【コラム】

兼業まんがクリエイター・カレー沢薫の日常と退廃

3 "兼業まんがクリエイター"の日常を徹底解剖

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下のグラフが私の今現在の、平日と休日のタイムスケジュールである。

これを見てまずわかることは、図のセンスがなさすぎる。線1本、色1色どれをとってもダサい。われながら、親に年間75万の授業料を出してもらい、デザインの専門学校に2年通わせてもらってこれかと思うと、3秒以上は直視できない代物である。子どもが望む勉強をさせてあげるのも親の愛だが、その学校(クリエイティブ系専門学校は特にヤバい)で自分の子どもが本当に頑張れるのかを(就職するのが嫌で時間稼ぎしようとしてないか)クールすぎるほどに見定めてから送り出してやるべきだろう。

脱線してしまったが、これが漫画家兼会社員として働く私の1日だ、原稿制作数は多少変動するが大体月産50ページ、家族構成は会社員の夫と2人暮らしである。

平日の場合

まず平日を見ると、睡眠、会社、原稿以外ほぼ何もしていないように見えるかもしれないが、その通りである。睡眠を削るほどではないが、他のことは何もできない、というのが現状だ。睡眠時間は常に6時間から7時間、たとえやらねばならぬことがあっても、眠いと何もできないので「残りは明日の自分がやる」と割り切って寝る。起床は6時半、夫の弁当と朝食を作り出社準備をする(洗濯、風呂掃除は夫の担当)。8時から17時までは会社。事務職で残業なし、17時にはきっちり退社できる。帰宅後は洗濯物を取り入れ夕食を作り、風呂に入り夕食を食べ、18時には漫画の仕事を始め、その後は寝る23時前後までずっと原稿となる。

ずっと原稿と言っても、30秒に1回Twitterで自分の名前でエゴサーチしたり、1コマ描くたびに30分ほどpixivを眺めたりする時間も含めてだが、おおむねずっと原稿をしていると言って良い。しかしこの18時から23時の「原稿」はあくまで"描く時間"であり「話を考える時間」は含まれない。絵を描ける時間が限られているため、ネタ出しは他の時間で終わらせなければいけない。家に帰って机についてペンを握ったはいいが「描くものが決まっていない」というのが最悪なのである。

なので「原稿」と「睡眠」以外の時間でネタをひねり出さなければいけないのだが(最近は睡眠の間に何とかできないかと思っている)、これまた通勤時間、昼休み、ちょっと仕事の手が空いた時(会社で絵を描くわけにはいかないが、頭の中までは見られないので)など、絵を描く時間以上に限られている。なので、もはやおもしろいかどうかは度外視でネタを考える、というギャグ漫画家としてどうかしている状態なのだ。おもしろいかどうかはわからないが、とにかく話をまとめ、描いて、担当に見せてOKが出れば「こいつが面白いと言っているんだから良い」と納得して作画に入り(ウケなかったら担当のせいにできて一石二鳥である)OKが出なければ頭の中で担当をぶん殴ってから、修正するか、泣きながら説得してこのまま作画に移るかである。

こう書くと「もっと真面目に考えろ」と言われるかもしれないが、はっきり言って24時間柱に縛り付けられて考えたネタが、ハナクソほじりながら3分で出したネタより面白いとも限らないのである。それにどんな仕事でも、納期に間に合わせるのは最重要なのだ。出版社側からすれば、納得いく物が描けていないからと締め切りを破る作家の方が厄介なはずである。

ちなみに上記の通り、思いついた話を即原稿にできるわけではなく、いったんネームという話の素のようなものを担当に見せて(これを描く時間も「原稿」に入る)、OKが出てからはじめて本原稿に入れるので、担当の返事が遅いというのはこちらにとっては死活問題だ。よって某アニメ映画のように「40秒で返事しな!」と脳内で叫びながらネームをたたきつけることもしばしばである。

休日の場合

次に休日(日曜祝日/土曜は隔週で休み)だが、これはかなり変動がある。余暇の時間は仕事の進行状況によって増えたり減ったりするが、「今日は丸1日休む」という日はほぼない。ならばその貴重な余暇に何をするかと言うとはっきり言って「何もしたくない」。お出掛けなどもってのほかであり、DVDを借りることすらだるいので、もっぱらネットサーフィン、パソコンのブラウザゲームか、携帯ゲームという極力頭を使わなくて良い遊びか、好きなゲームキャラクターの絵や漫画などを描いたりしている。

漫画を描く息抜きに漫画を描くとはどういう変態だと思われるかもしれないが、そういう作家は結構多く、商業誌で活躍するかたわら趣味で同人誌を作るというド変態が数多く存在している。そのぐらい仕事で描く漫画と趣味で描く漫画は別物なのだ。

このように私の漫画家兼会社員生活は、完全にプライベートと家庭が犠牲となっている。夫の家事負担は大きくなる一方であるし、休日に2人で出掛けることはまれで、旅行などもってのほかなのだ。しかし夫が休みの日に私と過ごしたがっているように見えるかと言うと完全に「NO」なので、もしかしたら今が一番家庭円満なのかもしれない。

カレー沢薫
漫画家・コラムニスト。1982年生まれ。会社員として働きながら二足のわらじで執筆活動を行う。デビュー作「クレムリン」(2009年)以降、「国家の猫ムラヤマ」、「バイトのコーメイくん」、「アンモラル・カスタマイズZ」(いずれも2012年)、「ニコニコはんしょくアクマ」(2013年)、「負ける技術」(2014年)など切れ味鋭い作品を次々と生み出す。2015年2月下旬に最新作「やわらかい。課長起田総司」単行本第1巻が発売され、全国の書店およびWebストアにて展開されている。

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インデックス

連載目次
第124回 連続特集・カレー沢薫と「IT用語」(64)デジタルツイン
第123回 連続特集・カレー沢薫と「IT用語」(63)半導体
第122回 連続特集・カレー沢薫と「IT用語」(62)IIoT
第121回 連続特集・カレー沢薫と「IT用語」(61)ADAS
第120回 連続特集・カレー沢薫と「IT用語」(60)アディティブ・マニュファクチャリング
第119回 連続特集・カレー沢薫と「IT用語」(59)LPWA
第118回 連続特集・カレー沢薫と「IT用語」(58)ディスラプティブ・イノベーション
第117回 連続特集・カレー沢薫と「IT用語」(57)HEMS
第116回 連続特集・カレー沢薫と「IT用語」(56)ニューロモルフィックコンピューティング
第115回 連続特集・カレー沢薫と「IT用語」(55)M2M
第114回 連続特集・カレー沢薫と「IT用語」(54)MR
第113回 連続特集・カレー沢薫と「IT用語」(53)シンギュラリティ
第112回 連続特集・カレー沢薫と「IT用語」(52)Society5.0
第111回 連続特集・カレー沢薫と「IT用語」(51)Industry 4.0
第110回 連続特集・カレー沢薫と「IT用語」(50)CPS
第109回 連続特集・カレー沢薫と「IT用語」(49)3Dプリンタ
第108回 連続特集・カレー沢薫と「IT用語」(48)CPU
第107回 連続特集・カレー沢薫と「IT用語」(47)e-文書法
第106回 連続特集・カレー沢薫と「IT用語」(46)CGM
第105回 連続特集・カレー沢薫と「IT用語」(45)MFP
第104回 連続特集・カレー沢薫と「IT用語」(44)チャットボット
第103回 連続特集・カレー沢薫と「IT用語」(43)メッセンジャー
第102回 連続特集・カレー沢薫と「IT用語」(42)PLM
第101回 連続特集・カレー沢薫と「IT用語」(41)CAD
第100回 100回にわたる連載を振り返って
第99回 連続特集・カレー沢薫と「IT用語」(40)モバイルペイメント
第98回 連続特集・カレー沢薫と「IT用語」(39)ダークネット
第97回 連続特集・カレー沢薫と「IT用語」(38)IPアドレス
第96回 連続特集・カレー沢薫と「IT用語」(37)JPEG
第95回 連続特集・カレー沢薫と「IT用語」(36)SCM
第94回 連続特集・カレー沢薫と「IT用語」(35)コグニティブ
第93回 連続特集・カレー沢薫と「IT用語」(34)ハプティック
第92回 連続特集・カレー沢薫と「IT用語」(33) 会話型UI
第91回 連続特集・カレー沢薫と「IT用語」(32) APT
第90回 連続特集・カレー沢薫と「IT用語」(31) 4K・8K
第89回 連続特集・カレー沢薫と「IT用語」(30) コネクテッドカー
第88回 連続特集・カレー沢薫と「IT用語」(29) ビーコン
第87回 連続特集・カレー沢薫と「IT用語」(28) ゼロデイアタック
第86回 連続特集・カレー沢薫と「IT用語」(27) 生体認証
第85回 連続特集・カレー沢薫と「IT用語」(26)CPM
第84回 連続特集・カレー沢薫と「IT用語」(25)NAS
第83回 連続特集・カレー沢薫と「IT用語」(24)デジタルサイネージ
第82回 連続特集・カレー沢薫と「IT用語」(23)テキストマイニング
第81回 連続特集・カレー沢薫と「IT用語」(22)ファビコン
第80回 連続特集・カレー沢薫と「IT用語」(21)ERP
第79回 連続特集・カレー沢薫と「IT用語」(20) オンデマンド
第78回 連続特集・カレー沢薫と「IT用語」(19) VoIP
第77回 連続特集・カレー沢薫と「IT用語」(18) ディープラーニング
第76回 連続特集・カレー沢薫と「IT用語」(17) テレワーク
第75回 連続特集・カレー沢薫と「IT用語」(16) 5G
第74回 連続特集・カレー沢薫と「IT用語」(15) O2O2O
第73回 連続特集・カレー沢薫と「IT用語」(14)SaaS
第72回 連続特集・カレー沢薫と「IT用語」(13)シングルサインオン
第71回 連続特集・カレー沢薫と「IT用語」(12)オムニチャネル
第70回 連続特集・カレー沢薫と「IT用語」(11)ユビキタス
第69回 連続特集・カレー沢薫と「IT用語」(10)ホワイトハッカー
第68回 連続特集・カレー沢薫と「IT用語」(9)ビッグデータ
第67回 連続特集・カレー沢薫と「IT用語」(8)ランサムウェア
第66回 連続特集・カレー沢薫と「IT用語」(7)クラウド
第65回 連続特集・カレー沢薫と「IT用語」(6)ドローン
第64回 連続特集・カレー沢薫と「IT用語」(5)人工知能
第63回 連続特集・カレー沢薫と「IT用語」(4)マルウェア
第62回 連続特集・カレー沢薫と「IT用語」(3)FinTech(フィンテック)
第61回 連続特集・カレー沢薫と「IT用語」(2)VR
第60回 連続特集・カレー沢薫と「IT用語」(1)IoT
第59回 mixi時代のリア充アピールと「消灯」
第58回 春の花粉症と個々人の「体質」
第57回 飲み会に誘われた→たたかう、にげる?
第56回 SNS疲れと「インターネット上の友達」
第55回 カレー沢流・「真の親孝行」と「かんぴょう巻」
第54回 地方在住のオタクと「ガンジス川のまんじゅう」
第53回 カレー沢薫が激賞する「別腹で食べるべきスイーツ」
第52回 カレー沢薫、「ゆとり」「さとり」を語る
第51回 もしカレー沢薫の作品がアニメ/実写化したら
第50回 兼業漫画家が語る「健康法」と「クソゲー」
第49回 安直?楽勝?作家から見た「過去のヒット作のリバイバル」
第48回 兼業作家とマイナンバー
第47回 デザインを学んだカレー沢薫の「卒論」
第46回 カレー沢薫が「最後の晩餐に食べたい」一品
第45回 オタクがオタクであり続ける理由
第44回 漫画家・カレー沢薫がはじめてコラムを書いた日
第43回 カレー沢暴力からの卒業
第42回 兼業漫画家と女の「諦め」
第41回 カレー沢暴力(薫)が語る、「お断り」な仕事の依頼
第40回 女が「美」を希求する理由、そして“ありのまま”の罠
第39回 上京の旅路のロハスな過ごし方
第38回 酒もたばこもやらない兼業漫画家が愛する「嗜好品」
第37回 兼業漫画家と怒りの賢者モード
第36回 福山雅治の結婚と「公式設定」
第35回 もし「カレー沢薫」が改名するとしたら?
第34回 漫画家デビューしたいなら、まず石油王になってから
第33回 猫もまたいで通る「老後」の話
第32回 兼業漫画家が考える、「前の作風の方がよかった」と言われた時の対処法
第31回 カレー沢薫が偏愛する、ある猫の物語
第30回 「結婚すればリア充」なのか? 非リア充/リア充の境界線
第29回 猫派の兼業漫画家、「犬」を語る
第28回 漫画家の仕事をクールに演出する「作業用ドリンク」
第27回 続・「カレー沢薫先生サイン会」の開催動機
第26回 兼業漫画家の「作業用BGM」
第25回 カレー沢薫が語る「恋愛」~壁ドンは本当にときめくのか~
第24回 兼業漫画家とLINEスタンプ
第23回 兼業漫画家に学ぶタスク管理の極意
第22回 酒やたばこより健康を害する、たったひとつの事柄
第21回 兼業漫画家の「夏の風物詩」
第20回 漫画家の夫になるということ(あるいは、夫婦が暮らすということ)
第19回 漫画家という職業選択と親心
第18回 二次創作の醍醐味と争いを生まないための「注意」
第17回 漫画家・カレー沢薫が語る「アイデアのつくり方」
第16回 猫よ、人の望みの喜びよ
第15回 カレー沢薫というペンネームを生んだ「病」
第14回 コミュ障界の石川五ェ門が人間観察をしない理由
第13回 「カレー沢薫先生サイン会」の開催動機
第12回 兼業漫画家の美容意識と"オタクの美醜"
第11回 あなたは米に「萌え」られるか
第10回 健康で文化的な兼業漫画家の生活
第9回 漫画家の絵の上達と「オウンゴール」
第8回 漫画家の夫をめぐる「傾向」と「受難」
第7回 カレー沢薫の華麗なる交友関係
第6回 漫画家は怒り、編集者はスコップを持つ
第5回 兼業漫画家は"大平原"の夢を見るか
第4回 カレー沢流・漫画制作におけるライフハック
第3回 "兼業まんがクリエイター"の日常を徹底解剖
第2回 確定申告、その経費と内訳~カレー沢薫の場合~
第1回 "漫画を描かない漫画家志望"がデビューするまで

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