【コラム】

兼業まんがクリエイター・カレー沢薫の日常と退廃

112 連続特集・カレー沢薫と「IT用語」(52)Society5.0

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今回のテーマは「Society5.0」だ。

あの政策と「選ばれし弊社」

前回「Industrie4.0」をやってしまったおかげで、凄まじい二番煎じ感、あるいはバッタ物感がでてしまっているが、実際やろうとしていることは「Industrie4.0」とそう大差はないらしい。

そして、その「Society5.0」を打ち出しているのは他でもない、我が国日本である。私が公園の土管で暮らしている情弱だから知らなかったのかもしれないが、この「Society5.0」をみんな知っているのであろうか?

政府が打ち出した政策としては、「褒めている人を見たことがない」でお馴染みの「プレミアムフライデー」の方が、よほど周知されている気がする。

私がニュースから得た情報によると、プレミアムフライデーが実施されている企業は全国で「130社ぐらい」らしい(編集注:2月末の初回プレミアムフライデー時点の数値。直近(4月)の公式発表では330社となっている)。日本にどのくらいの企業があるか知らないが、さすがに合計131社とかではないと思う。そうだとしたら、弊社は残された最後の一社ということになってしまう。さすが弊社、選ばれし弊社だ。

「いや、弊社も選ばれし伝説の弊社だ」という方はおそらくたくさんいるだろう。何が言いたいかと言うと、プレミアムフライデーが実施されている企業は本当にごくわずかで、それも都会に集中しており、今のところ地方にはまったく無関係な政策となっているのが実情だ。

つまり、どちらかというとまだ「Society5.0」の方が我々地方民にも関係あるし、成功した方がいいのも多分こちらだろう。なのに知らなかったというのは、ヤバイ話である。土管から首だけ出して、自分にまったく無関係なプレミアムフライデーに文句を言っている場合ではない。

「超スマート社会」のノンスマートさ

それで「Society5.0」だが「第5期科学技術基本計画」で盛り込まれた取り組みらしい。まず、科学技術基本計画というものがすでに4期まで行われていたことに驚きである。ちなみにモーニング娘。は今9期で、ロードは13章まである。物事というのは知られていようがいまいが進んでいくものなのだ。

そして「超スマート社会の実現」が「Society5.0」の目的だ。「超スマート社会」、いい言葉だ。言えば言うほどスマートさから遠ざかるのがいい。

しかし、笑ってはいけない。プロジェクトというのは、何でも最初は「そんなの無理だ」と頭の固い連中に笑われるものなのだ。その逆風に負けず、成し遂げた人がいてくれたからこそ、今の社会があるのだ。

そういう人間が皆無だったら、私は今土管どころか、自分の手で掘った深さ10センチくらいの穴に暮らしていることになるだろう。前も似たようなことを言ったが、頭の良い人が食いこぼした、信玄餅のきなこを舐めて暮らすだけの人生である。

おそらく「超スマート社会」が実現したら、その超スマートのカスを拾って暮らすはずなのだ。それなら、超スマートが超であればあるほど、そのカスだってよりスマートになるはずだ。だったら、でき得る限りスマートになってもらうしかない。

言えば言うほど、スマートから遠ざかるどころか、IQまで下がってくるので、スマートのことは一旦置いておく。

では具体的に「Society5.0」がどんな政策かというとやはり「IoT!IoT!」らしい。すべてをネットにつなぎ、デジタル化することにより、コスト削減、効率化というわけだ。この話はもう何万回もしているし「お前もか!」と言う気がするが、今世界規模でそういう流れなのだから仕方がない。むしろ「我が国はそれに抵抗します」、と言われるほうがヤバイ。

そして「Society5.0」では、超スマート社会を実現するための11のシステム(※内閣府資料「超スマート社会の姿と 超スマート社会に向けた取組について」より)、というのを打ち出しているのだが、その中に、目に付くものがあった。

「おもてなしシステム」

出た、日本政府の謎の「おもてなし推し」である。推し過ぎてすでにムカつかれているというのに、さらに推してくるという初志貫徹ぶり、気に入った。そしてここにも「IoT」が使われるらしい。IoTとおもてなし、周囲に推している人を見かけないのに、徹底的に推されている空気がよく似ている。

さっき言ったプレミアムフライデーしかり、用語というのはスマートじゃなければないほど人の興味を引けるような気がする。だったら「Society5.0」という名前は失敗なのではないか。「イケてるファイヴ」とかにした方が良くないか。

すでに興味は半減したが「おもてなしシステム」は、「訪日客が持ち合わせる文化・習慣を理解し、イベント・観光における感動共有を、日本のどこでも提供」するものらしい。例えば「初対面の相手にはローリングソバットを食らわす」という文化の客が来たらおもてなし班全体でその情報を共有し、その客がゲートをくぐった瞬間から全員で回し蹴っていくというわけだ、これには来日客も「こいつら、わかってる」と、感動だろう。

またこのシステムに使われるらしい技術には、IoTのほか「3次元映像等による超臨場感コミュニケーション、AI・ビッグデータ解析、・情報サイバーセキュリティ」など、どうも前にこのコラムで出くわした言葉が大集結している。

しかし、こういう最先端なものを喜ぶ客もいるとは思うが、服屋の店員に話しかけられただけで購買意欲が失せるような、出先で自分の存在を認知してほしくないタイプもいるのだ。それに相手があんまり自分の情報を知っていると「なんで知ってんだ」と逆に怖い。

ビッグデータやらで客の情報を共有するなら、「こいつには歓迎されると引く、逆に距離をとれ」などの情報も共有してほしいものである。


<作者プロフィール>
カレー沢薫
漫画家・コラムニスト。1982年生まれ。会社員として働きながら二足のわらじで執筆活動を行う。デビュー作「クレムリン」(2009年)以降、「国家の猫ムラヤマ」、「バイトのコーメイくん」、「アンモラル・カスタマイズZ」(いずれも2012年)、「ニコニコはんしょくアクマ」(2013年)、「やわらかい。課長起田総司」(2015年)、「ねこもくわない」(2016年)。コラム集「負ける技術」(2014年、文庫版2015年)、Web連載漫画「ヤリへん」(2015年~)、コラム集「ブス図鑑」(2016年)など切れ味鋭い作品を次々と生み出す。本連載を文庫化した「もっと負ける技術 カレー沢薫の日常と退廃」は、講談社文庫より絶賛発売中。

「兼業まんがクリエイター・カレー沢薫の日常と退廃」、次回は2017年5月30日(火)掲載予定です。

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インデックス

連載目次
第123回 連続特集・カレー沢薫と「IT用語」(63)半導体
第122回 連続特集・カレー沢薫と「IT用語」(62)IIoT
第121回 連続特集・カレー沢薫と「IT用語」(61)ADAS
第120回 連続特集・カレー沢薫と「IT用語」(60)アディティブ・マニュファクチャリング
第119回 連続特集・カレー沢薫と「IT用語」(59)LPWA
第118回 連続特集・カレー沢薫と「IT用語」(58)ディスラプティブ・イノベーション
第117回 連続特集・カレー沢薫と「IT用語」(57)HEMS
第116回 連続特集・カレー沢薫と「IT用語」(56)ニューロモルフィックコンピューティング
第115回 連続特集・カレー沢薫と「IT用語」(55)M2M
第114回 連続特集・カレー沢薫と「IT用語」(54)MR
第113回 連続特集・カレー沢薫と「IT用語」(53)シンギュラリティ
第112回 連続特集・カレー沢薫と「IT用語」(52)Society5.0
第111回 連続特集・カレー沢薫と「IT用語」(51)Industry 4.0
第110回 連続特集・カレー沢薫と「IT用語」(50)CPS
第109回 連続特集・カレー沢薫と「IT用語」(49)3Dプリンタ
第108回 連続特集・カレー沢薫と「IT用語」(48)CPU
第107回 連続特集・カレー沢薫と「IT用語」(47)e-文書法
第106回 連続特集・カレー沢薫と「IT用語」(46)CGM
第105回 連続特集・カレー沢薫と「IT用語」(45)MFP
第104回 連続特集・カレー沢薫と「IT用語」(44)チャットボット
第103回 連続特集・カレー沢薫と「IT用語」(43)メッセンジャー
第102回 連続特集・カレー沢薫と「IT用語」(42)PLM
第101回 連続特集・カレー沢薫と「IT用語」(41)CAD
第100回 100回にわたる連載を振り返って
第99回 連続特集・カレー沢薫と「IT用語」(40)モバイルペイメント
第98回 連続特集・カレー沢薫と「IT用語」(39)ダークネット
第97回 連続特集・カレー沢薫と「IT用語」(38)IPアドレス
第96回 連続特集・カレー沢薫と「IT用語」(37)JPEG
第95回 連続特集・カレー沢薫と「IT用語」(36)SCM
第94回 連続特集・カレー沢薫と「IT用語」(35)コグニティブ
第93回 連続特集・カレー沢薫と「IT用語」(34)ハプティック
第92回 連続特集・カレー沢薫と「IT用語」(33) 会話型UI
第91回 連続特集・カレー沢薫と「IT用語」(32) APT
第90回 連続特集・カレー沢薫と「IT用語」(31) 4K・8K
第89回 連続特集・カレー沢薫と「IT用語」(30) コネクテッドカー
第88回 連続特集・カレー沢薫と「IT用語」(29) ビーコン
第87回 連続特集・カレー沢薫と「IT用語」(28) ゼロデイアタック
第86回 連続特集・カレー沢薫と「IT用語」(27) 生体認証
第85回 連続特集・カレー沢薫と「IT用語」(26)CPM
第84回 連続特集・カレー沢薫と「IT用語」(25)NAS
第83回 連続特集・カレー沢薫と「IT用語」(24)デジタルサイネージ
第82回 連続特集・カレー沢薫と「IT用語」(23)テキストマイニング
第81回 連続特集・カレー沢薫と「IT用語」(22)ファビコン
第80回 連続特集・カレー沢薫と「IT用語」(21)ERP
第79回 連続特集・カレー沢薫と「IT用語」(20) オンデマンド
第78回 連続特集・カレー沢薫と「IT用語」(19) VoIP
第77回 連続特集・カレー沢薫と「IT用語」(18) ディープラーニング
第76回 連続特集・カレー沢薫と「IT用語」(17) テレワーク
第75回 連続特集・カレー沢薫と「IT用語」(16) 5G
第74回 連続特集・カレー沢薫と「IT用語」(15) O2O2O
第73回 連続特集・カレー沢薫と「IT用語」(14)SaaS
第72回 連続特集・カレー沢薫と「IT用語」(13)シングルサインオン
第71回 連続特集・カレー沢薫と「IT用語」(12)オムニチャネル
第70回 連続特集・カレー沢薫と「IT用語」(11)ユビキタス
第69回 連続特集・カレー沢薫と「IT用語」(10)ホワイトハッカー
第68回 連続特集・カレー沢薫と「IT用語」(9)ビッグデータ
第67回 連続特集・カレー沢薫と「IT用語」(8)ランサムウェア
第66回 連続特集・カレー沢薫と「IT用語」(7)クラウド
第65回 連続特集・カレー沢薫と「IT用語」(6)ドローン
第64回 連続特集・カレー沢薫と「IT用語」(5)人工知能
第63回 連続特集・カレー沢薫と「IT用語」(4)マルウェア
第62回 連続特集・カレー沢薫と「IT用語」(3)FinTech(フィンテック)
第61回 連続特集・カレー沢薫と「IT用語」(2)VR
第60回 連続特集・カレー沢薫と「IT用語」(1)IoT
第59回 mixi時代のリア充アピールと「消灯」
第58回 春の花粉症と個々人の「体質」
第57回 飲み会に誘われた→たたかう、にげる?
第56回 SNS疲れと「インターネット上の友達」
第55回 カレー沢流・「真の親孝行」と「かんぴょう巻」
第54回 地方在住のオタクと「ガンジス川のまんじゅう」
第53回 カレー沢薫が激賞する「別腹で食べるべきスイーツ」
第52回 カレー沢薫、「ゆとり」「さとり」を語る
第51回 もしカレー沢薫の作品がアニメ/実写化したら
第50回 兼業漫画家が語る「健康法」と「クソゲー」
第49回 安直?楽勝?作家から見た「過去のヒット作のリバイバル」
第48回 兼業作家とマイナンバー
第47回 デザインを学んだカレー沢薫の「卒論」
第46回 カレー沢薫が「最後の晩餐に食べたい」一品
第45回 オタクがオタクであり続ける理由
第44回 漫画家・カレー沢薫がはじめてコラムを書いた日
第43回 カレー沢暴力からの卒業
第42回 兼業漫画家と女の「諦め」
第41回 カレー沢暴力(薫)が語る、「お断り」な仕事の依頼
第40回 女が「美」を希求する理由、そして“ありのまま”の罠
第39回 上京の旅路のロハスな過ごし方
第38回 酒もたばこもやらない兼業漫画家が愛する「嗜好品」
第37回 兼業漫画家と怒りの賢者モード
第36回 福山雅治の結婚と「公式設定」
第35回 もし「カレー沢薫」が改名するとしたら?
第34回 漫画家デビューしたいなら、まず石油王になってから
第33回 猫もまたいで通る「老後」の話
第32回 兼業漫画家が考える、「前の作風の方がよかった」と言われた時の対処法
第31回 カレー沢薫が偏愛する、ある猫の物語
第30回 「結婚すればリア充」なのか? 非リア充/リア充の境界線
第29回 猫派の兼業漫画家、「犬」を語る
第28回 漫画家の仕事をクールに演出する「作業用ドリンク」
第27回 続・「カレー沢薫先生サイン会」の開催動機
第26回 兼業漫画家の「作業用BGM」
第25回 カレー沢薫が語る「恋愛」~壁ドンは本当にときめくのか~
第24回 兼業漫画家とLINEスタンプ
第23回 兼業漫画家に学ぶタスク管理の極意
第22回 酒やたばこより健康を害する、たったひとつの事柄
第21回 兼業漫画家の「夏の風物詩」
第20回 漫画家の夫になるということ(あるいは、夫婦が暮らすということ)
第19回 漫画家という職業選択と親心
第18回 二次創作の醍醐味と争いを生まないための「注意」
第17回 漫画家・カレー沢薫が語る「アイデアのつくり方」
第16回 猫よ、人の望みの喜びよ
第15回 カレー沢薫というペンネームを生んだ「病」
第14回 コミュ障界の石川五ェ門が人間観察をしない理由
第13回 「カレー沢薫先生サイン会」の開催動機
第12回 兼業漫画家の美容意識と"オタクの美醜"
第11回 あなたは米に「萌え」られるか
第10回 健康で文化的な兼業漫画家の生活
第9回 漫画家の絵の上達と「オウンゴール」
第8回 漫画家の夫をめぐる「傾向」と「受難」
第7回 カレー沢薫の華麗なる交友関係
第6回 漫画家は怒り、編集者はスコップを持つ
第5回 兼業漫画家は"大平原"の夢を見るか
第4回 カレー沢流・漫画制作におけるライフハック
第3回 "兼業まんがクリエイター"の日常を徹底解剖
第2回 確定申告、その経費と内訳~カレー沢薫の場合~
第1回 "漫画を描かない漫画家志望"がデビューするまで

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