失恋で自暴自棄になっている場合もあるかもしれない。そんな情緒不安定どもが運転している車がそこらへんを走り回ってるかと思うと、一歩も外に出たくなくなる。ともかく、人間が運転するより安全な自動運転システムは近いうちに開発されるだろう。

自動販売機にもすでにM2Mが使われているらしい。従来だと、自販機の在庫状況は、巡回者が見に行くまでわからなかった。しかしM2M搭載の自販機は、自分で在庫を管理し、そのデータを本部に送るのだ。これで、売り切れのまま放置されるという状況が回避される。

それで、在庫補充も自動的に行われるのか、というとそれはやはり人力らしい。しかし、事前に補充すべき物がわかるので手間が減るようだし、人間も優秀な機械様の指示で動けるなら、前よりやりがいがあるはずだ。

ともかく、機械だけのやりとりで仕事が完結するので、人間の手間が減る、そして企業側は人件費など大幅コストが削減できるということなのだろう。

だが、気になるのは、「機械to人間to機械」が「機械to機械」になったら、人間はどこに行くのだろうという点だ。遊んで暮らしていい、というなら良いが、やることがなくなる、つまり失職してしまうんじゃないだろうか。

もちろんM2Mだって、完全に機械だけで全部完結できるわけではないだろうから、「M2Mを管理する仕事」など新しい職業が生まれるのだろうが、今まで自販機の在庫管理をしていた人が、その仕事がいらなくなったからと言って、いきなりM2Mオペレーターになれるかと言ったらそう簡単ではないだろう。未経験の業種に転職するというのは大変なことであり、年をとればなおさらだ。

IoTなどの台頭で、世の中はもっと便利になっていくのであろうが、便利なサービスやシステムを享受するのに何がいるかというと、金である。その金を得るための仕事を失ってしまったら本末転倒である。そうなったら、便利な最新サービスどころか、衣食住など、もっとも原始的なものにも不自由することになってしまう。

機械主導で人間が働かなくて良い社会を作るなら、人間が働いて賃金を得ないでも暮らしていける社会も同時につくるべきだろう。何だったら、そのモニターとして立候補してもよい。


<作者プロフィール>
カレー沢薫
漫画家・コラムニスト。1982年生まれ。会社員として働きながら二足のわらじで執筆活動を行う。デビュー作「クレムリン」(2009年)以降、「国家の猫ムラヤマ」、「バイトのコーメイくん」、「アンモラル・カスタマイズZ」(いずれも2012年)、「ニコニコはんしょくアクマ」(2013年)、「やわらかい。課長起田総司」(2015年)、「ねこもくわない」(2016年)。コラム集「負ける技術」(2014年、文庫版2015年)、Web連載漫画「ヤリへん」(2015年~)、コラム集「ブス図鑑」(2016年)など切れ味鋭い作品を次々と生み出す。本連載を文庫化した「もっと負ける技術 カレー沢薫の日常と退廃」は、講談社文庫より絶賛発売中。

「兼業まんがクリエイター・カレー沢薫の日常と退廃」、次回は2017年6月20日(火)掲載予定です。