どっかで聞いたことはある気がするけど、意味を聞かれると「アレでナニだよ」と陰部の話をしているみたいになってしまうITワードをサーチする学習コラム、今回のお題は「マルウェア」である。

その言葉を聞いてまず最初に「マヌルネコ」が思い浮かんだ。全くかすってもいない。

しかし、予想したところで当らないし、意味を調べたところで意味がわからない。そもそも、新しい言葉を覚えたてのタラちゃんみたいな意識高い系が、その言葉を使いたいというよりは、それを言って相手が怪訝な顔をしたところで「知らないんだ?」とドヤ顔ダブルピースをかますためだけに存在しているような単語を立て続けに調べさせられて、開始4回にして私の怒りは頂点に達している。

そんなしゃらくさい単語をGoogleの検索窓にブチ込んでいる時間があるなら、おキャット様のさらなるご活躍と幸福を祈りたい。そんな私の怒りが、マルウェアなる呪いの言葉をマヌルネコという福音に変えたのだ。

なので、まず皆様も「マヌルネコ」を画像検索してほしい。「マルウェア」を検索窓に入れる際は、ウンコのついたパンツをゴミ箱にボッシュートするぐらいぞんざいでいいが、マヌルネコを調べる際は、絹を扱うように慎重に入力し、眠る赤ん坊の頬を撫でるかのように優しくエンターキーを押そう。

出てきた画像を見ただけで、100人中5兆人がマルウェアのことなどどうでも良くなったと思う。なんと神々しいお姿であろうか、まさにおキャット様の名にふさわしい。また神格があるのは見た目だけではない、1500万年前からいる世界最古の猫なのだ。まさに現猫神である。

それに比べればマルウェアなど、どう考えても、三日前ぐらいに出来た言葉だ。たまたま撮ったおもしろ写真や、何か深い事を言ってそうで何も言ってないつぶやきがTwitter上でたまたまバズッただけで、アルファツイッタラー気取りになっている奴ぐらいポッと出だ。それにTwitter上で最もRTされているのは、おそらくおキャット様画像であろう。

この時点でマルウェアに勝ち目はない。1500万年前から勝ち目がないし、8000万年経ったころからもっと勝ち目がなくなるだろう。

マルウェアがもたらした「思い出」

このように、「マルウェア」VS「マヌルネコ」の戦いは完全にマヌルネコの圧勝であることがお分かりいただけたと思う。しかしそう言う私が一体何と戦っているのかわからなくなってきた上に、もう尺を半分ぐらい使ってしまったので、そろそろ嫌でもマルウェアの話をしなければならない。そこで、ウンコのついたパンツを裏返して、もう一日戦わせなければいけなくなった時ぐらい苦々しい気持ちで、マルウェアを検索してみた。

ここで、マルウェアは新種の猫で、画面いっぱいにおキャット様の画像が現れたというのなら、私は初めて心から担当に謝罪と感謝を言わなければいけないのだが、幸い、やっぱりITワードだった。おかげで、担当に謝罪と感謝を伝えるという、電気椅子よりも辛い拷問を受けずに済んだ。

マルウェアとは、不正かつ有害な動作を行う意図で作成された悪意のあるソフトウェアや悪質なコードの総称だ。つまりウィルスやワーム、トロイの木馬、スパイウェアなどをまとめてそう言うらしい。

らしい、とは言ったが、まずウィルスや、ワーム、スパイウェアが何なのかを、正確に理解していない。このままでは、その単語をまたググり、またそこで出てきた意味の分からない単語をググるという無限ループに突入してしまう。マルウェアは想像以上の地獄ワードだったのだ。

無限ループに取られる時間がもったいないので簡単に言うと、マルウェアとは、パソコンや私に有害なもの、と言うわけである。しかし、そもそもウィルスなどのマルウェアを作る人間は、何が目的なのだろうか。個人的な予想として、マルウェアを作る者は、忘れ得ぬ思い出を人々に与えたくて作っているのかもしれないと思う。

というのはその昔、私が勤めていた会社のおっさん社員が、会社のPCでエロ的サイトを見ていたところそういったマルウェア的なものにかかってしまったらしく、ニッチもサッチもいかなくなり、エロティックな画面が表示されたまま女性社員に助けを求めるという、ぜひハリウッドで映画化してほしい事件があったためだ。

だが、調べたところ、もちろんそういう愉快犯的な者もいるが、最近ではネットバンキングの情報を抜き取るなど、いわゆる金儲けやビジネスのために作る者の方が多いらしい。ロマンのない話だ。

マルウェア、やはり見た瞬間感じた憎悪は間違いではなく、その意味も実にネガティブな物であった。しかし、マルウェアの語源については、評価に値するというか、意外と私好みなものであった。マルウェアとは「マリシャス(悪意のある)」と「ソフトウェア」を組み合わせて作られた言葉なのである

「悪意のある」、とてもいい言葉だ。たまに「私、口は悪いけど悪気はないんだよね」などと抜かす自称毒舌サバサバ系がいるが、言われた側からすると、貴様の感情など関係ない。バールのようなもので殴っておいて「悪気はなかった」と言われても納得できないのと同じだ。

その点、マルウェアは「悪意のあるソフトウェア」である。潔い。最初から殺すつもりで来ました、という感じが実に清々しい。仮にこれが「悪気はないけど、お前の描きかけの原稿を謎の拡張子に変えて開けなくするソフト」という意味だったら、そっちの方が許せない。

何かを攻撃する時は、悪気と殺意のみで行け、言い訳はするな。マルウェアの意味自体を理解できたとは言い難いが、その心意気だけは受け取った。


<作者プロフィール>
カレー沢薫
漫画家・コラムニスト。1982年生まれ。会社員として働きながら二足のわらじで執筆活動を行う。デビュー作「クレムリン」(2009年)以降、「国家の猫ムラヤマ」、「バイトのコーメイくん」、「アンモラル・カスタマイズZ」(いずれも2012年)、「ニコニコはんしょくアクマ」(2013年)、「やわらかい。課長起田総司」(2015年)、コラム集「負ける技術」(2014年、文庫版2015年)、Web連載漫画「ヤリへん」(2015年)など切れ味鋭い作品を次々と生み出す。直近では、猫グルメ漫画「ねこもくわない」単行本が4月28日に発売された。

「兼業まんがクリエイター・カレー沢薫の日常と退廃」、次回は2016年5月31日(火)掲載予定です。