今回は美容についてである。

引きこもることができない兼業作家ゆえの話を頼む、ということなのだろうが、引きこもりが平気でそのまま外に出てきてしまったかのようなスタイルで毎日会社に行っている。

カレー沢薫の美容術を公開

現在当方ロングヘアー、と言えば聞こえは良いが、ここ1、2年は美容院へ行くのも面倒くさがったため、自然にこうなった。それを毎日同じゴムで1本に縛るのだが、毛の量が多いためかすぐゴムが伸びるので、そろそろ荒縄で縛り上げようかと思っている。それにアクセントとして白髪を数本光らせるというワンポイントテクニックで周りにバッチリ差をつけられてから颯爽と、かかとが全くない靴で出社する。骨盤が歪んでいるので、右のかかとばかりすり減っているのも、上級者のスタイルだ。

「暗い人間は冷え性が多い」という通説通りの冷え性なので、会社では1年中、元が何色かわからないカーディガンを羽織っている。だが、あまりに着すぎて、後ろから見ると完全にシースルー状態になっていたことが最近判明した。誰もそれを指摘してくれる人がいない人間にしかできない奇跡のファッションである。

化粧においては、日焼け止め兼用のBBクリームを塗るのみだ。BBとはおそらく「ブス ババア」の略だろう。それも顔面の惨状を隠すには、一回につき一本は使うべきなのだが、どう考えても顔面の広さに間に合っていない少量しか使わない。

そして出社してから退社するまで、鏡を見ることは1度たりともない。良い物が映る可能性が皆無だからだ。最近は「自分の目に映らないものはこの世に存在しないと同じ」というルールを採用しているので、自分の顔がどんなに酷くても、見さえしなければセーフなのである。体重も同じルールのため、体重計には乗らない、数字で増えたことを把握しない限りは、太ったことにはならないからである。

そんな格好で毎日会社に行っているので、おそらく陰では「小汚い」とか「貧乏くさい」と言われているだろうが、面と向かって言われない限りは平気である。

実は小学生のころ担任教師に面と向かって「あなたの髪は小汚いから結ぶか何かしなさい」と言われたことがある、当時はショックであったし、その話を聞いた自分の親がモンスターペアレントであったら、モヒカンに火炎放射器を携え、ジープで学校に突っ込むぞ、と思ったが、今思えば本当に目に余る小汚さだったのだろう。大人の自分がこれだけ小汚いのだ、子供の自分が汚くないわけがない。

それに、子供の時はこうやって指摘してくれる大人がいるが、大人になると指摘すらあまりされなくなる、言われたことにすぐ癇癪をおこす前に、言われる内が華と思い、今一度言われたことを反芻し、やっぱり納得がいかなければ、思う存分モヒカンジープで突っ込むぐらいの思慮は必要であろう。

オタクが”実は”かわいいという風潮

このように私はぶっちぎり小汚い路線だが、世の女性の美意識は格段に上がっている。それは作家業界も例外ではなく、少なくとも私の会った女性作家は皆キチンとしていた。

昔は、「漫画を描く女はみんな根暗でオタクでブス」みたいに思われていた節があった、が最近ではそういうイメージもなくなってきたように思える。それどころか、逆に「オタク女は実はカワイイ」みたいな話も散見されるようになった。実は、オタク女=ブス説より、こっちの方が2兆倍困るのである。

オタク=ブスが定説だった時代は、身だしなみさえきちんとすれば「オタクなのにきちんとしている」、「オタクだけど割と可愛い」と、最初のイメージがマイナスなだけにプラス評価を得られることができたのだ。それが「オタク女はカワイイ」に変化してしまうと、「オタクなのにブスってどういうことだよ」などと言われてしまうのだ。地獄以外の何ものでもない。

どの世界にだって、美人もいればブスもいる。鼻フック相撲を極めようとしている美人だって、探せばいるだろう。しかしそれを、「鼻フック相撲をやっている女はみんな美人」などと言われたら、その世界の女たちは困ってしまうのである。

よって、個人的には、「オタク女はクソを10時間ぐらい煮つめたかのようなブスぞろい」というイメージの方が、「10時間と聞いていたが5時間相当ぐらいのブスだった」と思ってもらえるので助かるのだ(逆に「15時間だった」と思われることもあるかもしれないが)。とはいえ、全く美醜が関係ない分野に居ても、まずそこに注目されてしまうのが、女の悲しい宿命とも言える。

先日某CMが大炎上してしまったように、社会に出る女性に対し「会社の華になれるよう努力しなさい」というのはセクハラであろう。しかし「大人として一定の清潔感は保て」というのは、男女関係なく、もっともな主張である、と、あまりにだらしない最近の自分を見て思うようになった。なので、先述のスケスケカーディガンをついに捨てた。次は、毎日顔の脂をぬぐっているフェイスタオルを洗濯するところまでステップアップしたいと思う。千里の道も一歩からである。

カレー沢薫
漫画家・コラムニスト。1982年生まれ。会社員として働きながら二足のわらじで執筆活動を行う。デビュー作「クレムリン」(2009年)以降、「国家の猫ムラヤマ」、「バイトのコーメイくん」、「アンモラル・カスタマイズZ」(いずれも2012年)、「ニコニコはんしょくアクマ」(2013年)、「負ける技術」(2014年)など切れ味鋭い作品を次々と生み出す。2015年2月下旬に最新作「やわらかい。課長起田総司」単行本第1巻が発売され、全国の書店およびWebストアにて展開されている。