今回のテーマは「CPS」だ。

IT用語にはとにかくアルファベット3文字が多いため「前にこれやってね?」と思うことが多々ある。しかし調べてみると確かに初見の用語だ。

では前にやったらしい、似たような用語とは一体なんだったのか。この連載は続ければ続けるほど頭が良くなるどころか混乱の一途をたどる。IT業界連中は本当に全部使い分けているのだろうか。言うほうも曖昧だが、聞くほうもあやふやだから成り立っている可能性がある。

ルマンドのカスのみを食っている人生

さて「CPS」だが、「C」が出てきたからには、すでに答えは出ている「キャット パーフェクト 死」だ。おキャット様が可愛すぎて見た瞬間、塵の一片も残らぬほど死滅するという意味だ。

すでに答えは出たが、紛らわしいことに、ITの世界には違う意味の「CPS」が存在するらしい。

CPS(Cyber-Physical System)とは、実世界(フィジカル空間)にある多様なデータをセンサーネットワーク等で収集し、サイバー空間で大規模データ処理技術等を駆使して分析/知識化を行い、そこで創出した情報/価値によって、産業の活性化や社会問題の解決を図っていくものです。(引用:JEITA Webサイトより)

おキャット様ほどではないがスケールのでかい話だ。一体誰がこんな巨大なことを考えるのかと思うが、おそらく今までも、こういう途方もないことを考える人間のおかげで、我々は今の便利な暮らしを享受できているのだろう。便利な暮らしが可能な世の中で鍾乳洞に住んでいるというなら、それはもう本人の問題だ。

そう考えると、おこぼれで成り立っている生活、でかいことを考える人間が食いこぼしたルマンドのカスのみを食っている人生、という気がしてくるが、そのカスがうめえことうめえこと、なのである。

つまり話がでかすぎて説明されてもピンとこないのが「CPS」だ。簡単に言うと前にとりあげたIoT(Information of TIMCOではない方)のように、PC機器以外のモノにネットを繋ぎ、そこから得られた情報を、産業に生かす、仕組みだそうだ。

じゃあ、IoTとの違いはなんだと調べてみると、イマイチ違いがわからない上に「明確な線引きはない」と記載されている場合すらある。マジで大丈夫か、IT業界。本当にお前ら、全部わかって言っているのか。

具体例を挙げると、自動車の自動運転などがそれらしい。自動車という物体に(Physical)取り付けられたセンサーから、得られたデータを分析し、それらを元にIT(Cyber)が自動車(Physical)を制御、自動運転させる、というわけだ。

フィジカルをサイバーしてまたフィジカルする、と言うと、凄い技術のはずが、頭が良いフリをする馬鹿の会話みたいになってしまっている。世の中のものすべてにネットを繋ぎ、そこから得られたものを、また産業に還元していくというのがおそらく「CPS」なのだろう、多分。

しかし、すべてのモノにネットが繋がるということは、知らない内にデータを取られているかもしれないということである。個人情報が抜かれるということはそう頻発しないだろうが、コンビニで毎日甘いパンを買っている客の一人として集計されてしまったりはするだろう。

そのぐらいならまだ良いが、便所で何人が手を洗ったか、洗わなかったか、洗った後服で拭いた奴はいたか、などという統計になると、ちょっと待て貴様、という感じになってくる。

だからと言って「データを取っています」と書いてしまったら、全員手を洗った後ハンカチで拭き出すだろうし、それでも服で拭き続ける鋼の意志を持った人間が何人いるか、ぐらいのデータしか取れなくなる。

すでにビッグデータなんかでも言われていることだが、なんでもネットに繋がることによって、必ずプライバシーの問題は出てくるだろう。

ヒトをIoT化できるか

今、ネットをモノに繋げるのがアツいということはわかった。ではヒトには繋げないか、という話だ。ヒトだって、モノと言えばモノだ、もちろん、口答えとかするのでモノ以下なのは確かだが、ガムテープなどを貼るなどすれば、大分モノに近づけるはずだ。

実はもうこの時点で答えは出てしまっている、ヒトはモノ以下なので、ヒトにつなげても仕方がない。モノなら得た情報を有効に使えるが、ヒトはほとんどできないのだ。

例えば、歩数計を1日つけて得られたデータが「3」だとする。ここから「1日3歩しか歩いておらず、健康に悪いから明日から1万歩あるくべき」という解析はできる。しかし、次の日からヒトが本当に1万歩も歩くかと言うと、大体否である。

つまり、ヒトとネットを繋いだところで、得られたデータを水泡に帰すだけなのだ。だったら、素直に一万歩歩いてくれるロボットなど、モノに繋いだほうが有益なのである。

SFではないが、社会からヒトがハブられる日はそう遠くないのでは、と思う。


<作者プロフィール>
カレー沢薫
漫画家・コラムニスト。1982年生まれ。会社員として働きながら二足のわらじで執筆活動を行う。デビュー作「クレムリン」(2009年)以降、「国家の猫ムラヤマ」、「バイトのコーメイくん」、「アンモラル・カスタマイズZ」(いずれも2012年)、「ニコニコはんしょくアクマ」(2013年)、「やわらかい。課長起田総司」(2015年)、「ねこもくわない」(2016年)。コラム集「負ける技術」(2014年、文庫版2015年)、Web連載漫画「ヤリへん」(2015年~)、コラム集「ブス図鑑」(2016年)など切れ味鋭い作品を次々と生み出す。本連載を文庫化した「もっと負ける技術 カレー沢薫の日常と退廃」は、講談社文庫より絶賛発売中。

「兼業まんがクリエイター・カレー沢薫の日常と退廃」、次回は2017年5月16日(火)掲載予定です。