【コラム】

東京バイツ

136 体を作り替えることは、自分自身を領有している証なのかもしれない

    福冨忠和  [2003/07/10]

    頭部が癒着したまま成人した双生児の分離出術が失敗したというニュースが流れた。成人してからの分離手術例というのはあまり多くないらしく、しかもこのケースでは、ふたりの血管の一部が共有されていて、危険度がかなり高かったらしい。

    この話を私はテレビのニュースで漫然とみていただけなのだが、コンビニで支払いしようとレジに行くと、よく見かける近所の中年女性が、店員とこの話題で話し込んでいた。彼女がそこで主張していたのは、たとえ他人と違っても、親から授かった体を作り替えるとバチが当たる、というようなことだった。よく聞けば、その直前に店を訪れた顔のどこかに派手にピアシングした人物のことから話題が移行してきたらしい。

    顔ピアスが果たして自然の摂理に逆らうというほどのことなのかどうかはともあれ、双生児にとって分離手術は、命がけの選択でもあったらしいし、この女性の軽口に同意するつもりなど毛頭ない。ただこの人のいうような「生得的なもの、自然状態を人間や個人が勝手に変更すべできない」という通念は、意外に広範囲な人に共有されている気がするのだ。

    また、天なり自然なりから授かった体の改ざんはいいことではない、というこの手の考え方は、どこか人間の運命が星座の運行だとか、生まれた月だとか、血液型などであらかじめ決定されていて、自らの努力や意志ではどうにもできない部分がある、というタイプの考え方と似ている気がする。星座とか干支だとか、古代の自然現象の理解を元にしているならまだしも、これが家系とか血統とか、遺伝的な要因と相関しうるところで語られ出すと、過去に国家社会主義者や民族主義者が採用した優先遺伝学の発想とそんなに変わらなくなってくる。地図が読めないのも、人の話を聞かないのも、もともと遺伝子のレベルでプログラムされた天命だから、直そうなどと思わずあきらめたほうがいい、といったタイプの疑似科学的な言説が結構はびこっているのも、同じ社会通念の別の側面での現れではないだだろうか。

    バイオテクノロジーがクローン人間を生み出す将来的な可能性については、さすがに批判的な意見の方が多い気がするけれど、裏返してみれば、こには、クローン人間の「人造人間」イメージに対する嫌悪感というより、遺伝子レベルで決定されるような、旧来は自然の摂理として「あきらめ」られていた個人の生まれ持った特質などを、人間自身がコントロールしてしまうことへの拒否感が強いだろう。

    そう考えるとピアシングとかタトゥとか、あるいは美容整形もそうだが、こういう先天的なものはあきらめなさい型の、社会にはびこるある種の全体主義や、親がくれた体を大事にしろ的な道徳観に対して、「俺の体は俺のもんだ」という個人主義の基本原理を主張する部分もあるわけだ。

    ただ、「体の改ざん」にはもちろん限界もある。死者の人体パーツを寄せ集めたフランケンシュタイン博士の怪物は、果たして実際の人間社会の中で倫理的に許容できるだろうか。あるいはブラックジャックに登場するピノコはどうだろう。どちらもいわば「死」の状態にある人体を、よみがえらせた話であり、そこでは脳死のような生/死の境界を巡る議論を経由する必要もない。ただ、ブラックジャックに感謝するピノコはともあれ、フランケンュタインの怪物の場合は創造主である博士からも疎まれ、望まれないまま生きる自分自身を恨むことになる。そこでクローズアップされているのは、「本人が望みもしないことを勝手にやった身勝手な人間像」だ。だが、それは子ども自身の生誕の意志を確認することもなく、自分の子どもを誕生させてきたすべての親とどこか違うのだろうか。

    自分の身体を自分自身が完全に所有管理できない、という感覚は、たぶん男性よりも女性に強いだろう。ダナ・ハラウェイは「女神よりもサイボーグになりたい」と、サイボーグフェミニズムを提唱した(『猿と女とサイボーグ』)。それはサイボーグ化こそが、自分自身の身体を領有している証だと考えたからだ。双生児が命がけで挑んだのは、たぶんこの感覚に近い。ニュースのほうで、「ふたり」は手術成功後の、自分たちの進路に関する希望を述べていたのだ。

    コンビニのレジを占有している女性に、「何言ってるんだ!」と実は小声で言い、私はその場を離れた。彼女にその声は聞こえなかったようだ。

    福冨忠和(Tadakazu Fukutomi)
    vwyz@jca.apc.org

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