今回のテーマは「MR」だ。

脊髄反射で「な…なんだってー!」と言いたくなったが、すでにこのネタが通じる範囲が狭すぎる。よってこの話はここで終りだ、説明もしない。

VRブームとセクシー業界

「MR」はMixed Realityの頭文字らしい。どう考えても「VR」の手先だろう。そう思ったら、やはりその通りのようである。

「VR」は去年から今年にかけて、本当によく聞く用語だ。当コラムでももちろん取り上げたが、日本一表現規制がおおらか(個人の感想です)な一般青年誌でお馴染みの「週刊漫画ゴラク」で連載しているコラムでも、VRの記事を書いたことがある。

もちろん、ゴラクさんなので「ファンタジックな仮想現実の世界で大冒険」みたいなことは一切せず、アダルトVRの話を書いた。ある意味大冒険と言えなくもない。そう、VRはすでにセクシー業界にも殴りこんでいる。

むしろ、ビデオデッキしかり、インターネットしかり、新しい物が普及するかはセクシーにかかっていると言っても過言ではないので、殴りこまない方がおかしいのだ。

セクシーVRに関し、ゴラクでどのような記事を書いたかというと、ここでは一文字も載せられないのだが、実際にセクシーVRを体験した方の感想をマイナビコードに引っかからずに表現すると、「とてもいい」らしい。マイナビ読者はそのようなことに1ミリも関心がないとは思うが、機会があったら体験してみるといいだろう。

ともかく、マイナビからゴラクまでが取り上げるVRだ、もはや全世界が注目しているといっていい。知らないじゃ済まされない。

3つの●Rを徹底解説

ちなみに「VR」の仲間には「MR」の他に「AR」というものもある。3以上は「たくさん」なので、これ以上は増やさないでほしい。この3つは、現実と仮想現実の関係性によって区分されるようだ。

まず「VR」。これは一番「現実のことなど忘れてしまおうぜ」というやつである。現実とは全く切り離された、仮想空間をユーザーに見せる。現実は借家でも、目に写るのはベルサイユ宮殿とそこに佇むセクシー美女というわけだ。

次に「AR」は現実に仮想現実を重畳したものである。わかりやすい例で言うと「ポケモンGO」がARだ。プレイした人ならわかると思うが、あれはスマホ内に現実世界が映り、その上にポケモンキャラクターが存在するように表示される。つまり、現実に仮想現実を貼り付けたのが「AR」だ。

ちなみに私もポケモンGOは一応プレイしたが、光の速さでやめた。理由はいろいろあるが、一番の敗因は「外に出ないとこのゲームはつまらない」という点であろうか。私がゲームを愛する理由は「友達がいなくてもできる」「外に出なくていい」の2点だ。

そのうち一点を複数プレイゲームの台頭で蹂躙されたというのに、さらに外に出ろなど、というのはジェノサイドであり、ゲーム業界は私を殺しにかかっている。よって、私はその2点を忠実に守ってくれているソシャゲのガチャの方に財を投じているわけだ。

話はそれたが「AR」は「背景は自分が住んでいる借家なんだけど、その上にセクシー美女が存在しているように見える」というわけだ。

そして「MR」は、現実と仮想現実の融合である。「AR」と何が違うのかというと「AR」は本当に貼り付けただけで、現実世界に対する尺寸とか、距離感とかは考えられていない。ポケモンGOだったら、ポケモンの厳密な大きさなんかぱっと見でわからないので、ピカチュウがタバコと同じ大きさで表示されても大きな違和感はないだろう。だが、セクシー美女がそれでは嬉しさも半減だし、逆に身長3メートルぐらいに見えても興覚めだ。

「なに言ってるんすか、むしろ大興奮っすよ」という癖の方もいるかもしれないが、せっかく我が借家に美女がお出ましになるなら、我が家にあったサイズでお越しいただきたいものである。

つまり「MR」とは、現実に即したサイズで表示され、そして近づけば大きく表示され、遠ざかれば小さくなるなど、現実にあわせ仮想現実がリアルタイムで変化するものを指すようだ。

これで嫁キャラの幻を等身大で我が家にお招きできますな、と思われるが、「MR」はどちらかというと、エンタメよりは産業目的での活躍を期待されているようだ。確かに、どうしても嫁キャラを俺の借家に呼びたいというのでなければ「VR」で事足りているような気がする。

具体的には、新車の開発などで、これから出す車のCGをMRを使って皆で見ながら、デザイン等について話しあったりするらしい。効率化などは置いておいて、真面目な会議でも、傍から見ればみんなヘッドマウントディスプレイをつけて、見えない何かを指差しながら、何か話し合っているというシュール極まりない光景になるはずだ。

MR会議中は「参加者以外立ち入り禁止」を徹底した方がいいだろう。


<作者プロフィール>
カレー沢薫
漫画家・コラムニスト。1982年生まれ。会社員として働きながら二足のわらじで執筆活動を行う。デビュー作「クレムリン」(2009年)以降、「国家の猫ムラヤマ」、「バイトのコーメイくん」、「アンモラル・カスタマイズZ」(いずれも2012年)、「ニコニコはんしょくアクマ」(2013年)、「やわらかい。課長起田総司」(2015年)、「ねこもくわない」(2016年)。コラム集「負ける技術」(2014年、文庫版2015年)、Web連載漫画「ヤリへん」(2015年~)、コラム集「ブス図鑑」(2016年)など切れ味鋭い作品を次々と生み出す。本連載を文庫化した「もっと負ける技術 カレー沢薫の日常と退廃」は、講談社文庫より絶賛発売中。

「兼業まんがクリエイター・カレー沢薫の日常と退廃」、次回は2017年6月13日(火)掲載予定です。