【コラム】
ビジネスマンどうしで初めて会ったりすると、「どちらにおつとめですか」に始まって、話題を次ぐためにか、「で、最近、そちらの業界はどうですか?」などという会話を交わしたりする。ところが、私の場合、プロフィール記入欄などでも「所属」「部署」「役職」なんていう項目がほとんど無記入になってしまうフリーランスの立場である上、見た目からしてえらく長髪で、堅気の商売には見えないので、多くの相手も、そうした「初対面の当り障りの無い会話」がしにくいらしい。「えーっと、どんなお仕事ですか」と聞かれて、こちらがひとしきり仕事内容を説明すると、なんとなく理解できるのは「インターネット」という言葉くらいなので、「最近、インターネットはどうですか?」などと、簡単には答えようの無い質問をされてしまうのだ。で、最近、インターネットはどうなんだろうか。
インターネット関連の話題のふりかたとしては、毎日、日経新聞あたりで読んでいる「ブロードバンド」には食傷気味だろうし、ICANNの動向がどうだとか、グヌーテラがどうだというあたりの話になると、ちょっと専門的すぎて一般性が無い。かといって、「実は誰も知らないこんなウラサイトがありまして」という話題は、もうこちらが提供しきれなくなっている。日本だけでも、インターネットの接続者数が5,000万人に届こうという時代。Webだけで考えても、偶然会った他人どうしの話題を担保できるサイズじゃなくなっているのだ。
ところが「2ちゃんねる」と「ほぼ日刊イトイ新聞」の話をすると、かなり多くの人が、噂を聞いているか、実体験として理解しているかであり、後者の場合は、その面白さや問題点についても、ひとしきり自分なりの意見も持っていて、初対面どうしのインターネットユーザーの話題としては、なかなかいいテーマだということがわかってきた。
「ほぼ日」はともあれ、「2ちゃんねる」については、「もう終わった」という意見もあれば「反2ちゃんねる」とか「1チャンネル」といった動向はあるにしても、そのアクセス数は、一説で、現状でもYahooあたりの掲示板の軽く10倍は超えていると言われているから、視聴率で言えば、「日本インターネット界の紅白歌合戦」くらいの社会現象の域に達していることになるだろう。
といっても、ここで2ちゃんねるで交わされている中味(というほどのものかどうかには意見があるだろうが)について、その運営方針ふくめて、どうこう言うつもりはないし、そもそもあの広大なサイトの一部しか読まないで、何も言えない。ただ一つ言えるのは、先日、その主宰者である西村氏にあったが、かなり意外なことに(経験値ということもあるだろうが)、コミュニケーションに関する知見に秀でて、なかなか鋭く、一見そこらへんのあんちゃん風ながら、どこか覚悟を決めた感もある好人物だった、ということくらい。
個人的には、少なくとも彼と2ちゃんねるの投稿内容を直裁に混同するのはよそう、と考えている。
それはともあれ、「ほぼ日」「2ちゃんねる」、それに「メルマガ」という言葉をすっかり定着させた功労者ともいえる「まぐまぐ」など、アクセス数が話題となっているサービスをならべてみると、言うまでも無いことではあるけれど、ようするに全部、参加者主体のコミュニケーションがそのままコンテントになっているということ。
「ほぼ日」は違うだろう、という意見も出てきそうだけど、糸井重里というモデレーターというか編集人が介在しているとはいえ、その本質はやはり参加型ということになるだろう。実際、糸井さんは、これまで新聞と名のつくものを今回合わせて3回作っているが、全部そういう意味での参加型なのだ。最初に雑誌『ビックリハウス』に掲載された「ヘンタイよいこ新聞」は読者投稿で作られたものだったし、2回目の有楽町マリオンのオープニングイベントとして発行された「日刊イトイ」も、素人記者に有楽町でミニコミ新聞を作らせるというものだったと記憶している。投稿モノということでは、他にもかの「コピー塾」ほか糸井さんの手がけたものは少なくない。
「まぐまぐ」は双方向のコミュニケーションじゃないから、他の2つとは違う、という意見もあるだろうけど、失礼ながら、配信されるメルマガのかなりが、「読者の楽しみ」よりも、「雑誌発行の楽しみ」に比重があり、そういう意味で、参加者=雑誌主宰者主体の「参加型コミュニケーションメディア」なのだと思う。
機知に富んだモデレーションを介して、人間への関心が増幅していくような「ほぼ日」、悪意が集中しながらも、それが逆に人間というものの真実を伝えているかのような「2ちゃんねる」、継続発行が発行者の精神世界の強度を示しているような「まぐまぐ」。この3点セットが、不況のなかひたすら元気の無い商用コンテントと対比されるべきものですね、と私が言うと、先方は、携帯電話に指をかけながら、「なるほど、たいへんなお仕事ですね」と言った。
福冨忠和(Tadakazu Fukutomi)
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