【コラム】

東京バイツ

153 視聴率工作は、ゆゆしき事態なのか、やがて意味が無くなるようなことなのか

    福冨忠和  [2003/11/19]

    メディアを騒がせていた日本テレビの視聴率買収工作の問題で、11月18日、同社の調査委員会が調査結果を報告。これを受けて、日本テレビは工作をしたプロデューサーを懲戒解雇にし、買収工作に流用していた番組制作費の返済を求めることや、返済されない場合は詐欺罪で告訴することなどを言明。さらに日本テレビ最高経営責任者(CEO)の辞任や、日本テレビ社長の副社長への降格も発表した。

    なにしろ、プロデューサーは日本テレビの工作だとわからないようにするため、視聴率モニター世帯に対して、他の局の番組も併せて視聴してくれるよう働きかけていたり、調査会社のビデオリサーチに工作がばれそうになって一時期中断していたのを、しばらくして再開したりしていて、明らかに「魔が差した」というレベルではないし、工作が視聴率を上げるうえで、実際に功を奏していたことも推測できる。

    ところで、放送業界関係者やメディアの専門家の間でこの問題については、いくつかの典型的な反応が現れていると思う。

    ひとつはメディアやジャーナリズムの研究者に典型的な反応で、事件を機に、視聴率を基準に番組評価を行う放送業界の体質自体を見直すべきだ、というもの。地上波テレビ放送は、CMを流している広告主からの収入で成立していて、広告主側から見れば「広告媒体」にすぎない。それに対して、放送法などのコンセプトとして現れているように、有限な電波帯域、すなわち公共資源を数社で独占的に使用しているテレビ局は、報道はじめ「公器」として視聴者へ公正中立な情報提供を心がけるべきで、視聴率であるとか、スポンサーの思惑とか、あるいは権力による民心操作の意向などに振り回されるべきではない、という意見だろう。こういう事件を機に、視聴率競争を行う体質そのものを猛省すべき、というわけだ。

    もっとリアルな提案をしている人たちも少なくない。たとえば、ビデオリサーチの視聴率調査世帯の母数そのものを、簡単に工作ができないほど増やせばいい、というのが典型。昔は、ビデオリサーチ以外にもう1社、ニールセンという会社も日本の放送視聴率を調査していたことがあるが、同じように1社、2社と言わず、数社が異なる方法などで調査することで、工作によって起こるバイアスを軽減できるだろう、という意見もある。またさらに、地上波デジタルや衛星放送、CATVなどによって、テレビ放送が多チャンネル化していくのは趨勢だから、その中で視聴率のみを追い求めるような番組制作のスタンスそのものが、廃れていくんじゃないか、という意見もある。つまり放っておいても、こういう問題は無くなるんじゃないか、というわけだ。

    さらに、広告の専門家の一部には、1%あたり約100万人の視聴者として考える露出率からの評価は、そもそも広告の効果とはそんなに相関していないんじゃないか、という意見もある。いくら多メディア化の趨勢といって地上波テレビは受け手の数(視聴者数)が他のメディアより多いのは間違いない。しかし、視聴率がそのまま、CMの効果に直接結びついているわけではない。番組内容やCMそのものの表現の質によっても効果は変わるし、CMによって知名度があがっても、それが商品の販売促進など実際の効果にすぐ結びつくとは限らない。だから、広告の露出先(掲載先)や、量、質などと、その結果得る効果をもっと厳密に測定し、その関係の中から厳密にコストパフォーマンスなどを算出していけば、現在のような節操のない視聴率競争は意味が無くなってくるんじゃないか、という意見だ。

    実際、バナークリックなどによって広告の具体的な効果が測定しやすいインターネット広告は、ずうっと広告の売り上げを伸ばしている。不確かな放送視聴率よりも、コストが割り出しやすいインターネットに広告主が気づいてきた証拠だろう。

    ところで、さらに別の意見もあるのだ。

    現代人がますます忙しくなり、併せて放送の多メディア化やインターネットなど他のメディアの普及もあり、テレビ視聴の方法が変わる中で、現在のテレビCMの露出方法自体も変質していくから、視聴率など意味が無くなる、というもの。

    会社から帰宅して眠るまでの時間に、新聞や雑誌を読み、携帯電話やPCでインターネットにアクセスし、さらに自分の趣味として観たいDVDなどを観、衛星放送など有料の放送番組を観る。そうすると地上波テレビを漫然と観ている時間はなくなる。今後は、電子番組表(EPG)などで番組を調べて、巨大なハードディクレコーダーを搭載したメディアサーバーに、1週間とか2週間分の番組を全部録画しておき、気が向いた時に、それらを飛ばしながら観ていく、というスタイルになる、という。自らの可処分時間を基盤としたこの番組視聴スタイルでは、当然のことながら、ほとんどのCMは飛ばして視聴されることになる。実際、ある調査では、HD録画された地上波番組の視聴時に、多くの人が(簡単に早送りできるので)途中のCMを飛ばし、ほとんどの人が、番組最後のCMを観ないことなどもわかっている。そうなれば、視聴率ばかりでなく、現在の地上波放送自体が成立しなくなってしまう、というのだ。

    果たして、どの意見が正しいだろうか。

    福冨忠和(Tadakazu Fukutomi)
    vwyz@jca.apc.org

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