【コラム】

兼業まんがクリエイター・カレー沢薫の日常と退廃

36 福山雅治の結婚と「公式設定」

36/110

今回読者からいただいたお題は、「福山雅治やイケメン俳優の結婚について語り、そして我らを成仏させていただきたい」というものである。

まさかの福山結婚

今年は、福山雅治を筆頭に、多くの妙齢男性芸能人が結婚し、全国で推定5億人の死者が出たと予想される。

私などは子供のころからあこがれの男は二次元、周りが光GENJI最盛期にどうすればドラゴンボールの悟空と結婚できるかを考えていた女である。あまり芸能人の結婚でショックを受けたことはないが、それでも福山雅治の結婚は驚いた。

上手く言えないが、福山は、福山だけは、口の周りはカサついてるのに、Tゾーンは油田みたいになっている女の夢と殉死してくれる存在だ、という安心感があったのだ。

しかし、福山雅治には福山雅治の人生があった。つまり今回の事件で我々が肝に銘じておかなければいけないことは、「こいつは結婚しないだろうと思っていた男性芸能人も、意外とする」ということである。

肝に銘じた所で、死に方が「いきなり隕石に当たって死ぬ」から、「まあいつか隕石降ってくるだろうな、と予想しながらやっぱり当たって死ぬ」にシフトするだけだが、覚悟しておくにこしたことはないだろう。

しかし、好きな芸能人の結婚や熱愛に嘆き悲しんでいると、必ず「福山雅治が結婚していようがいまいが、お前のモノになる可能性は限りなくゼロなんだから大差ないだろう」などと冷や水をぶっかけたがる奴が出てくる。そういう問題ではないのだ。こういうことを言ってくる奴の前世はカナブンだし、来世はバッタである。

「公式設定」の破壊力

相手が二次元だろうが三次元だろうが、「公式設定」の存在はとにかくでかい。例えば、漫画でAと言うキャラがいたとする。Aに原作の中で特定のキャラとつきあっている設定がなかった場合、オタクたちは自分の好みでAをBやCというキャラとくっつけたり、はたまた「Aは自分とつきあっている」などの設定で妄想を楽しんだりするのである。 そんな状況の原作が進展する中で、「AはDというキャラとつきあっている」という設定が描かれたら、オタクにとっては一大事、状況は一変する。

いくら原作でDとくっついたとしても、妄想は自由なのだから、お構いなしにBやC、さらには自分と恋愛関係にさせておけばよいのだが、「Dとつきあっている」設定がなかったころのように、のびのびと妄想するのは至難の業だ。やはり、「公式設定」の影響力は非常に強い。

つまり、「福山雅治×吹石一恵」という公式カップリングが成立してしまったことにより、ファンのテンションはドン下がりなのである。自分は結婚前から「福山×吹石」派だったという者にとっては大勝利であろうが、おそらくかなり少数派であろう。

そんなのはお構いなしに、今まで通り福山雅治に対し幻想や妄想を抱こうとしても、どうしても脳裏に「公式カップリング」の相手・吹石一恵の存在が浮かんでくるのだ。これは寝る前のエロ妄想の最中、必ずお母さんの顔が浮かぶようになってしまったぐらい由々しき事態である。

成仏する前に状況を打開する

ではこの未曾有の事態を「福山雅治のファンはやめない」という前提でどう打開していくかと言うと、まず彼に対する萌えの見方を変えるという方法がある。人のものになったという現実を受け入れ、温かい家庭を築く福山雅治にあらたな魅力を感じていくという手法である。これにはまず、自分がファンとして使った金が、別の女を養うために使われたかもしれない、という現実を受け入れるだけの仏の精神が必要で、「福山雅治のことなら全て受容する」という人向けである。

それとは逆に、「全て受け入れない」という方法もある。いわば「原作スルー力」を極限まで高めるのである。二次元の世界でも、A×Dが公式設定であっても、「誰がなんと言ってもA×B」で活動している人は多くいる。その胆力を見習うのだ。オタクの中にも「〇〇(キャラ名)は10巻まで派」を公言する人がいるのだから「自分は吹石一恵と結婚するまでの福山雅治派」だと言ってしまってもいいし、二次創作の注意書きなどに「※このマンガにはBL表現が含まれます」と書いてあるのと同じように、自分の脳内で「※この福山雅治は吹石一恵と結婚していません」と一言添えて、あとは従来どおり妄想を抱けば良いのである。

もちろん、3次元の場合実在する人物ゆえ、2次元よりこういった割り切りが難しいと思う。だが、2次元の場合も、「原作で死ぬ」などの大事件が起こることがあるので、リスクの上ではイーブンと言える。それに、原作でいくら推しキャラが死のうと、「※この作品では〇〇は生きてます」と一言添えて、元気に二次創作をしているオタクたちもいるのだ。

「結婚しようがしまいが、お前のモノになることはない」という無粋なコメントが仮に真実なのだとしたら、「現実がどうだろうと関係ない」という開き直りもまた真実なのである。


<作者プロフィール>
カレー沢暴力
漫画家・コラムニスト。1982年生まれ。会社員として働きながら二足のわらじで執筆活動を行う。デビュー作「クレムリン」(2009年)以降、「国家の猫ムラヤマ」、「バイトのコーメイくん」、「アンモラル・カスタマイズZ」(いずれも2012年)、「ニコニコはんしょくアクマ」(2013年)、「負ける技術」(2014年)、Web連載漫画「ヤリへん」(2015年)など切れ味鋭い作品を次々と生み出す。連載作品「やわらかい。課長起田総司」単行本は1~2巻まで発売中。10月15日にエッセイ「負ける技術」文庫版を発売した。

「兼業まんがクリエイター・カレー沢薫の日常と退廃」、次回は11月17日(火)昼掲載予定です。

36/110

インデックス

連載目次
第110回 連続特集・カレー沢薫と「IT用語」(50)CPS
第109回 連続特集・カレー沢薫と「IT用語」(49)3Dプリンタ
第108回 連続特集・カレー沢薫と「IT用語」(48)CPU
第107回 連続特集・カレー沢薫と「IT用語」(47)e-文書法
第106回 連続特集・カレー沢薫と「IT用語」(46)CGM
第105回 連続特集・カレー沢薫と「IT用語」(45)MFP
第104回 連続特集・カレー沢薫と「IT用語」(44)チャットボット
第103回 連続特集・カレー沢薫と「IT用語」(43)メッセンジャー
第102回 連続特集・カレー沢薫と「IT用語」(42)PLM
第101回 連続特集・カレー沢薫と「IT用語」(41)CAD
第100回 100回にわたる連載を振り返って
第99回 連続特集・カレー沢薫と「IT用語」(40)モバイルペイメント
第98回 連続特集・カレー沢薫と「IT用語」(39)ダークネット
第97回 連続特集・カレー沢薫と「IT用語」(38)IPアドレス
第96回 連続特集・カレー沢薫と「IT用語」(37)JPEG
第95回 連続特集・カレー沢薫と「IT用語」(36)SCM
第94回 連続特集・カレー沢薫と「IT用語」(35)コグニティブ
第93回 連続特集・カレー沢薫と「IT用語」(34)ハプティック
第92回 連続特集・カレー沢薫と「IT用語」(33) 会話型UI
第91回 連続特集・カレー沢薫と「IT用語」(32) APT
第90回 連続特集・カレー沢薫と「IT用語」(31) 4K・8K
第89回 連続特集・カレー沢薫と「IT用語」(30) コネクテッドカー
第88回 連続特集・カレー沢薫と「IT用語」(29) ビーコン
第87回 連続特集・カレー沢薫と「IT用語」(28) ゼロデイアタック
第86回 連続特集・カレー沢薫と「IT用語」(27) 生体認証
第85回 連続特集・カレー沢薫と「IT用語」(26)CPM
第84回 連続特集・カレー沢薫と「IT用語」(25)NAS
第83回 連続特集・カレー沢薫と「IT用語」(24)デジタルサイネージ
第82回 連続特集・カレー沢薫と「IT用語」(23)テキストマイニング
第81回 連続特集・カレー沢薫と「IT用語」(22)ファビコン
第80回 連続特集・カレー沢薫と「IT用語」(21)ERP
第79回 連続特集・カレー沢薫と「IT用語」(20) オンデマンド
第78回 連続特集・カレー沢薫と「IT用語」(19) VoIP
第77回 連続特集・カレー沢薫と「IT用語」(18) ディープラーニング
第76回 連続特集・カレー沢薫と「IT用語」(17) テレワーク
第75回 連続特集・カレー沢薫と「IT用語」(16) 5G
第74回 連続特集・カレー沢薫と「IT用語」(15) O2O2O
第73回 連続特集・カレー沢薫と「IT用語」(14)SaaS
第72回 連続特集・カレー沢薫と「IT用語」(13)シングルサインオン
第71回 連続特集・カレー沢薫と「IT用語」(12)オムニチャネル
第70回 連続特集・カレー沢薫と「IT用語」(11)ユビキタス
第69回 連続特集・カレー沢薫と「IT用語」(10)ホワイトハッカー
第68回 連続特集・カレー沢薫と「IT用語」(9)ビッグデータ
第67回 連続特集・カレー沢薫と「IT用語」(8)ランサムウェア
第66回 連続特集・カレー沢薫と「IT用語」(7)クラウド
第65回 連続特集・カレー沢薫と「IT用語」(6)ドローン
第64回 連続特集・カレー沢薫と「IT用語」(5)人工知能
第63回 連続特集・カレー沢薫と「IT用語」(4)マルウェア
第62回 連続特集・カレー沢薫と「IT用語」(3)FinTech(フィンテック)
第61回 連続特集・カレー沢薫と「IT用語」(2)VR
第60回 連続特集・カレー沢薫と「IT用語」(1)IoT
第59回 mixi時代のリア充アピールと「消灯」
第58回 春の花粉症と個々人の「体質」
第57回 飲み会に誘われた→たたかう、にげる?
第56回 SNS疲れと「インターネット上の友達」
第55回 カレー沢流・「真の親孝行」と「かんぴょう巻」
第54回 地方在住のオタクと「ガンジス川のまんじゅう」
第53回 カレー沢薫が激賞する「別腹で食べるべきスイーツ」
第52回 カレー沢薫、「ゆとり」「さとり」を語る
第51回 もしカレー沢薫の作品がアニメ/実写化したら
第50回 兼業漫画家が語る「健康法」と「クソゲー」
第49回 安直?楽勝?作家から見た「過去のヒット作のリバイバル」
第48回 兼業作家とマイナンバー
第47回 デザインを学んだカレー沢薫の「卒論」
第46回 カレー沢薫が「最後の晩餐に食べたい」一品
第45回 オタクがオタクであり続ける理由
第44回 漫画家・カレー沢薫がはじめてコラムを書いた日
第43回 カレー沢暴力からの卒業
第42回 兼業漫画家と女の「諦め」
第41回 カレー沢暴力(薫)が語る、「お断り」な仕事の依頼
第40回 女が「美」を希求する理由、そして“ありのまま”の罠
第39回 上京の旅路のロハスな過ごし方
第38回 酒もたばこもやらない兼業漫画家が愛する「嗜好品」
第37回 兼業漫画家と怒りの賢者モード
第36回 福山雅治の結婚と「公式設定」
第35回 もし「カレー沢薫」が改名するとしたら?
第34回 漫画家デビューしたいなら、まず石油王になってから
第33回 猫もまたいで通る「老後」の話
第32回 兼業漫画家が考える、「前の作風の方がよかった」と言われた時の対処法
第31回 カレー沢薫が偏愛する、ある猫の物語
第30回 「結婚すればリア充」なのか? 非リア充/リア充の境界線
第29回 猫派の兼業漫画家、「犬」を語る
第28回 漫画家の仕事をクールに演出する「作業用ドリンク」
第27回 続・「カレー沢薫先生サイン会」の開催動機
第26回 兼業漫画家の「作業用BGM」
第25回 カレー沢薫が語る「恋愛」~壁ドンは本当にときめくのか~
第24回 兼業漫画家とLINEスタンプ
第23回 兼業漫画家に学ぶタスク管理の極意
第22回 酒やたばこより健康を害する、たったひとつの事柄
第21回 兼業漫画家の「夏の風物詩」
第20回 漫画家の夫になるということ(あるいは、夫婦が暮らすということ)
第19回 漫画家という職業選択と親心
第18回 二次創作の醍醐味と争いを生まないための「注意」
第17回 漫画家・カレー沢薫が語る「アイデアのつくり方」
第16回 猫よ、人の望みの喜びよ
第15回 カレー沢薫というペンネームを生んだ「病」
第14回 コミュ障界の石川五ェ門が人間観察をしない理由
第13回 「カレー沢薫先生サイン会」の開催動機
第12回 兼業漫画家の美容意識と"オタクの美醜"
第11回 あなたは米に「萌え」られるか
第10回 健康で文化的な兼業漫画家の生活
第9回 漫画家の絵の上達と「オウンゴール」
第8回 漫画家の夫をめぐる「傾向」と「受難」
第7回 カレー沢薫の華麗なる交友関係
第6回 漫画家は怒り、編集者はスコップを持つ
第5回 兼業漫画家は"大平原"の夢を見るか
第4回 カレー沢流・漫画制作におけるライフハック
第3回 "兼業まんがクリエイター"の日常を徹底解剖
第2回 確定申告、その経費と内訳~カレー沢薫の場合~
第1回 "漫画を描かない漫画家志望"がデビューするまで

もっと見る



人気記事

一覧

イチオシ記事

新着記事