【コラム】

兼業まんがクリエイター・カレー沢薫の日常と退廃

103 連続特集・カレー沢薫と「IT用語」(43)メッセンジャー

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今回のテーマはメッセンジャーである。

おそらく、ほとんどの人が1999年に公開され、ナインティナインの矢部浩之が主演した映画「メッセンジャー」を思い浮かべただろう。私はもちろん見ていない。

時代と出会って「事故る」

今調べたら、「メッセンジャー」の主演は草なぎ剛だったのだが、なんとなくナインティナインの矢部が主役級で出ていたという印象の方が強い。ナイナイは今でも活躍している芸人だが、おそらく彼らが主役級のドラマや映画はもう、そうそう作られることはないだろう。中にはキムタクのように数十年にわたり主役を張り続ける者もいるが、たまたまその時代と正面衝突で事故った者が、ぶつかった勢いそのままで、ドラマや映画の主役をやるという現象は昔からある。

宗家襲名でゴタゴタしていた和泉元彌が大河ドラマの主役に抜擢され、その後もゴタゴタしたりプロレスでハッスルしたりするという、何かが麻痺した時代もあったのだ。しかし、これは時代と事故った者勝ちである。私も毎日、何かの間違いで事故らねえかなと思っているが、今のところリアルで車に轢かれる確率の方が高い。

やはり、一瞬でも時代にミートできる人間は、何かしら持っているからぶつかりに行けたのだろう。

主役じゃなくても、その時旬の芸人がドラマや映画に出るというのは良くあることだが、私の5億8千個ある急所の一つに「芸人のマジ演技」というのがある。芸人がドラマのシリアスなシーンで、シリアスな演技をするのに弱いのだ。

これは芸人がマジな演技をしているというギャップが笑えるとか、そういうものではない。NANAで言うと、ナナが初めて蓮と会った時のような感情が巻き起こり、いてもたってもいられないのだ。ナナは真っ赤なドレスでステージ上の蓮を見つめ、私はユニクロで8年前に買った元水色、現灰色のパーカーでテレビの前でもんどりうっている、という微々たる差はあるのだが、心情的には全く同じだ。つまり説明できないので「弱い」「急所」「一撃で死ぬ」としか言いようがない。

平素ドラマはおろかテレビすらあまり見ないので、そういうシーンに遭遇することはほとんどないのだが、数年前運悪く「出演者がほぼ全員芸人のスペシャルドラマ」を見てしまったのだ。しかも、ほぼ芸人なので全体的にコメディタッチでありながら、最終的には「いい話」という仕様だった。これは死ぬしかないし、私は実際その日5兆回死んだ。

LINEやSkypeは「難易度が高すぎる」

(インターネット)メッセンジャー: インターネット上で同じソフトを利用している仲間がオンラインかどうかを調べ、オンラインであればチャットやファイル転送などを行うことができるアプリケーションソフト。「IMクライアント」などとも呼ばれる。(IT用語辞典 e-words)

単語の解説が一昔前、皆がパソコンでやりとりしていたころのそれではあるが、今風かつ簡単に言うとチャットアプリだ。LINEやSkypeなどが代表である。この両者は私にとって「一応インストールしているが使わないアプリ代表」でもある。何故使わないかと言うと、言わなくてもわかるだろうが、話す相手がいないからだ。

このようにインターネットメッセンジャーはSNSなどとは違い、「特定の話し相手がいることが前提」のアプリだ、難易度が高すぎる。まず話し相手を用意しろと言うのは、三分クッキングが「どこのご家庭にもある余ったレアメタルを使って」から始まるのと同じである。

では何でインストールしているかというと、LINEは夫との業務連絡に使うからだ。しかし本当に業務連絡しかしないので、「了解」以外の発言をした記憶がない。また、私は2種類ほどLINEスタンプをリリースしているが、自分ではほとんど使っていない。何故なら「了解」しか言わないくせに「了解」という意味のスタンプを作っていないからだ。合計80種類も作っておいて、世間的にも利用頻度は高いであろう「了解」がないのだ。その代わり「断固拒否」と書いてあるスタンプはある。私がいかに人とコミュニケーションをとる気がないかがここでもわかる。

Skypeにおいてはそれよりひどく、3回ぐらいしか使ったことがない。仕事で対談企画があったのだが、端的に言うと「人と会話できない」という私の能力的な問題で「Skypeのテキストチャットで対談」という方式が取られたのだ。その時の関係者は皆、私のことを人見知りが始まった2歳児なのでは、と思ったかもしれないが、普通に中年なので安心してほしい。

TwitterなどのSNSも広義で言えばコミュニケーション、会話ツールではあるが、大きな違いがある。メッセンジャーは「あなたに私の話を聞いてほしいし、私もあなたの話も聞きます」というものだが、Twitterなどは「誰でもいいから俺様の話を聞け(別に誰も聞いてなくてもいい)、だが俺様が貴様の話を聞くとは限らん」というものだ。どっちが私に向いているのかというと、明らかに後者だ。

今ではメッセンジャーアプリはほぼ使わないが、十数年前、無職で暇だったころYahoo!メッセンジャーをインストールしていたことがある。これは、友達がいなくても使えた。なぜなら出会い厨がクソほど話かけてきたからである。

そして現在。Skypeはあまり知らない人が話しかけてくることはないのだが、起動しっぱなしにしていると、たまに「risa」という人が「Hi!」と話かけてくる。

出会い厨もグローバル化しているのである。


<作者プロフィール>
カレー沢薫
漫画家・コラムニスト。1982年生まれ。会社員として働きながら二足のわらじで執筆活動を行う。デビュー作「クレムリン」(2009年)以降、「国家の猫ムラヤマ」、「バイトのコーメイくん」、「アンモラル・カスタマイズZ」(いずれも2012年)、「ニコニコはんしょくアクマ」(2013年)、「やわらかい。課長起田総司」(2015年)、「ねこもくわない」(2016年)。コラム集「負ける技術」(2014年、文庫版2015年)、Web連載漫画「ヤリへん」(2015年~)、コラム集「ブス図鑑」(2016年)など切れ味鋭い作品を次々と生み出す。本連載を文庫化した「もっと負ける技術 カレー沢薫の日常と退廃」は、講談社文庫より絶賛発売中。

「兼業まんがクリエイター・カレー沢薫の日常と退廃」、次回は2017年3月21日(火)掲載予定です。

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インデックス

連載目次
第104回 連続特集・カレー沢薫と「IT用語」(44)チャットボット
第103回 連続特集・カレー沢薫と「IT用語」(43)メッセンジャー
第102回 連続特集・カレー沢薫と「IT用語」(42)PLM
第101回 連続特集・カレー沢薫と「IT用語」(41)CAD
第100回 100回にわたる連載を振り返って
第99回 連続特集・カレー沢薫と「IT用語」(40)モバイルペイメント
第98回 連続特集・カレー沢薫と「IT用語」(39)ダークネット
第97回 連続特集・カレー沢薫と「IT用語」(38)IPアドレス
第96回 連続特集・カレー沢薫と「IT用語」(37)JPEG
第95回 連続特集・カレー沢薫と「IT用語」(36)SCM
第94回 連続特集・カレー沢薫と「IT用語」(35)コグニティブ
第93回 連続特集・カレー沢薫と「IT用語」(34)ハプティック
第92回 連続特集・カレー沢薫と「IT用語」(33) 会話型UI
第91回 連続特集・カレー沢薫と「IT用語」(32) APT
第90回 連続特集・カレー沢薫と「IT用語」(31) 4K・8K
第89回 連続特集・カレー沢薫と「IT用語」(30) コネクテッドカー
第88回 連続特集・カレー沢薫と「IT用語」(29) ビーコン
第87回 連続特集・カレー沢薫と「IT用語」(28) ゼロデイアタック
第86回 連続特集・カレー沢薫と「IT用語」(27) 生体認証
第85回 連続特集・カレー沢薫と「IT用語」(26)CPM
第84回 連続特集・カレー沢薫と「IT用語」(25)NAS
第83回 連続特集・カレー沢薫と「IT用語」(24)デジタルサイネージ
第82回 連続特集・カレー沢薫と「IT用語」(23)テキストマイニング
第81回 連続特集・カレー沢薫と「IT用語」(22)ファビコン
第80回 連続特集・カレー沢薫と「IT用語」(21)ERP
第79回 連続特集・カレー沢薫と「IT用語」(20) オンデマンド
第78回 連続特集・カレー沢薫と「IT用語」(19) VoIP
第77回 連続特集・カレー沢薫と「IT用語」(18) ディープラーニング
第76回 連続特集・カレー沢薫と「IT用語」(17) テレワーク
第75回 連続特集・カレー沢薫と「IT用語」(16) 5G
第74回 連続特集・カレー沢薫と「IT用語」(15) O2O2O
第73回 連続特集・カレー沢薫と「IT用語」(14)SaaS
第72回 連続特集・カレー沢薫と「IT用語」(13)シングルサインオン
第71回 連続特集・カレー沢薫と「IT用語」(12)オムニチャネル
第70回 連続特集・カレー沢薫と「IT用語」(11)ユビキタス
第69回 連続特集・カレー沢薫と「IT用語」(10)ホワイトハッカー
第68回 連続特集・カレー沢薫と「IT用語」(9)ビッグデータ
第67回 連続特集・カレー沢薫と「IT用語」(8)ランサムウェア
第66回 連続特集・カレー沢薫と「IT用語」(7)クラウド
第65回 連続特集・カレー沢薫と「IT用語」(6)ドローン
第64回 連続特集・カレー沢薫と「IT用語」(5)人工知能
第63回 連続特集・カレー沢薫と「IT用語」(4)マルウェア
第62回 連続特集・カレー沢薫と「IT用語」(3)FinTech(フィンテック)
第61回 連続特集・カレー沢薫と「IT用語」(2)VR
第60回 連続特集・カレー沢薫と「IT用語」(1)IoT
第59回 mixi時代のリア充アピールと「消灯」
第58回 春の花粉症と個々人の「体質」
第57回 飲み会に誘われた→たたかう、にげる?
第56回 SNS疲れと「インターネット上の友達」
第55回 カレー沢流・「真の親孝行」と「かんぴょう巻」
第54回 地方在住のオタクと「ガンジス川のまんじゅう」
第53回 カレー沢薫が激賞する「別腹で食べるべきスイーツ」
第52回 カレー沢薫、「ゆとり」「さとり」を語る
第51回 もしカレー沢薫の作品がアニメ/実写化したら
第50回 兼業漫画家が語る「健康法」と「クソゲー」
第49回 安直?楽勝?作家から見た「過去のヒット作のリバイバル」
第48回 兼業作家とマイナンバー
第47回 デザインを学んだカレー沢薫の「卒論」
第46回 カレー沢薫が「最後の晩餐に食べたい」一品
第45回 オタクがオタクであり続ける理由
第44回 漫画家・カレー沢薫がはじめてコラムを書いた日
第43回 カレー沢暴力からの卒業
第42回 兼業漫画家と女の「諦め」
第41回 カレー沢暴力(薫)が語る、「お断り」な仕事の依頼
第40回 女が「美」を希求する理由、そして“ありのまま”の罠
第39回 上京の旅路のロハスな過ごし方
第38回 酒もたばこもやらない兼業漫画家が愛する「嗜好品」
第37回 兼業漫画家と怒りの賢者モード
第36回 福山雅治の結婚と「公式設定」
第35回 もし「カレー沢薫」が改名するとしたら?
第34回 漫画家デビューしたいなら、まず石油王になってから
第33回 猫もまたいで通る「老後」の話
第32回 兼業漫画家が考える、「前の作風の方がよかった」と言われた時の対処法
第31回 カレー沢薫が偏愛する、ある猫の物語
第30回 「結婚すればリア充」なのか? 非リア充/リア充の境界線
第29回 猫派の兼業漫画家、「犬」を語る
第28回 漫画家の仕事をクールに演出する「作業用ドリンク」
第27回 続・「カレー沢薫先生サイン会」の開催動機
第26回 兼業漫画家の「作業用BGM」
第25回 カレー沢薫が語る「恋愛」~壁ドンは本当にときめくのか~
第24回 兼業漫画家とLINEスタンプ
第23回 兼業漫画家に学ぶタスク管理の極意
第22回 酒やたばこより健康を害する、たったひとつの事柄
第21回 兼業漫画家の「夏の風物詩」
第20回 漫画家の夫になるということ(あるいは、夫婦が暮らすということ)
第19回 漫画家という職業選択と親心
第18回 二次創作の醍醐味と争いを生まないための「注意」
第17回 漫画家・カレー沢薫が語る「アイデアのつくり方」
第16回 猫よ、人の望みの喜びよ
第15回 カレー沢薫というペンネームを生んだ「病」
第14回 コミュ障界の石川五ェ門が人間観察をしない理由
第13回 「カレー沢薫先生サイン会」の開催動機
第12回 兼業漫画家の美容意識と"オタクの美醜"
第11回 あなたは米に「萌え」られるか
第10回 健康で文化的な兼業漫画家の生活
第9回 漫画家の絵の上達と「オウンゴール」
第8回 漫画家の夫をめぐる「傾向」と「受難」
第7回 カレー沢薫の華麗なる交友関係
第6回 漫画家は怒り、編集者はスコップを持つ
第5回 兼業漫画家は"大平原"の夢を見るか
第4回 カレー沢流・漫画制作におけるライフハック
第3回 "兼業まんがクリエイター"の日常を徹底解剖
第2回 確定申告、その経費と内訳~カレー沢薫の場合~
第1回 "漫画を描かない漫画家志望"がデビューするまで

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