【コラム】
ある研究会で「日本のポップカルチャーをどうやって育てていくべきか」、あるいは、「育てようと思わず、ほうっておくべきか」などと話し合っている。この議論には、アニメ、ゲーム、マンガ、映画、文学、音楽、アートなどいろいろな分野の関係者が参加している。
私がここで「むずかしいな」と感じているのは、分野間の言葉が意外に通じないことだ。正確に言えば「言葉が通じない」というより、各分野・業界ごとの事情が、他の分野には知られていないこと。まあ「おまえが話をややこしくしている」という意見もあるけれど(^^)、どうもポップカルチャーの供給サイド、つまりクリエイターや業界は、受容サイド、つまり消費者やユーザーのように横断的になっていないことが目につく。
もちろん、コミケなどを中心にするいわゆるオタクカルチャーのところでは、ゲーム、アニメ、マンガ、小説など横のつながりが受け手側で違和感なく受け入れられていて、そこから活況感とか独自のコンテントなども生まれてきている。
しかし、それをもっぱらビジネスにしている職業的な送り手の方では、こういう横断性は「メディアミックス」などと呼ばれて、業界慣習や著作権の処理の仕方が違うものの組み合わせとなり、そんなに簡単なことではない。加えて、仕事としてひたすら作品を作り、送り出し続けなければならないプロたちは、あまり他の分野のことなど気にしている余裕がないのかもしれない。
でも、たぶんいま、私だけでなく、多くの人が日本のポップカルチャーを盛り上げていく好機、というか必要な時期なのだと感じている。『千と千尋の神隠し』のアカデミー賞受賞も大きいけれど、経済不況のためにすっかり元気の無い日本企業の中、マンガやアニメだけは逆に世界的な評価を得ている。
たとえば政府の出した「知的財産権戦略」などでも、「アニメーションやゲームソフトについて、我が国は、世界でも有数の評価の高い作品を生み出す力を有しているが、このような優れたデジタル・コンテンツを今後とも世界に供給していくための基盤を確実に維持しなければならない」と書かれている。また昨年アメリカの外交専門誌「フォーリンポリシー」が掲載したダグラス・マグレイの「Japan’s Gross National Cool(日本の国民総クール度)」という論文でも、「日本はアニメやマンガを通じてクールな国だと思われている。これは日本の資産だ」という主旨のことが書かれた(邦訳は雑誌「中央公論」2003年5月号に掲載)。
ところが、日本の実情はむしろ逆で、これまでの日本におけるポップカルチャーのクール度を保証していた多様性が奪われつつある気がする。たとえば『ハリー・ポッター』は100万部単位のヒットとなっているけれど、片方で小説などもふくめ本は売れず、出版不況と呼ばれている。その結果、これまでは「うまくやれば5,000部売れる」という判断で発行されていたような本が、出版社全体のリスクを考えて発行されなくなってしまう。そこそこの売り上げで成立していた出版ビジネスが、メガヒット級とインディーズに二極分解していく。この状況は音楽CDビジネスではもっとはっきりとした傾向になって現れている。
再販価格制度の撤廃など、業界で自由な競争を妨げていた慣習やシステムを改善すればいい、という意見もある。そういう旧弊が情報化や自由競争の時代にそぐわなくなっているのだと。しかし、本当にそうだろうか。自由競争になることで、作品の価値など中味で勝負出来ていた世界が、販売システム、コスト、資本力など、作品とは無関係な要素により影響を受けやすくなり、メガヒットとインディーズの二極化は、もっと進行するのではないか。
あるいは、Linuxやナップスターに代表されるような、著作権のシバリを緩和しようとする動向もある。作品を受容・消費者として楽しむ人は、著作権がなければ友達同士で自由に作品を交換できる。喜ばしいと思うだろう。またオリジナルを自由に改変できれば、新しい表現が生まれやすい、と考える人も少なくない。しかし、著作権を元にして収入を得ている作家たちは、とてもそう考えられない。たとえ日本がポップカルチャー振興のために、コピーフリーな環境となっても、アメリカのように法人著作権の消滅期間をどんどん延長して、自国の作品(たとえばミッキー・マウスなど)からの収入を、できるだけ多くしようという国策をとっている国もある。その場合は、日本の文化や産業が一方的に損をすることにならないだろうか。
こういう、もしかしたら差し迫った課題を、各分野の人が横断的に話そうとしているのに、言葉が通じない、と感じることが多いのだ。こんな私の話は、あなたに通じているだろうか。
福冨忠和(Tadakazu Fukutomi)
vwyz@jca.apc.org
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