【コラム】
一応メディア論が専門ということになっているので、昨年のテロからアフガン戦争にいたる情勢の中で、(いいにつけ悪いにつけ)様々なメディアが果たした役割といったものを気にせざるをえなくなった。
最初の事件がニューヨークでのことだったこともあり、取材ソースだけでなく、米国でのショックの受け方をふくめ、その緊張感がそのまま世界に配信されたのはやむを得ないかもしれない。こうしたメディアが伝える気勢といったものは、それを受信できる地域、主に先進国の国民の気分に影響をあたえてきただろう。その結果起こった、インターネットやアルジャジーラをそのまま敵視した勘違い気味のホワイトハウスのブリーフィングや、異論を語る知識人たちへの政府、メディア、民間人による嫌がらせなど、要するにすべてメディアの内部の出来事なのだ。個人的には暗澹たる気分の中、やがて戦争が進行し、多くのジャーナリストたちがパキスタンや現地で取材をはじめると、戦争翼賛と形容せざるをえなかったような米国、そして日本のメディア報道にも、若干は冷静さが回復してきたように思えていた。
ところで、そんな折、世界規模でマスメディアやメディア政策の監視などを行う非営利団体「メディアチャンネル」(
たとえば、誰でも世界最大のメディアグループがAOLタイムワーナーであることは察しがつくかもしれない。2番目がディズニー(ABC放送を含む)であることも推測できるだろう。では3番目はどこか。もともとドイツに発したベルテルスマン(Bertelsmann)。4番目はヴァイアコム(VIACOM)。5番目は日本への進出が話題となったこともあるオーストラリアのニューズコーポレーション。6番目はフランスを発祥とするヴィヴェンディ・ユニバーサル(Vivendi Universal)。業界人でもなければ最初の2つくらいまで知っていればいいほうだと思うが、メディア関係者でもその影響力については、想像が及ばないだろう。
たとえば、AOLタイムワーナーの318億ドルを筆頭に、上位6社の収入合計は1095億6千万ドル。日本円で約14兆5768億円程度(133円で換算)。この金額は、おそらく世界の下位から9割以上までの国の国家予算を超えている。従業員数の合計は6グループ中最大のヴィヴェンディ・ユニバーサル(29万人)を筆頭に合計73万1440人。私の住む世田谷区の人口に匹敵する。
しかし、そんな規模の企業グループが何をやっているのかピンとこない。たとえば、AOLタイムワーナーはワーナーブラザーズ、ハンナバーバラほか12の映画会社を持ち、12カ国で映画館チェーンを展開。出版部門のタイムにはタイム、フォーチューンほか33の媒体併せて1億2000万人の読者がおり、書籍部門のタイムライフは24の出版ブランドがある。ここに加えてCNNやタイムワーナーケーブルを含むテレビ部門では、全世界に29の会社が展開されており、米国内だけで1300万人の視聴者を持つ。さらに14カ国に展開するAOLのサービス、52の音楽レーベル、30カ国で展開しているショップ、テーマパーク。細かく見ていくと、日本人でも、なんらかの形でこのグループ関連企業からのメディア情報を受け取っているのがわかるだろう。
これは2位のディズニーも同じ。165カ国で放送するESPN、ディズニーチャネルなど放送部門。米国内ではABCが10のテレビ局と29のラジオ局をネットワークしている。出版関連でも5つの雑誌と4つの新聞が系列化されており、ディズニーブックスほか18のオンラインベンチャーにはインフォシークなども含まれる。もちろんこれにウォルトディズニー、ミラマックス、タッチストーンなどの映画関連、ディズニーランド、MGMスタジオを含むテーマパーク展開を併せて、広大なビジネスの規模だ。
そしてBMG(音楽)、ランダムハウス(出版)、Lycosを系列化しているベルテルスマン。CBS、MTV(放送)、ブロックバスター(ビデオレンタル)、パラマウント(映画)が系列にあるヴァイアコム。フォックス(放送)、ハーパーコリンズ(出版)、サン(新聞)などを含むニューズコーポレーション。ユニバーサル(映画、テーマパーク)、ポリグラム(音楽)などが関連のヴィヴェンディ・ユニバーサル。日本に住み、日本のメディアから日本語の情報を受け取っているはずだったが、こうした欧米メディアの影響は抗いようもない段階に来ていると見るべきなのだろう。
もともとメディア産業は規模の経済(量産効果)に秀でた資本主義向けの産業といえる。第二次大戦後の成長期に成功した米国の映画、テレビなどの産業は、80年代には資本主義的経営でのもう一つの価値算出手法である補完性(ある経営資源を他の生産に流用できることによるメリット)を追い、垂直統合や合併を繰り返しメディアコングロマリッドと呼ばれるようになった。90年代のデジタルコンバージェンスの動向の中で起こったのは、こうした資本が新たに生まれたIT分野に流れ込むことだった。
メディア産業の収益規模は他の製造業などに比べて決して大きなものではないが、必要な多くの情報を商業メディアから受け取るようになっている私たちの生活の「情報経済」にとってはどうだろうか。多様なメディア情報を様々なリソースから受け取る先進国の現代人に対して、かつてのような国家的なメディアプロパガンダは有効ではない、という楽観的な意見もある。しかし、こうしたグローバルなメディア産業の台頭を考えると、地球レベルのイシューが一部の思惑によって左右されているのではないかという懸念を表明することは間違っていないだろう。特に、こういう時期には。
福冨忠和(Tadakazu Fukutomi)
vwyz@jca.apc.org
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