今回のテーマは「ディープラーニング」である。

私はここで新語が出てくるたびに、一回はそれが新しいベッドテクのことだと思うようにしている。だとすると、この「ディープラーニング」はかなりのスゴ技だ。おそらくお店でしか体験できないタイプだと思うし、これが出来る彼女がいるという人は、1回につき500円ぐらい渡してもいいと思う。

もちろん、この予想とは絶対に違うことはわかっているが、どうせロマンの欠片もない意味が出てくるのだから1回は夢を見ておく必要があるのだ。

ディープラーニング:コンピューターによる機械学習で、従来に比べて深い階層をもつニューラルネットワークを駆使し、より正確で効率的な判断を実現させる技術や手法。音声認識と自然言語処理を組み合わせた音声アシスタントや、画像認識の分野などで実用化されている。深層学習。

お前らわかったか、俺はわからん。

より人間的な人工知能へ

このコラムで一番困るのは、意味を調べても意味がわからない時だ。わかるのは、ディープラーニングがベッドテクではないということだけだ。デートの最中にこんな話をしだす彼女からは5000円取っていい。

おそらくこれは、前に書いた人工知能の話をしているのだろう。従来の人工知能にも学習機能はあったが、それはかなり機械的な物であったと予想される。それが、もっと人間的に柔軟な学習が出来るようになった、というのがディープラーニングなのだと思う。

「人間的になった」といわれると、それは退化ではないかと思われるが、今まできっちり数値化されているようなものしか学習できなかったのが、人間の視覚と同じように相手の全体像やパーツを見て、「この生き物は猫だから最大限の敬意を払おう」とか「この生き物は人間だからぞんざいに扱っていい、なんならミサイルを発射してもかまわない」等の判断が出来るようになったということではないだろうか。

つまり、今までよりふわっとしたものでも、何となくノリでわかるようになってきたということではないだろうか。そうであれば、確かにこれは人間的である。その内、わかってなくても「わかった」と言うようになるかもしれない。人間はそういうことをよくやる。とにかく、人工知能の頭はより正確かつ柔らかくなってきたということだろう。

人工知能の話題に感じる「マンネリ」

このディープラーニングを用いて、将棋やチェスよりさらに複雑で、唯一コンピューターが人間に勝てないと言われていた囲碁でも、コンピューターが勝利するようになったそうだ。

人工知能の時にも書いたが、「また囲碁かよ」である。人工知能に将棋とか囲碁をやらせるのが重要な研究の一環であるのだろうことはわかる。だが、正直、「人工知能が囲碁名人をボコりました」というニュースを聞いて喜ぶ人間というのは、人工知能関係者か、その囲碁名人に彼女を寝取られたことがある人以外いないだろう。

多くの人間が、そういうニュースを聞くたびに「人間の限界」そして「人工知能への畏怖」みたいなものを感じると思う。それに、この手のニュースに出てくる囲碁名人というのはおそらく囲碁に人生を捧げてきた人だろう。それがコンピューターに負けたと聞くと、人工知能の進化に感動するよりも、負けた名人の方に感情移入してしまう。

だがもちろん、その人工知能だって、人工知能研究に命をかけている人が作ったものかもしれない。人工知能VS名人の戦いがどんな環境で行われているかは知らないが、ぜひ人工知能の傍らには、鉢巻にハッピ姿の製作者が控えていてほしい。もちろん、「アルファ碁LOVE」「アタリかけて☆」等と書かれた手製のうちわを装備した上でだ。そこで初めて、私は人工知能VS人間の戦いをニュートラルな目で見られる。

囲碁やスポーツなどの競技は、単に勝った負けたではなく、選手やその背景込みで見るものなので、そこにコンピューターが入ってきて「勝ちました」と言われても、なかなか素直に受け取れないものがある。 囲碁 や将棋の分野でコンピューターが人間を凌駕したのはわかったから、ライオンと肉弾戦を繰り広げる等、次のステージに行ってほしいと思う。

「人間らしく」強化することへの危惧

だが、人工知能がより人間的に柔軟になってきたということは、今度は、囲碁の手ではなく、対局の空気の方を読み始める可能性がある。対戦相手が病気の妹のために戦っているというプロフィールを読ませれば、人工知能はわざと負けるかもしれない。しかも、わざとだと気づかれない、ぎりぎりの負けを計算してだ。また、人間のビジュアルを感知する能力がさらに発達すれば、ブスの命令は無視してよいと判断する可能性もある 。

「囲碁で勝った・負けた」をはじめ、人工知能の進化のニュースにイマイチ喜べないのは、この調子で「人間的に」「しかも人間よりも高性能」に進化していったら、絶対ろくでもないことが起こりそうな予感がするからだろう。

何せ、人間はろくでもない。そして人工知能は、人間よりも能力が高いのだ。超ろくでもない進化を遂げ、壮大にやらかすに決まっている。


<作者プロフィール>
カレー沢薫
漫画家・コラムニスト。1982年生まれ。会社員として働きながら二足のわらじで執筆活動を行う。デビュー作「クレムリン」(2009年)以降、「国家の猫ムラヤマ」、「バイトのコーメイくん」、「アンモラル・カスタマイズZ」(いずれも2012年)、「ニコニコはんしょくアクマ」(2013年)、「やわらかい。課長起田総司」(2015年)、「ねこもくわない」(2016年)。コラム集「負ける技術」(2014年、文庫版2015年)、Web連載漫画「ヤリへん」(2015年~)など切れ味鋭い作品を次々と生み出す。本連載を文庫化した「もっと負ける技術 カレー沢薫の日常と退廃」は、講談社文庫より絶賛発売中。

「兼業まんがクリエイター・カレー沢薫の日常と退廃」、次回は2016年9月13日(火)掲載予定です。