下のグラフが私の今現在の、平日と休日のタイムスケジュールである。

これを見てまずわかることは、図のセンスがなさすぎる。線1本、色1色どれをとってもダサい。われながら、親に年間75万の授業料を出してもらい、デザインの専門学校に2年通わせてもらってこれかと思うと、3秒以上は直視できない代物である。子どもが望む勉強をさせてあげるのも親の愛だが、その学校(クリエイティブ系専門学校は特にヤバい)で自分の子どもが本当に頑張れるのかを(就職するのが嫌で時間稼ぎしようとしてないか)クールすぎるほどに見定めてから送り出してやるべきだろう。

脱線してしまったが、これが漫画家兼会社員として働く私の1日だ、原稿制作数は多少変動するが大体月産50ページ、家族構成は会社員の夫と2人暮らしである。

平日の場合

まず平日を見ると、睡眠、会社、原稿以外ほぼ何もしていないように見えるかもしれないが、その通りである。睡眠を削るほどではないが、他のことは何もできない、というのが現状だ。睡眠時間は常に6時間から7時間、たとえやらねばならぬことがあっても、眠いと何もできないので「残りは明日の自分がやる」と割り切って寝る。起床は6時半、夫の弁当と朝食を作り出社準備をする(洗濯、風呂掃除は夫の担当)。8時から17時までは会社。事務職で残業なし、17時にはきっちり退社できる。帰宅後は洗濯物を取り入れ夕食を作り、風呂に入り夕食を食べ、18時には漫画の仕事を始め、その後は寝る23時前後までずっと原稿となる。

ずっと原稿と言っても、30秒に1回Twitterで自分の名前でエゴサーチしたり、1コマ描くたびに30分ほどpixivを眺めたりする時間も含めてだが、おおむねずっと原稿をしていると言って良い。しかしこの18時から23時の「原稿」はあくまで"描く時間"であり「話を考える時間」は含まれない。絵を描ける時間が限られているため、ネタ出しは他の時間で終わらせなければいけない。家に帰って机についてペンを握ったはいいが「描くものが決まっていない」というのが最悪なのである。

なので「原稿」と「睡眠」以外の時間でネタをひねり出さなければいけないのだが(最近は睡眠の間に何とかできないかと思っている)、これまた通勤時間、昼休み、ちょっと仕事の手が空いた時(会社で絵を描くわけにはいかないが、頭の中までは見られないので)など、絵を描く時間以上に限られている。なので、もはやおもしろいかどうかは度外視でネタを考える、というギャグ漫画家としてどうかしている状態なのだ。おもしろいかどうかはわからないが、とにかく話をまとめ、描いて、担当に見せてOKが出れば「こいつが面白いと言っているんだから良い」と納得して作画に入り(ウケなかったら担当のせいにできて一石二鳥である)OKが出なければ頭の中で担当をぶん殴ってから、修正するか、泣きながら説得してこのまま作画に移るかである。

こう書くと「もっと真面目に考えろ」と言われるかもしれないが、はっきり言って24時間柱に縛り付けられて考えたネタが、ハナクソほじりながら3分で出したネタより面白いとも限らないのである。それにどんな仕事でも、納期に間に合わせるのは最重要なのだ。出版社側からすれば、納得いく物が描けていないからと締め切りを破る作家の方が厄介なはずである。

ちなみに上記の通り、思いついた話を即原稿にできるわけではなく、いったんネームという話の素のようなものを担当に見せて(これを描く時間も「原稿」に入る)、OKが出てからはじめて本原稿に入れるので、担当の返事が遅いというのはこちらにとっては死活問題だ。よって某アニメ映画のように「40秒で返事しな!」と脳内で叫びながらネームをたたきつけることもしばしばである。

休日の場合

次に休日(日曜祝日/土曜は隔週で休み)だが、これはかなり変動がある。余暇の時間は仕事の進行状況によって増えたり減ったりするが、「今日は丸1日休む」という日はほぼない。ならばその貴重な余暇に何をするかと言うとはっきり言って「何もしたくない」。お出掛けなどもってのほかであり、DVDを借りることすらだるいので、もっぱらネットサーフィン、パソコンのブラウザゲームか、携帯ゲームという極力頭を使わなくて良い遊びか、好きなゲームキャラクターの絵や漫画などを描いたりしている。

漫画を描く息抜きに漫画を描くとはどういう変態だと思われるかもしれないが、そういう作家は結構多く、商業誌で活躍するかたわら趣味で同人誌を作るというド変態が数多く存在している。そのぐらい仕事で描く漫画と趣味で描く漫画は別物なのだ。

このように私の漫画家兼会社員生活は、完全にプライベートと家庭が犠牲となっている。夫の家事負担は大きくなる一方であるし、休日に2人で出掛けることはまれで、旅行などもってのほかなのだ。しかし夫が休みの日に私と過ごしたがっているように見えるかと言うと完全に「NO」なので、もしかしたら今が一番家庭円満なのかもしれない。

カレー沢薫
漫画家・コラムニスト。1982年生まれ。会社員として働きながら二足のわらじで執筆活動を行う。デビュー作「クレムリン」(2009年)以降、「国家の猫ムラヤマ」、「バイトのコーメイくん」、「アンモラル・カスタマイズZ」(いずれも2012年)、「ニコニコはんしょくアクマ」(2013年)、「負ける技術」(2014年)など切れ味鋭い作品を次々と生み出す。2015年2月下旬に最新作「やわらかい。課長起田総司」単行本第1巻が発売され、全国の書店およびWebストアにて展開されている。