【コラム】

兼業まんがクリエイター・カレー沢薫の日常と退廃

48 兼業作家とマイナンバー

 

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今回のテーマは確定申告である。

前に同じ話をしたような気がするのだが、バックナンバーを見てみるとやっぱりしていた

同じ話を何度もするのは、加齢による恍惚の人化が進むとよくあることだが、テーマを出しているのはアラサーの担当だ。私に負けず劣らずの恍惚状態と見える。これは前と全く同じ原稿を出しても通ってしまうのではないか、ワンチャンやる価値があると思った。もしとがめられたら「恍惚としてました」と言い訳すればいいことである。

しかし残念なことに、その後どうやら担当は全くの正気で、同じテーマを使って内容の違うコラムをもう1回書けという、ただ単に無茶を言っているだけということが判明した。

確定申告という年中行事

確定申告は毎年するものだが、当方に限って言えば、手続きする内容に大差は無い。今年もありがたいことに収入が激減することもなかった一方で、もちろん激増することもなかった。

私にとって、確定申告とは「今年もブレイクしなかった」と重々肌で感じていることを、数字の上でも知らしめてくれる行事といえる。毎年それを念入りに確認することにより、「もうどの角度から見ても売れていない」という清々しい気持ちで新年度へ踏み出せるのである。

コラムのタイトルにもなっているように、私は会社員との兼業漫画家なので、年末調整は会社でして、また確定申告もするというスタイルである。そんな漫画家に限らず、副業持ちの会社員を震撼させたのが「マイナンバー制度」である。出所はよくわからないが、「マイナンバー制度で、副業が会社にバレるらしいぞ」という噂がまことしやかにささやかれ、当方も例に漏れず西野カナのように震えた。

はっきり言って私は情報弱者である。背中に「情弱」というタトゥーを入れたいぐらいなのだが、画数が多くて痛そうなのでシンプルに「バカ」と彫りたいと思う。つまりバカなので、ソース不明の「マイナンバーで副業がバレるよ」という情報には大いにビビった口である。

もし、会社に作家活動がバレたらどうなるか。おそらく会社を辞めることになるだろう。「規則違反による懲戒」とかではなく、ただただ「恥ずかしくてそこにいられない」からだ。

会社での私は、とにかく陰気でみすぼらしい女である。話しかけられない限りは言葉を発しないし、話しかけられることもほぼない。もう6年ぐらい同じ会社に勤めているが、本当に誰とも仲良くないし、逆にそうだからこそ、今までバレなかったとも言える。

そんな女が、裏では下ネタしかない漫画や、こういった過激(なことを言っている風で実は誰よりも炎上を恐れている)コラムを書いているということが知れた日には、『会社では頼れる上司、家庭では素敵なパパだが、服の下には女性用下着の上下にガーターベルトを装着している人』と同じように、「法には触れてないが、とにかく気持ち悪い」という感想しか持たれないと思う。

こちらも、会社の人間が見ているかもしれないと思ったら、今まで通りに創作することはできないだろう。下ネタなどもってのほかで、「窓の外では小鳥がさえずっている」「世界は希望に満ちている」など、下ネタよりも気持ち悪いことしか描けなくなってしまうのだ。

このように、マイナンバー制度に対しては非常に恐怖したのだが、結論から言うと、今まで通りちゃんと確定申告していれば、よほどのことがない限りバレない、ということらしい。

もちろん、確定申告でバレなくても、いつ何がきっかけでバレるかわからないが、もし当コラムのテーマが「ガーデニング」とか「ヨガ」になったら、「バレたな」と思ってもらえれば幸いだ。

印税生活、その夢と現実

結局、今年も微々たる収入を申告するだけで変わりは特にない。

だが、「売れていないと言っても本を出しているのだから、実は印税で儲かっているんじゃないか」と思う人がいるかもしれない。いまだに本を出している作家=印税生活というイメージは強く、大して儲かってもいないのに、他人に「印税生活なんでしょ?」と言われて辟易しているという作家の話はよく聞く

私もそのようなことを他人からよく言われる、と言いたいが、驚くほど言われない。見るからに金の臭いゼロな上に、普通に臭いため誰も寄ってこないのである。

もう色んなところで言われているが、印税収入というのは、売れている作家とそうじゃない作家とでは雲泥の差だ。ヒット作家の本の帯には「100万部突破!」とか景気のいいことが書かれるが、私程度の作家だと、コミックスの初版発行部数(発売タイミングで刷った本の冊数)は余裕で1万部を切ることもあるし、その初版の数も、巻数が増えるごとに減る。1巻は希望的観測が入った数字だったのが、実際の売れ行きを見て2巻では現実を見た数値になり、さらに3巻は…と徐々に下り坂の様相を呈するのだ。

そうすると、コミックス発売によってもらえる金額は、最終的には2~30万ぐらいになってしまうし、もっと少ないこともある。もちろん大金だが印税生活には程遠いし、本が出せるほどのページ数がたまっても、単行本化されないことすらある。

もちろん、本がヒットすれば出版社は初版部数よりたくさん売るために「重版」する。作家は新しく刷られた部数に応じてまた印税がもらえるわけだが、私の本はマジで重版しないため、初版の印税をもらったきりになるケースが非常に多い。

昨年出版したコラム集「負ける技術」に関しては珍しく重版がかかり、先日4回目の重版(5刷)が決まった。読者においては「カレー沢、ついに印税生活か」と思われるかもしれない。確かに「5刷!」と言えば聞こえがいい。だが、この重版というのが非常に小刻みなのである。具体的な数字は伏せるが、実情は100万巻を1冊ずつ出している漫画の単行本が、「【累計】発行部数100万部!」と吹かしているのに近い。

だったらもう、初版発行部数が1冊の本を1000回重版して「1000刷突破!」とした方がいいんじゃないだろうか。きっと、私のような、背中に「バカ」とタトゥーの入った情弱が買うはずである。


<作者プロフィール>
カレー沢薫
漫画家・コラムニスト。1982年生まれ。会社員として働きながら二足のわらじで執筆活動を行う。デビュー作「クレムリン」(2009年)以降、「国家の猫ムラヤマ」、「バイトのコーメイくん」、「アンモラル・カスタマイズZ」(いずれも2012年)、「ニコニコはんしょくアクマ」(2013年)、「負ける技術」(2014年)、Web連載漫画「ヤリへん」(2015年)など切れ味鋭い作品を次々と生み出す。連載作品「やわらかい。課長起田総司」単行本は1~2巻まで発売中。10月15日にエッセイ「負ける技術」文庫版を発売した。

「兼業まんがクリエイター・カレー沢薫の日常と退廃」、次回は2016年2月9日(火)掲載予定です。

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インデックス

連載目次
第71回 連続特集・カレー沢薫と「IT用語」(12)オムニチャネル
第70回 連続特集・カレー沢薫と「IT用語」(11)ユビキタス
第69回 連続特集・カレー沢薫と「IT用語」(10)ホワイトハッカー
第68回 連続特集・カレー沢薫と「IT用語」(9)ビッグデータ
第67回 連続特集・カレー沢薫と「IT用語」(8)ランサムウェア
第66回 連続特集・カレー沢薫と「IT用語」(7)クラウド
第65回 連続特集・カレー沢薫と「IT用語」(6)ドローン
第64回 連続特集・カレー沢薫と「IT用語」(5)人工知能
第63回 連続特集・カレー沢薫と「IT用語」(4)マルウェア
第62回 連続特集・カレー沢薫と「IT用語」(3)FinTech(フィンテック)
第61回 連続特集・カレー沢薫と「IT用語」(2)VR
第60回 連続特集・カレー沢薫と「IT用語」(1)IoT
第59回 mixi時代のリア充アピールと「消灯」
第58回 春の花粉症と個々人の「体質」
第57回 飲み会に誘われた→たたかう、にげる?
第56回 SNS疲れと「インターネット上の友達」
第55回 カレー沢流・「真の親孝行」と「かんぴょう巻」
第54回 地方在住のオタクと「ガンジス川のまんじゅう」
第53回 カレー沢薫が激賞する「別腹で食べるべきスイーツ」
第52回 カレー沢薫、「ゆとり」「さとり」を語る
第51回 もしカレー沢薫の作品がアニメ/実写化したら
第50回 兼業漫画家が語る「健康法」と「クソゲー」
第49回 安直?楽勝?作家から見た「過去のヒット作のリバイバル」
第48回 兼業作家とマイナンバー
第47回 デザインを学んだカレー沢薫の「卒論」
第46回 カレー沢薫が「最後の晩餐に食べたい」一品
第45回 オタクがオタクであり続ける理由
第44回 漫画家・カレー沢薫がはじめてコラムを書いた日
第43回 カレー沢暴力からの卒業
第42回 兼業漫画家と女の「諦め」
第41回 カレー沢暴力(薫)が語る、「お断り」な仕事の依頼
第40回 女が「美」を希求する理由、そして“ありのまま”の罠
第39回 上京の旅路のロハスな過ごし方
第38回 酒もたばこもやらない兼業漫画家が愛する「嗜好品」
第37回 兼業漫画家と怒りの賢者モード
第36回 福山雅治の結婚と「公式設定」
第35回 もし「カレー沢薫」が改名するとしたら?
第34回 漫画家デビューしたいなら、まず石油王になってから
第33回 猫もまたいで通る「老後」の話
第32回 兼業漫画家が考える、「前の作風の方がよかった」と言われた時の対処法
第31回 カレー沢薫が偏愛する、ある猫の物語
第30回 「結婚すればリア充」なのか? 非リア充/リア充の境界線
第29回 猫派の兼業漫画家、「犬」を語る
第28回 漫画家の仕事をクールに演出する「作業用ドリンク」
第27回 続・「カレー沢薫先生サイン会」の開催動機
第26回 兼業漫画家の「作業用BGM」
第25回 カレー沢薫が語る「恋愛」~壁ドンは本当にときめくのか~
第24回 兼業漫画家とLINEスタンプ
第23回 兼業漫画家に学ぶタスク管理の極意
第22回 酒やたばこより健康を害する、たったひとつの事柄
第21回 兼業漫画家の「夏の風物詩」
第20回 漫画家の夫になるということ(あるいは、夫婦が暮らすということ)
第19回 漫画家という職業選択と親心
第18回 二次創作の醍醐味と争いを生まないための「注意」
第17回 漫画家・カレー沢薫が語る「アイデアのつくり方」
第16回 猫よ、人の望みの喜びよ
第15回 カレー沢薫というペンネームを生んだ「病」
第14回 コミュ障界の石川五ェ門が人間観察をしない理由
第13回 「カレー沢薫先生サイン会」の開催動機
第12回 兼業漫画家の美容意識と"オタクの美醜"
第11回 あなたは米に「萌え」られるか
第10回 健康で文化的な兼業漫画家の生活
第9回 漫画家の絵の上達と「オウンゴール」
第8回 漫画家の夫をめぐる「傾向」と「受難」
第7回 カレー沢薫の華麗なる交友関係
第6回 漫画家は怒り、編集者はスコップを持つ
第5回 兼業漫画家は"大平原"の夢を見るか
第4回 カレー沢流・漫画制作におけるライフハック
第3回 "兼業まんがクリエイター"の日常を徹底解剖
第2回 確定申告、その経費と内訳~カレー沢薫の場合~
第1回 "漫画を描かない漫画家志望"がデビューするまで

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