今回のテーマは「人工知能」である。

「AI」と言ってこなかった時点でもう完全になめられているのだが、「じんこうちのう」と言ってこなかったところを見ると、まだ漢字は読めると思われているようだ。

もし「AI」がテーマだと言ってきたならば、「A(担当を)I(殺す)」という、本企画始まって以来の正解を出せたのに残念で仕方がない。今世にはびこるキラキラネームに比べれば、この程度の自由な読み方は許されてしかるべきである。

もし人工知能とカレー沢薫が囲碁をしたら?

「人工知能」、もはやこれがわからなければ、何もわからないだろうという気がする。その名の通り人工的に作られた知能、従来の機械とは違い、学習したり自分で考えたりできるもののことだろう。

しかし、その人工知能が何をやっているかと言うと、「チェス王者とチェスをして勝った」とか、「プロ棋士と囲碁をして、この前は負けたが今回は勝った」とかいう話ぐらいしか聞かない。もし「チェスや囲碁をするのが人工知能の仕事」と言われたら「貴族かよ」としか言えないし、実際それがメインの目的というわけではないだろう。

よって、人工知能が具体的にどこで活躍しているかググりにググってみたのだが、いまいち明確な情報を得られないし、最近は主に囲碁をやっているようなので、やはり人工知能というのは、親がメチャクチャ金持ちで働く必要がない奴みたいなものなのかもしれない。

段々ムカついてきたので、初心に返り改めてWikipediaで人工知能について調べてみた。だが、そこに書いてあることは今までで一番意味がわからなかった。

もう理解しようとするのはやめて、私も人工知能と囲碁で白黒つけたい。知能的には圧倒的に向こうが勝っているのと、私が囲碁のルールを知らないというハンデがあるため、先手必勝を狙いで、開始と同時に人工知能の基板を碁盤で破壊しにいこうと思う。やはり分かりあいたいなら、碁石などよりも拳を交えるのが一番である。

人工知能は人間を支配するか

ここまでググった範囲の情報で推測するなら、人工知能はまだ研究段階であり、その過程として囲碁をやったりしているのだと思う。それが囲碁の名人に勝ったりしているのだから、その研究はかなり進んでいると言えよう。

そして、最終的に人工知能に何をさせたいかというと、今我々人間がやっているような仕事である。確かに、人間と同じ、またはそれ以上に学習、思考が出来るようになれば可能だろう。それに同じ仕事でも、人間にやらせると休ませろとか給料を上げろとか文句を言ったり、内輪揉めをはじめたり、ちょっと目を離した隙に上司と不倫したりしてしまうが、人工知能ならおそらくそんなことはしないはずだ。だったら、人工知能にやらせた方が断然効率がいい。

しかし、「人間と同じように思考行動できる」と言っても、全く人間と同じ物を作りだしては意味がない。それだったら、人間を作る方が簡単だ。人工知能はよほど頭の良い人間にしか作れないと思うが、人間を作るだけなら、むしろ知識や判断力、冷静さがない方が作れてしまう場合もある。ここで人間の作り方を詳細に書くと、またしても一文も載せられなくなるので割愛するが、とにかく人工知能の目指すところは人間以上の働きなのである。

しかし、人工知能が人間より優れてしまったらまずいんじゃないのか、という危惧もされているらしい。確かに、人間を越えた人工知能が人間を支配しようとする、というSF映画はよく見る。そこまで非現実的でなくても、人工知能が人間を越えることにより問題が起きる、という指摘はされているようだ。

しかし、人工知能が人間を越え、万が一自我を持ってしまったとしても「人間を滅ぼして俺たちAIが地球を支配してやるぜ」と思うかは疑問である。何故なら「世界征服」という考え自体が「THE 人間の発想」というか、人間の中でもかなりバカ野郎側の奴が考えることなので、せっかく人間を越えた人工知能様がそんな面倒くさいことをやるとも思えない。

なので、我々人間は滅ぼされるのではなく、AIに支配され使われる側になってしまうのかもしれない。だが、多分AIは働く人間を見て「俺がやった方が早い」と物覚えの悪いバイトの新人を見ているような気分になるだろうし、ちょっと目を離すと出張と偽って愛人と温泉に行ったりするので、早々に「人間使えねえ」いう結論に達すると思う。頭が良いんだからすぐ気づくはずだし、気づかないようなら人工知能もたかが知れている。結局のところ人間が滅亡するような気もするが、それはSF映画のようなドラマチックなものではなく、おおむね自滅と言えるだろう。

ちなみに、話を現実の人工知能の方に戻すと、我が国が誇る棋士・羽生名人と人工知能との将棋対決がついに行われるのではないか、という噂があるようだ。平素は将棋に興味がない私でも、これは気になる戦いである。映画、特にSFものにおいて、邦画は洋画に大きく水をあけられている感があるので、この戦いを映画化すればよいのではないかと思う。

「羽生名人VS人工知能」、この字面だけでもかなりアツいし、ポスターも「エイリアンVSプレデター」調に作ればより迫力がでる。もちろん、ただ将棋を指すだけでは画的に地味なので、最新VFXを用いて、一手打つごとに火柱が上がるとか、バックが宇宙になるなどの演出も必要だ。

また、将棋勝負だったはずが、いつの間にか相手の「歩」が散弾銃のように羽生名人本人に襲い掛かり、それを名人が巨大化&硬化させた「桂馬」で防ぐという、最近ヒットした劇場版アニメ「キンプリ(KING OF PRISM by PrettyRhythm)」のような大胆な表現も取り入れたい。そして、最終的に名人が将棋盤でAIの基板をぶっ壊して「王手」である。

実際、人工知能が人間を越えてしまう日も来てしまうのだろうが、まだまだこのように人間も頑張って欲しいと思う次第だ。


<作者プロフィール>
カレー沢薫
漫画家・コラムニスト。1982年生まれ。会社員として働きながら二足のわらじで執筆活動を行う。デビュー作「クレムリン」(2009年)以降、「国家の猫ムラヤマ」、「バイトのコーメイくん」、「アンモラル・カスタマイズZ」(いずれも2012年)、「ニコニコはんしょくアクマ」(2013年)、「やわらかい。課長起田総司」(2015年)、コラム集「負ける技術」(2014年、文庫版2015年)、Web連載漫画「ヤリへん」(2015年)など切れ味鋭い作品を次々と生み出す。直近では、猫グルメ漫画「ねこもくわない」単行本が4月28日に発売された。

「兼業まんがクリエイター・カレー沢薫の日常と退廃」、次回は2016年6月7日(火)掲載予定です。