【コラム】
最近よく読者からメールが届く。可能な限りで返信するようにしているのだが、本当にもうしわけないことながら、すべてに返事をだすことはできていない。読者からメールが届くようになったというのは、書き手としてはうれしいことだけど、書いたものに良い評価や悪い評価があるということよりも、電子メールがコミュニケーションとして一般化したことのほうが大きいのかもしれない。
これまでも単行本や雑誌などのリアルワールドの出版物へのリアクションとして、読者から葉書や封書などが届いていた。しかし、読者欄を設け、投稿用のハガキまでおり込んでいるような雑誌や、同じく版元あてのハガキを投げ込んである単行本ですら、感想や意見が、筆者に直接フィードバックされるケースはきわめて少なかったと思う。よくても出版社の編集者のところで、編集やマーケティングの資料として使われる程度で、ほとんどは死蔵されているというのが実情だろう。
ところで、こういうふうに電子メールのコミュニケーションが一般化してくると、その作法についても、理解しておきたいことが出てくる。
時々頭を悩まされるのが、電子メールにあるSubjectの項目だ。マイクロソフト社のメーラーでは「件名」と訳されているが、別の会社のものでは「題名」となっているものもあるらしい。しかし、英語のSubjectには「名前」というニュアンスよりも「内容」というニュアンスが強いと思う。だから本当は「内容」と訳してくれたほうがいい。内容欄には当然、そのメールの内容や主旨が何かを書いて欲しいからだ。「挨拶」欄ではないので、「こんにちは」とか「山田です」と書かれても、ちょっと困る。
実際に、読者からだけでなく、はじめてメールをもらう人からの「件名」欄には、「はじめまして」と書いてあることが多い。今メーラーで調べてみると、1月からもらったメールのうち、実に30本以上に「はじめまして」という件名が入れられている。送った方は、礼儀ということも考えてそうしたのだろうから、あまり無碍にも言えないのだけど、こうなると後から当該メールの件名で中身を検索することは不可能になってしまう。なにしろ「はじめまして」メールの中には、「コラムを読みました」というものもあれば、「絶対儲かる耳よりの情報があります」という書き出しのものや、「私のHな写真をみせちゃいます」なんてものまであるのだ。最近やたら増えたこういうスパムの類まであわせ、1日200~300本程度のメールを受け取っている私の場合、悲しいことに「はじめまして」メールに、もはや新鮮な気持ちを抱けなくなってしまう。
「○○です」という名前シリーズもかなり多い。「毎コミのFです」とか「総理府の森です」というのはなんとなく推測できるけれど、「ひろ子です 元気?」などとある場合はたいがい、その方のヒ・ミ・ツな写真をWebに掲載したなどで、ぜひ観て欲しい旨が書かれている。
実際、自家製コンピュータウィルスをばら撒いて、インターネットを混乱させようなどと考えている人物には、こういうメールの件名などのギミックはお手のものだ。過去には「I Love You」という件名のあるマクロウィルスが問題になったが、「愛している」なんて書かれていれば、普段は絶対開かないような、知らない人物の送ってきた添付ファイルを、つい開いた人もいただろう。ちなみに、現在問題となっているウィルス(ワーム)も、「Naked Wife」(裸の妻)という名のもの。アダルトサイトのスパムを標榜した拡大策を狙っているようだ。
件名もそうだが、メールの書き出しでも、時々悩む。手紙と電話の間くらいのコミュニケーションスタイルとして定着していることからすれば、「拝啓」とか「前略」と書いてくる人はさすがに減ったと思うけれど、先のスパム的なDMも、メーリングリストのラフな議論も、個人からのメールも、大して変わらない印象となってしまうことには、配慮したほうがいいだろう。
誰に宛てたメールであるか書いてないので、最後まで読んでやっと、先方が間違って私に送ったものであることがわかったり、ハンドルもシグネーチャーも無いので、結局誰からのメールかわからなかったこともある。私の場合は、「山田さん」などと、まず相手が誰かを書き、「福冨です」と名乗ってから本題に入ることにしている。
もちろん、こういう職業柄、匿名のメールも多い。知人の評論家は、カミソリ入りの手紙などを受け取っていた郵便の時代よりは、電子メールは安全だ、というけれど、私ごときに送られてくるのでさえ、単純な匿名のメールにはじまり、アノニマスリメーラーを使ったものや、無料メールサイトからの実名を隠してのメールなど、悪意を働かせるとなると、人間というのはどうしてこんなに頭が回るのか思うほどだ。
ところで、いま調べたところ、私宛ての仕事上のメールの件名で一番多いのは、「原稿」という言葉ではじまるものだった(笑)。「原稿を送ってください」「原稿が来ていません」「原稿はどうなりましたか」「本日が締め切りです」
福冨忠和(Tadakazu Fukutomi)
vwyz@jca.apc.org
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