【コラム】
なにしろNHKのニュースでウイルス感染時の対応法を説明したくらいだから、被害はかなり大きかったのだろう。正確にはウイルスというよりワームというべきな今回のBlasterの騒ぎ。感染するとマシンがシャットダウンを繰り返すという点も、ユーザーがパニックになる要素だ。
常時接続ブロードバンド時代だから、こういう被害はひきもきらないし、現実的にOSを改良し続ける限り、今回ねらわれたようなバグを根絶やしにすることは不可能だろうから、この騒ぎは今後もイタチごっこ的に続いていくのだろう。
しかし、コンピュータウイルスやワームの類は、ちょっとプログラムを書いていたら偶然生まれてしまった、なんてことはありえない。映画に出てくるマッドサイエンティストの発明じゃあるまいし、OSのセキュリティホールを正確にねらって感染・増殖していくような仕組みなど、それなりに高度なプログラミング技術を持ってないと作れない。ウイルス騒ぎが慢性化しているせいで、ユーザーはまるでインフルエンザのような感染病とか、ひどい場合でも地震のような天災みたいに、「運が悪かった」と思いがちだが、意図してそれを作り、実際に配布している人物がいるわけだ。じゃあ、一体、誰が何の目的で作っているのか、どうしても気になる。
ニューヨークを中心に起こった先のブラックアウト(電力ストップ)騒ぎでは、たった一日でその経済的な被害が兆の単位に上るという試算もあった。そこまでではなくても、数万、数十万単位のPCが感染すれば、かなりの経済ダメージになることは間違いない。こういうマクロな側面をとらえて、ワーム攻撃を「サイバーテロ」と呼ぶ人もいる。中には、原理主義的な組織や反資本主義的な国家やテロリストが、ワームを開発して散布しているのではないか、などという憶測すらある。今回は特に、同時期にイラクの国連施設への爆弾テロが起こり、和平合意後最大の自爆テロがイスラエルで発生したこともあって、こういう情報は流れやすいかもしれない。
しかし、経済ダメージをねらったテロにしては、ずいぶん中途半端な攻撃ではないか。犯行声明は出てこないし、その無差別な攻撃から政治的な背景はあまり感じられない。感染した個々のユーザーにとってはショックだが、サーバーなどではなく端末のPCをねらった攻撃なので、被害が分散しすぎていて、テロ本来の効果である恐怖感を社会的に与えることはできていない。
そんなふうに考えると、ワーム作成者は、愉快犯か、あるいはなんらかの個人的な私憤・義憤によるものと推測できる。じゃあ何が愉快で、どんな私憤・義憤があるのか。
よく噂されるのは、感染するソフトや機器の開発メーカー(今回の場合はマイクロソフト)への恨みがある人がやっている、という説。過去の経緯から生じた、なんらかの個人的な恨みや悪意があるとか、実は競合メーカーなどが組織的に作っている、セキュリティソフトの会社が自社製品を売るために開発している -- など、「サイバーテロ」だと騒ぐのと同じような、それ自体に悪意ある噂も冗談半分ではあるが、よく聞く。
いくらなんでもそれはないだろう、と思うが、新しいOSのバグをついて、いきなりシャットダウンするなど、つねに高度化し、かつ、どこか凶悪化しているワームの実情を考えると、単なる愉快犯以上のはっきりとした悪意を感じるのだ。
PCに感染するウイルスは二十年以上前から存在しているが、実際、初期のものの中には、特定の日にいきなり音楽を演奏するなどジョークだけのものもあり、悪意を感じるケースでも、それなりのユーモアがあったりした。しかしBlasterには、そういう知的なウィットの類は感じない。なんとなく、軽症のユナボマーのようなラッダイド主義者が、PCの撲滅を目指してせっせとワームを開発しているイメージがつい思い浮かんでしまう。過去には生化学兵器を使ってハルマゲドンを企図した宗教団体だって実際存在したわけだから、サイバースペースにだって同じような人がいそうだ。
ところで、人体に寄生している細菌には、善玉菌と呼ばれる、被害ではなく効用をもたらす細菌もいる。不思議なのは、人体、PCに限らず、外部から感染する細菌、ウイルス、ワームの類には、どうして善玉のものがいないのだろう。実は存在するがあまり公表されないだけだろうか。感染すると頭がよくなってしまうインフルエンザとか、他の病気を駆逐する天然痘とかも、中にはありそうなものだが聞いたことがない。PCに感染するワームでも、マシンを高速化するものとか、ディスクのフラグメント化を解消するものとか、もしワーム開発者が単なる愉快犯であるなら、時には作りそうなものだ。
思えば技術の多くも、戦争のための技術、つまり軍事技術として生まれてきている。技術はもともと攻撃的な意志を解放しやすいモノなのだろうか。かつては、議論が加熱して罵詈雑言の嵐になっても、殴り合いや殺し合いになることがない電子コミュニケーションに、希望の側面を見る向きが多かった。しかし、いまや悪意の側面ばかりが目につくのだ。悪意は感染・連鎖しやすく、善意はなかなか伝わらない。
福冨忠和(Tadakazu Fukutomi)
vwyz@jca.apc.org
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