今回のテーマは「5G」である。

前回あれだけ「O2O2O」とかいう略語に怒り狂ったというのに、さらに文字数を減らして来るという暴挙である。この調子で行くと次回は一文字になるはずなので、その前に担当の人生を「完」にしてやらなければいけない。

しかし、これは逆に言うとサービス問題だ。「G」と言ったら、右手ないし左手、時には机の角などで行われるセルフサービス以外にないからだ。つまり「5G」というのは「ちょっとヤリすぎ」という意味である。よほど良いネタが築地に揚がったと見受けられる。ぜひ私も一口ご相伴にあずかりたいところだ。

あるいは、Gと言ったら単純に重力のことのようにも思える。つまり、その勢いで担当を圧殺、というのがスタンダードな流れだ。

機種変の通信簿はオール1

だが残念ながらこの「5G」という言葉、つい最近聞いたことがある。というか、これに関してはかなりの憤りを感じている。

その言葉を聞いたのは携帯ショップだ。正確には「4G」と聞いたのだが、「5G」がその進化形であることは容易に想像がつく。つまり、携帯のグレードのようなものなのだろう。

私の生活は、正直ソシャゲとエゴサーチぐらいしか楽しみがない。ならばその両者をもっと快適にしたいし、1秒間に10回ぐらい自分の名前を検索したい。そう思い立ち、もっとハイスペックなスマホに機種変更しようと店を訪れたのだ。

だが、どの機種に変えるかは全くノープランだったため、店員に「どのようなものをお探しで」と聞かれて、「早いやつを」と返す、通信簿オール1の受け答えをしてしまった。その時点で、店員に「スマホが使えるゴリラが来た」と思われてしまったらしく、「今お持ちの機種よりは、どれも早いですよ」と、これまた偏差値3の答えを返されてしまった。

確かに、その時持っていたのは2年以上前の機種であるから、どれでも今のよりは動作が速いだろう。しかし、どうせ変えるなら一番速いのにしたい。よって、人気モデルの中でも最新のものを選ぶことにした。

そこから機種変の手続きに入ったのだが、どうやら店のマニュアルに「ゴリラにも一応説明はしろ」と書かれているらしく、店員はその機種の説明を始めた。そこで出てきたのが「4G」である。

こっちは1秒でも早くエゴサをしたいので、店員の説明などほとんど聞いていなかったが、とにかくその4Gとやらは、今持ってるものより一段上の通信規格であるということらしい。

「よしわかった、早くエゴサをさせろ」と膝を打ったのだが、その後もオプションとかの話が延々続いたため、私がもう少し気が短いチンパンジーだったら、店員に目つぶしを食らわせ、スマホを奪い取り、チンパンジーとは思えぬ器用な手つきで検索窓に「カレー沢」と入力するところだった。

言葉の凄みを妄信せず、自分の思いをつかむ

そんな冗長な手続きを経て4Gのスマホを手に入れたわけだが、結論から言うと、メチャクチャ動作が遅いのである。

エゴサはまだいいが、ソシャゲの動きが明らかに前の機種より悪くなった。そしてとてつもなく発熱する。ゲームを起動してものの10秒で、松岡修造の激励を受けたかのごとく熱くなっているのだ。どう考えても、通信速度より発熱速度の方が速い。

理屈の上では前のスマホより今の4Gのスマホの方が高速・大容量なのかもしれないが、事実ソシャゲの動きが遅くなっているのだから、全くの無意味である。

もっと端的に言うと、「夢王国と眠れる100人の王子様(略称:夢100)」のパズルがカックカクなのである。もちろんこのゲームは乙女ソシャゲだ。つまり、こいつは人の生きがいを奪うばかりか、人の恋路(二次元との)まで邪魔しているのだ、万死に値する。

だが、私とて策を講じなかったわけではない。むしろ、4G、人気モデル、最新型という新しいスマホの実力を最後まで信じようとした。ゴリラなりに軽量化の方法を調べ全部やったが、ダメだったのだ。

そこで次の策として、スマホの冷却シートを購入した。このシート、電池パックカバーを外して内部の見えない部分に貼るタイプなのだが、なんとこの人気モデルの最新型はカバーが外れないのだ。

そのため、外側の見える部分に白いシートを貼ることとなり、スタイリッシュスマホは一瞬にして、サロンパスを貼ったまま上半身裸で外出している人になった。しかも効果はというと、「俺の炎がそんなもので消せると思っているのか」と言われたのかと思うぐらい、全然冷えなかった。誠に少年漫画の主人公のごときハートのスマホである、気に入った。

しかし、このスマホばかりが悪いわけではない。ショップに行く前に少しでも下調べして行けば、どのスマホがソシャゲをプレイするのに向いているか、ゴリラなりに多少はわかったはずである。それを何も調べず、店員に言われるがまま選んだためこうなったのだ。それか、店員にはっきり「夢王国と100人の王子様がもっとも快適にプレイできる機種を頼む」と言えばよかったのだ。

これは5Gになっても同じことであり、5Gすごい、5Gなら間違いない、みたいな意識で選ぶと必ず同じことが起こる。4Gの方がマシだった、みたいな機種は絶対出るに違いない。最新とか、超高速とか、言葉の凄みを妄信せず、自分が何に特化したスマホが欲しいのか明らかにし、情報を集めてから選ぶことが重要なのだ。

5Gとは

最後に「5G」の意味だが、Gは「Generation」のG、つまり第5世代という意味である。通信各社は、今の規格よりさらに高速なこの5Gの開発に力を入れており、東京五輪に間に合わせることを目指しているという。

しかし、Gが「Generation」とわかる奴は何人いるのだろうか。おそらく、「5Generationっていうのかい?贅沢な名前だねぇ…!今からお前の名は5Gだ!いいかい、5Gだよ!」というやりとりがあったのだろう。


<作者プロフィール>
カレー沢薫
漫画家・コラムニスト。1982年生まれ。会社員として働きながら二足のわらじで執筆活動を行う。デビュー作「クレムリン」(2009年)以降、「国家の猫ムラヤマ」、「バイトのコーメイくん」、「アンモラル・カスタマイズZ」(いずれも2012年)、「ニコニコはんしょくアクマ」(2013年)、「やわらかい。課長起田総司」(2015年)、「ねこもくわない」(2016年)。コラム集「負ける技術」(2014年、文庫版2015年)、Web連載漫画「ヤリへん」(2015年~)など切れ味鋭い作品を次々と生み出す。本連載を文庫化した「もっと負ける技術 カレー沢薫の日常と退廃」は、講談社文庫より絶賛発売中。

「兼業まんがクリエイター・カレー沢薫の日常と退廃」、次回は2016年8月30日(火)掲載予定です。