【コラム】

兼業まんがクリエイター・カレー沢薫の日常と退廃

46 カレー沢薫が「最後の晩餐に食べたい」一品

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今回のお題は「最後の晩餐に食べたいもの」である。

絵に描いたようなネタ切れになっている感が否めないが、代わりに言いたいことがあるかというと、ない。「伝えたいことは特にない」というのが、このコラムの一貫したテーマでもあるのだ。

食べるに食べられずにいるあの食べ物

食べ物のことについては、今までペペロンチーノやペペロソチーノ、ペペロンやチーノのことなど多く語ってきたが、今回は人生の最後には何を食べるかという話だ。

私には、長らく食べたいと思いながらも、未だに食べるに至っていない物がある。「最後の食事」とするなら、それが最有力候補になると考えている。

私はパスタが好きだが、ピザも大好きだ。イタリア人から陽気さとコミュニケーション能力を奪い尽くしたら私になる、というぐらいイタリアンが好きなのである。

その昔、「貧乏人は麦を食え」と発言したとしてマスコミに叩かれた首相がいたが、今の貧乏人は麦など食っておらず、何を食っているかというとパスタを食っている。

麺自体が安く、炭水化物ゆえに腹持ちも良い。ソースも安価であり、それすら買う金がなければ塩でも振って食べれば良い。私がペペロンチーノを常食できるのも、コスパが良いおかげである。

しかし、ピザはまだ貧乏食とは言い難く、「貧乏人はピザを食え」と吹かす政治家の報道も今のところないようだ。つまり、私にとってパスタはカジュアルだが、ピザはフォーマルなのだ。

ハンカチーフの代わりに胸ポケットにピザを忍ばせたいと思っているし、スカーフのごとく首にピザを巻きたいと思っている。それを入り口で「お客様、そのお召し物ではちょっと」などと止めてくる店は三流だ。

正装というのはその国によって違うもので、腰に干し首を三つぶら下げるのが最も礼を尽くした姿だという民族もいるだろう。アツアツのモッツァレラチーズが乗ったピザを首に巻きながらも涼しい顔でいることがどれだけ紳士的行いであるかわからない店などこちらから願い下げだし、他所の文化を認めない狭量さは、このグローバル社会において時代遅れとしか言いようがない。

話がとんでもない勢いでズレたが、ともかく私はピザが好きである。

特におススメはローソンの冷凍ピザである。300円以下で買える上、レンジで調理するものなのに、ピザのパリッとした食感も出せているという優れものであり、味も非常に良い。まるでローソンの回し者のようだが、別に金をもらっているわけではない。くれると言うならいくらでももらうつもりだが、とにかく一銭ももらえなくてもいくらでも褒めたい一品で、舞踏会などに招かれた際にはぜひ首に巻いていきたいピザなのだ。

しかし、このピザを知ってしまったばかりにどうしても頼めない物がある。ピザーラやピザハットなどのいわゆる「宅配ピザ」である。冒頭で言及した「長らく食べたいと思いながらも、未だに食べるに至っていない物」がこれである。

カレー沢氏と宅配ピザの距離感

ホームページなどで宅配ピザの写真を見るとどれも非常に美味そうであり、実際美味いのだろう。自分はマウスで数回クリックするだけで、ピザ屋の人がピザ専用の設備で調理し、しかも自分の家まで冷めない内に持ってきてくれる、ピザ愛好家にはたまらないサービスだとも思う。

しかし、値段にはどうにも承服しかねるのだ。1枚あたり平気で2000~3000円近くする。ローソンのピザが300円以下であることを考えると、宅配ピザのピザは畳一畳ぐらいの大きさでないとおかしい計算になる。もしそうであるなら喜んで2枚頼み、敷布団にピザ、掛布団にピザという夢を叶えるつもりだが、どうやら座布団ぐらいにしかできないサイズであるらしい。

焼肉や飲み会で数千円出すことに対してはそんなに躊躇しないのだが、それはどこで飲み食いしても値段がそこまで大きく変わらないからだ。ピザに関しては、なまじ300円以下で美味いピザがあると知ってしまったがために、約10倍の値段を払う踏ん切りがつかない、というのはあると思う。

これまで私は、何か良い事があるたびに宅配ピザを頼もうとした。今日こそ、今日こそ頼んでやるぞと、まるで風俗店の前を何往復もする童貞のように逡巡した。そして結局、値段を見て断念する、ということを繰り返していた。

別に、宅配ピザに価格に見合う値打ちがないと思っているわけではない。値段には当然至れりつくせりのサービス料も含まれているだろう。ただ、自分が宅配ピザを頼むに値する人間なのかを考えると、いつも「NO」という結論に達するのである。

よって、最後の晩餐には思い残すことをなくすためにも宅配ピザを頼もうと思うのだが、そもそも最後の晩餐ってどういう状況だ、とも思う。病気でもう明日死ぬという状態なら、多分ピザとか食えないと思うし、食事ができるのかさえ怪しい。

たとえ健康であっても、今日地球が木っ端微塵になりますよ、と言われて「よっしゃ! じゃあ最後にピザでも食っちゃいますか!」という発想になるかというと甚だ疑問であるし、宅配ピザの人も地球最後の日にまでピザを配達してはくれないだろう。

それ以前に、そんな日に飯を食っている場合なのだろうかとも思うが、おそらく私は何をすべきか考えている内に木っ端微塵になっているタイプである。

だったらもう何も考えず、「地球が滅びるでごわすか! なら大好きなピザを頼むデブ!」と部屋一面にピザを敷き詰め、その上を全裸で転げまわろうと思うので、宅配ピザの方々は、それどころではないかもしれないが、地球最後の日でも注文を受けつけていただければ幸いである。


<作者プロフィール>
カレー沢薫
漫画家・コラムニスト。1982年生まれ。会社員として働きながら二足のわらじで執筆活動を行う。デビュー作「クレムリン」(2009年)以降、「国家の猫ムラヤマ」、「バイトのコーメイくん」、「アンモラル・カスタマイズZ」(いずれも2012年)、「負ける技術」(2014年)(文庫版:2015年)、Web連載漫画「ヤリへん」(2015年)など切れ味鋭い作品を次々と生み出す。連載作品は「猫工船」、「やわらかい。課長起田総司」(単行本1~2巻)、「ニコニコはんしょくアクマ」(単行本1~2巻)。

「兼業まんがクリエイター・カレー沢薫の日常と退廃」、次回は2016年1月26日(火)掲載予定です。

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インデックス

連載目次
第87回 連続特集・カレー沢薫と「IT用語」(28) ゼロデイアタック
第86回 連続特集・カレー沢薫と「IT用語」(27) 生体認証
第85回 連続特集・カレー沢薫と「IT用語」(26)CPM
第84回 連続特集・カレー沢薫と「IT用語」(25)NAS
第83回 連続特集・カレー沢薫と「IT用語」(24)デジタルサイネージ
第82回 連続特集・カレー沢薫と「IT用語」(23)テキストマイニング
第81回 連続特集・カレー沢薫と「IT用語」(22)ファビコン
第80回 連続特集・カレー沢薫と「IT用語」(21)ERP
第79回 連続特集・カレー沢薫と「IT用語」(20) オンデマンド
第78回 連続特集・カレー沢薫と「IT用語」(19) VoIP
第77回 連続特集・カレー沢薫と「IT用語」(18) ディープラーニング
第76回 連続特集・カレー沢薫と「IT用語」(17) テレワーク
第75回 連続特集・カレー沢薫と「IT用語」(16) 5G
第74回 連続特集・カレー沢薫と「IT用語」(15) O2O2O
第73回 連続特集・カレー沢薫と「IT用語」(14)SaaS
第72回 連続特集・カレー沢薫と「IT用語」(13)シングルサインオン
第71回 連続特集・カレー沢薫と「IT用語」(12)オムニチャネル
第70回 連続特集・カレー沢薫と「IT用語」(11)ユビキタス
第69回 連続特集・カレー沢薫と「IT用語」(10)ホワイトハッカー
第68回 連続特集・カレー沢薫と「IT用語」(9)ビッグデータ
第67回 連続特集・カレー沢薫と「IT用語」(8)ランサムウェア
第66回 連続特集・カレー沢薫と「IT用語」(7)クラウド
第65回 連続特集・カレー沢薫と「IT用語」(6)ドローン
第64回 連続特集・カレー沢薫と「IT用語」(5)人工知能
第63回 連続特集・カレー沢薫と「IT用語」(4)マルウェア
第62回 連続特集・カレー沢薫と「IT用語」(3)FinTech(フィンテック)
第61回 連続特集・カレー沢薫と「IT用語」(2)VR
第60回 連続特集・カレー沢薫と「IT用語」(1)IoT
第59回 mixi時代のリア充アピールと「消灯」
第58回 春の花粉症と個々人の「体質」
第57回 飲み会に誘われた→たたかう、にげる?
第56回 SNS疲れと「インターネット上の友達」
第55回 カレー沢流・「真の親孝行」と「かんぴょう巻」
第54回 地方在住のオタクと「ガンジス川のまんじゅう」
第53回 カレー沢薫が激賞する「別腹で食べるべきスイーツ」
第52回 カレー沢薫、「ゆとり」「さとり」を語る
第51回 もしカレー沢薫の作品がアニメ/実写化したら
第50回 兼業漫画家が語る「健康法」と「クソゲー」
第49回 安直?楽勝?作家から見た「過去のヒット作のリバイバル」
第48回 兼業作家とマイナンバー
第47回 デザインを学んだカレー沢薫の「卒論」
第46回 カレー沢薫が「最後の晩餐に食べたい」一品
第45回 オタクがオタクであり続ける理由
第44回 漫画家・カレー沢薫がはじめてコラムを書いた日
第43回 カレー沢暴力からの卒業
第42回 兼業漫画家と女の「諦め」
第41回 カレー沢暴力(薫)が語る、「お断り」な仕事の依頼
第40回 女が「美」を希求する理由、そして“ありのまま”の罠
第39回 上京の旅路のロハスな過ごし方
第38回 酒もたばこもやらない兼業漫画家が愛する「嗜好品」
第37回 兼業漫画家と怒りの賢者モード
第36回 福山雅治の結婚と「公式設定」
第35回 もし「カレー沢薫」が改名するとしたら?
第34回 漫画家デビューしたいなら、まず石油王になってから
第33回 猫もまたいで通る「老後」の話
第32回 兼業漫画家が考える、「前の作風の方がよかった」と言われた時の対処法
第31回 カレー沢薫が偏愛する、ある猫の物語
第30回 「結婚すればリア充」なのか? 非リア充/リア充の境界線
第29回 猫派の兼業漫画家、「犬」を語る
第28回 漫画家の仕事をクールに演出する「作業用ドリンク」
第27回 続・「カレー沢薫先生サイン会」の開催動機
第26回 兼業漫画家の「作業用BGM」
第25回 カレー沢薫が語る「恋愛」~壁ドンは本当にときめくのか~
第24回 兼業漫画家とLINEスタンプ
第23回 兼業漫画家に学ぶタスク管理の極意
第22回 酒やたばこより健康を害する、たったひとつの事柄
第21回 兼業漫画家の「夏の風物詩」
第20回 漫画家の夫になるということ(あるいは、夫婦が暮らすということ)
第19回 漫画家という職業選択と親心
第18回 二次創作の醍醐味と争いを生まないための「注意」
第17回 漫画家・カレー沢薫が語る「アイデアのつくり方」
第16回 猫よ、人の望みの喜びよ
第15回 カレー沢薫というペンネームを生んだ「病」
第14回 コミュ障界の石川五ェ門が人間観察をしない理由
第13回 「カレー沢薫先生サイン会」の開催動機
第12回 兼業漫画家の美容意識と"オタクの美醜"
第11回 あなたは米に「萌え」られるか
第10回 健康で文化的な兼業漫画家の生活
第9回 漫画家の絵の上達と「オウンゴール」
第8回 漫画家の夫をめぐる「傾向」と「受難」
第7回 カレー沢薫の華麗なる交友関係
第6回 漫画家は怒り、編集者はスコップを持つ
第5回 兼業漫画家は"大平原"の夢を見るか
第4回 カレー沢流・漫画制作におけるライフハック
第3回 "兼業まんがクリエイター"の日常を徹底解剖
第2回 確定申告、その経費と内訳~カレー沢薫の場合~
第1回 "漫画を描かない漫画家志望"がデビューするまで

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