今回のテーマは「NAS」だ。
何かとローマ字にしたり略語にしたり、しゃらくさいのがIT用語の特長だが、まさかナスまでクールにしてくるとは思わなかった。確かにこれはカッコよくなっているし、わかりやすい。
わかりづらい上に腹立たしいIT用語群の中でも数少ない成功例なので、私も「麻婆NAS」「おたんこNAS」「スタイリッシュNASアクション」など積極的に使っていきたい。
ところで、私は幼少期ナスが嫌いだったが、今では普通に食えるし美味いとも思えるようになった。大人になると好みが変わるという。しかし、逆に子供のころ食えたものが大人になって食えなくなった、ということはあまりない。つまり、食えるものがどんどん増えていっているのだから、それに比例して体重が増えるのは自然なことなので仕方ないということである。
久しぶりに関係ないことで半分以上埋まりそうな勢いだ。以前、ファイナルファンタジー7の主人公・クラウドの話で7割埋めたところ、「関係ない話は半分までにしてくれ」と言われたが、逆に言えば半分は関係ないことを書いてもいいということになるため、次にスタイリッシュNASアクションがどんなものか披露していきたいと思う。
「ここではないどこか」系ITワード
というわけで、今このコラムは華麗なNASアクションによってタイピングされており、皆様に映像でお見せできないのが残念である。このアクションは第16章まである。その間皆様の退屈を防ぐためNASの話をするが、これも前述した、クラウド(ファイナルファンタジーじゃない方)と似たような話だ。
「NAS(NetworkAttachedStorage)」、一言で言えば、ネットワーク上のハードディスクである。
ハードディスクと言えばPCに内蔵されているか、USBなどで繋ぐ外付けハードディスクが一般的であり、内蔵ハードディスクはもちろん、外付けの場合でも他のPCと共有することはできず、わざわざ繋ぎかえる必要があった。しかしネットワーク上のハードディスクなら同時共有が可能かつ、外からなどでもアクセスができるというわけである。
このITコラムを最初から読んでいる人は地球上に3人ぐらいしかいないとは思うが、これと同じような話はもう何万回もしている、「連続特集~」が始まってからはまだ24回だが、体感的にはそのぐらいやっている。つまりこれも、「俺はこのデータを保存する、ここではないどこかに-完-」の類型だ。
最新ITワードのコラムと題しておきながら、単語だけ変えて同じような話を繰り返すという、脳の接続が若干悪くなったジジイが書いているかのような連載になってしまっている。もちろん、ITワードに罪はない。滅するべきは、同じような意味の言葉を何回も出してくる担当だ。今、NASアクション第12章「殺NAS拳」で爆発四散させたので安心してほしい。
しかし、これだけ頻繁に出てくるということは、こうしたものが今の主流であり、「データでもソフトでも自分のPCに入れるなど童貞のすることであり、今はネットワーク上に保存し、いつでもどこでも誰でもアクセスできるようにするのが常識。それ以外は即刻腹を切れ」という話なのだろう。
だったらもう、俺は切腹を選ぶ。いくら主流だといわれても、他の人間ともデータを共有する必要も、出先でアクセスする必要も皆無だからだ。
カレー沢氏にNASが不要な理由
まず私は圧倒的に一人だ。作家業のほうは全部一人でやっている。よって共有の必要はない。もし私が電話で「あのデータ処理しといて」などと言っていたら、ただの独り言か、存在しないアシスタントの幻覚にかけているだけだ。
さらに、私は外に出ない。ファミレスなど外で仕事をするタイプの作家もいるだろうが、私は自宅派だ。自宅だと誘惑が多すぎないかと思われるかも知れないが、私は「煩悩全部受け入れ術」という仕事法を実戦している。
どんな切羽詰った仕事中だろうが、ピクシブが見たくなれば即「○○(嫁キャラの名前) R-18」で検索して見るし、ツイッターのチェックも欠かさない。このストイックな仕事法が「30秒毎にエゴサーチ」を可能にしているのだ。
もちろん、ごく稀に外出することもある。そんな時、突然仕事をしなければいけなくなったら、NAS(とその他似たようなシステム)は便利かもしれない。
だが、そもそも「何故出先で仕事をしなければならないのか」という話である。仕事の出張中ならまだわかるが、ディズニーランドとかにいる時、急な仕事を入れられたとして「NASやってて良かったぜ!」と思うだろうか。
結局、「そのシステムのおかげで出先からでも仕事ができるようになった」じゃなくて、「そんなシステムができたから、出先からでも仕事せざる得なくなった」だけだ。この結論も前に書いたかもしれないが、同じようなテーマを出されたら同じような終着になるのも当然である。
文句がある方は、担当にNASアクション最終章「NASの舞」を食らわせてやってほしい。
<作者プロフィール>
カレー沢薫
漫画家・コラムニスト。1982年生まれ。会社員として働きながら二足のわらじで執筆活動を行う。デビュー作「クレムリン」(2009年)以降、「国家の猫ムラヤマ」、「バイトのコーメイくん」、「アンモラル・カスタマイズZ」(いずれも2012年)、「ニコニコはんしょくアクマ」(2013年)、「やわらかい。課長起田総司」(2015年)、「ねこもくわない」(2016年)。コラム集「負ける技術」(2014年、文庫版2015年)、Web連載漫画「ヤリへん」(2015年~)など切れ味鋭い作品を次々と生み出す。本連載を文庫化した「もっと負ける技術 カレー沢薫の日常と退廃」は、講談社文庫より絶賛発売中。
「兼業まんがクリエイター・カレー沢薫の日常と退廃」、次回は2016年11月1日(火)掲載予定です。