【コラム】
前回(第87回 それは宇宙に向かって神の声を待ち受けているのだろうか)いきなりエジプトの話を書いたけれど、実はエジプトの首都カイロを訪れる前に、ドバイに滞在していた。そのことも書いておこうと思う。
出発前に、仕事でドバイに行って来る、という私に「わあー、いいですね」と言ったのはすべて女性。男性の大半からは、「それってどこですか?」とか「そんなところに行って大丈夫ですか?」という反応が返ってきた。あれだけアフガン問題が関心を集めたのに、日本での中東、アラブ、イスラム圏の理解はきわめて低い。ドバイという場所に関する男女のリアクションでは、おおむね女性の方が正しい反応だと思うのだが、そういう反応を示した人たちでも、それがどこにあるのか、となると答えられない人もいると思う。
ドバイは、アラビア半島の隅の、アラビア湾に面した首長国で、アブダビ、シャルジャ、ラス・アル・ハイマ、フジャイラ、アジュマン、ウム・アル・カイワインという6つの首長国とともにアラブ首長国連邦(UAE)をつくり、1971年に独立した。もともとアラビア湾の入り口のこの地域は、古くからの貿易拠点でもあり、イギリス統治以前の船乗りシンドバッドの時代から、貿易ハブ港として栄えていたらしい。
近年は石油産出国として日本との関係も深いのだが、一般的なビジネス拠点となるとバーレーンや、かの「中東のCNN」アルジャジーラ放送が拠点を置くカタール、あるいは同じUAEのアブダビなどのほうが知られていた。かつては天然真珠の産地として知られていたが、日本の英虞湾の養殖真珠が広まり、真珠産業は壊滅。しかし石油からの収入で、首長のもと国民全員が割と裕福に暮らす、という状態が続いていたらしい。
ところが一連の中東情勢が変化をもたらす。首長が石油権益や土地のすべてを所有し、国民に分け与えるという首長国のスタンスは、クウェート問題でわかるように国民や近隣諸国の不満につながる。こうした不安定要因を変えるべく、土地の永代借地化などの政策転換が行われ、あまりに石油や天然ガスに依存しすぎている経済からの脱却が図られた。
シェイク・モハメッド皇太子の号令の元、まず試みられたのがドバイのリゾート化。冒頭の女性たちの「いいですねー」発言は、このあたりにつながっている。砂漠の突端にあるひたすら暑い場所ながら、超高級リゾートホテルやアミューズメントパークなどが建てられ、ロサンゼルスのような近代的な町並みが国家事業として整備された。海のそばだからシーフードはうまいし、貿易都市の強みから貴金属も安い。中東の他の国と違い、水、食べ物は安全。自国人化政策によって移民を認めておらず、皆、裕福で犯罪も少ない。リゾートは大当たりした。
このドバイ・リゾート政策に関連して1998年から進められているのが、中東・アフリカ圏をにらんだビジネスの拠点とすること。私の訪問はこちらが目的だった。
これまでアラブの中心地といえば、政治的センターであり、同時に近代化の進んだエジプトだったが、インドからもアフリカからも近く、中東の中心にあるドバイが、ビジネス拠点として名乗りをあげた。外資企業にも税制優遇のあるフリーゾーンを設け、ブロードバンドインフラが整備されたIT開発地域インターネットシティが作られた。ここにはすでにIBM、マイクロソフト、ジーメンス、ソニー・エリクソン、キヤノンなどが中東拠点を置いている。
また、衛星放送を中心に急速に進む中東圏のマスメディアの集積地にすべく、メディアシティというエリアを設け、メディア産業も誘致した。他のイスラム国家などと違って、言論の自由が保証されている上、英語も通用するなど、欧米のメディアにも都合がいい。いまではCNNやCNBC、ロイターなども中東ビューローを置く。
わずか数年の間に成し遂げたこれらの政策の成功で、ドバイのGDPにしめる石油依存率はすでに2~3割となった。
行ってみた印象は「いいところ」。中東・アフリカは、これからITやメディア自由化が進展する地域で、今後の市場としても大きいが、社会条件のよくないそれらの国に進出するための足がかりとして、「中東のヨーロッパ」と呼ばれるドバイは、いまのところベストだろう。政策的制限があって、ドバイ国民となって住み着くことはできないが、英語がある程度できれば、住むに全く不自由はない。今年はUAEの航空会社エミレーツ航空が関空から直行便を飛ばすので、日本から10時間の距離にもなる。
正直言って私も、中東とかアラビアというと、戦乱、砂漠、宗教などから来るネガティブなイメージしか持っていなかった。ドバイが特殊なケースだとしても、先入観を壊すのにはもってこいの場所だ。
日本でも、この不況下、ITがらみの国家政策としてe-Japan、IT戦略などと名前はそれらしいが、「形を変えた公共事業」という批判通りの事態が進む。それに絡んだ地域振興策などでも実はほとんど成功例を見いだせないのに、理由をつけて相変わらず税金が投入されている。
日本の一連のIT政策とほぼ同じ1998年にはじまり、すでに成功を収めているドバイは、すばらしい参考例であるように思えたのだ。
福冨忠和(Tadakazu Fukutomi)
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