今回のテーマは、「"漫画家"以外の顔での人との交流について」である。

とはいえ、漫画家としても漫画家以外としても全く人と交流していないので、テーマは無視して最近はまっているゲームの萌えキャラについていつもの倍の文字数で語ろうかと思ったが、「こんな風だから人と交流がないのだな」と納得されるのも何なので、無理にでも書こうと思う。

会社員と漫画家の兼業生活も早6年になるが、いまだに会社の人間は私が漫画家をやっていることを知らない。そういうと「それはありえない、絶対バレる」という人がいる。おそらく、「会社の人と世間話でもしている間にポロッと口を滑らせてしまうこともあるに違いない」という意味なのだろう。

しかし、それは「会社の人と世間話」という、難易度トリプルXミッションが出来る人のみに起こり得る事故である。当方、漫画家としても漫画家以外としても、どこに出しても恥ずかしくないコミュ障である。よって、会社の人と話すことがほぼないのだ。これでバレていたとしたら、頭の中が周囲にダダ漏れになる病気にかかっているとしか思えない。早急に病院に行くか、自ら命を絶ちたいと思う。

エッセイ作家と人間観察

会社のみならず、私は人と交流出来ないタイプであり、自分から話題をフることはなく、フられた会話も、"コミュ障界の石川五ェ門"として、全部斬鉄剣で切ってきた。そもそもプライベートでは部屋の外に出ることすらまれであり、独り言か、壁のシミに話かける以外は言葉を発しないことも珍しくない。

エッセイやエッセイ漫画を描く者にとって、人との交流、人間観察はもっとも大事な要素ではないか、と思われるかもしれない。しかし、エッセイ作家にも種類がある。

まず私のエッセイ漫画やエッセイ集を、本屋で定価購入してみてほしい。ブックオフを使う奴らとはここでサヨナラだ。そして購入後は、長い人生、全く無益な時間が少しぐらいあってもいいじゃないかという寛大な気持で読んでみてほしい。読んだ上で内容が全く頭に入らなかった、ということもあるかもしれないが、とにかく「他人のこと」をネタにした話が少ないと思う。

そもそも他人と交流していないから書けない、というのもあるが、あっても書かないと思う。怖いからだ。

他人をネタにするということ、そのリスク

他人をネタにして作品を書き、それを公表するというのは、実は怖いことなのである。全て相手の許可を取り、「これを載せますよ」と言っているなら良いが、そうでない場合も多いと思う。それでネタにされた相手が「名誉棄損だ」と言いだしたら一大事だ。

他人と日常会話することすらできないのに、怒っている人間を相手に謝罪をしたり、逆にさらにケンカをしたりするなんて、マジで無理である。なので「自分が出会った変な人」ネタでエッセイを書いている人を尊敬する。他人を攻撃(冗談でも相手は攻撃ととる場合もある)するということは、自分も攻撃される覚悟があるということだからだ。もちろん、何度も言う通り、作家になる時点で後先考えていないタイプが多いので、本当に何も考えずに他人をネタにしているのかもしれないが、勇気があることには違いない。

では私のようなチキン作家が何をネタにエッセイを書くかと言うと「自虐」である。自分をいくら攻撃しても、誰も文句を言わないからである。つまり、自虐というのは自分可愛さゆえに自分を攻撃するという、特殊プレイのような作風なのだ。

さらに自虐ネタというのはリスクが低い上にコストも安い。自分のことを書くにしても、体験型、取材型のネタは時間も経費もかかる。その点、自虐型のネタは、無尽蔵にある自分の黒歴史を掘り返してリサイクルすれば良いだけだ。

では、自虐系作家は丸儲けかというとそんなことはない。もちろん自虐エッセイで売れている人もいるが、全体で見ると体験型のような読者の興味を引くテーマの本の方が話題になりやすい。少なくとも、コミュ障が過去のどうでもいいことを思い出して延々悶絶しているものよりは、読んでみたいと思わせるだろう。

それに、墓場まで持っていくつもりだった黒歴史をネタにしてしまったがために、半永久的に世の中に残り、真の意味での「レジェンド」と化してしまうということも忘れてはいけない。

自虐型人間の取り扱い説明

作家のみならず、日常生活でも自分かわいさゆえに自虐をする人間はよくいる。だが、注意しなければいけないのは、自虐と謙虚は全く違うということだ。前者は、自分で自分を馬鹿だと言う割には、他人にそれを言われると烈火のごとく怒りだすのである。

両者の見分け方として、謙虚な人間は「自分を下げて他人を上げる」が、自分の為に自虐をする人間は、「自分を下げまくるだけで、他人を褒めはしない」のである。結局自分しか見ていないからだ。

私は「こういう面白い人がいた」系エッセイを見るたびに、「こんな変な人に出会うことがまずない。この作者はそういう人が寄ってくる星の下に生まれてきたのだ」と思っていたのだが、すごく面白い人に出会っていても、私自身が自分のことしか見ていないため、その人のおもしろさに気付いていないだけなのでは、と思いはじめた。

やはり、コミュ障にそういった作風は難しい。これからも内にこもりまくったネタで食べていくしかないようだ。

カレー沢薫
漫画家・コラムニスト。1982年生まれ。会社員として働きながら二足のわらじで執筆活動を行う。デビュー作「クレムリン」(2009年)以降、「国家の猫ムラヤマ」、「バイトのコーメイくん」、「アンモラル・カスタマイズZ」(いずれも2012年)、「ニコニコはんしょくアクマ」(2013年)、「負ける技術」(2014年)など切れ味鋭い作品を次々と生み出す。2015年2月下旬に最新作「やわらかい。課長起田総司」単行本第1巻が発売され、全国の書店およびWebストアにて展開されている。