【コラム】

東京バイツ

34 「ユーブ・ガット・メール」

    福冨忠和  [2001/03/07]

    タンポポというアイドルグループの新曲『恋をしちゃいました』(ZETIMAEPCE-5091)を聴いて、ちょっと驚いた。もしかしたら筆者の不勉強で、他にもあるのかもしれないが、和製のラブソングの歌詞にはじめて電子メールが登場したのだ。

    言うまでも無くこのグループは、つんくプロデュースによるモーニング娘、プッチモニ、ミニモミなど一連のプロジェクトの一つで、さすがに発売直後(2月21日)からヒットチャート入りしている。モータウンサウンドを髣髴させるアレンジの心地よさや、彼女らの初々しさもいいけれど、i-mode契約台数が2,000万台突破というこの時期に、こういう曲がヒットすることに、着々と進行するIT時代ってやつを感じる。

    詞の内容は、若い男女の出会いから愛の告白までをつづった古典的なラブソングなのだが、これらのすべてのプロセスにメールの存在がある。というより、メールがなかったら成立していないような恋愛の話。友人に紹介された年上の男(男の子?)とひと月メル友でいて、やがて初デートとなる。待ち合わせた場所は原宿の雑踏で、相手を見つけられないでいると、「後ろにいます」というメールが入る。この曲のPVで観る限り、ここでいうメールはもちろん携帯電話のメール。ラフォーレの前あたりで、実際にありそうなシチュエーションだ。

    次のデートでは、その「普通の人」と、ラーメンを食べたり、映画をみたり、他愛ない話で笑ったりするが、その最中に男の子のほうから「楽しいですね」とメールが来た、というストーリー。そして、この歌の最後には、彼女も「君が好きです」と彼にメールをうつ、という大団円だ。

    もちろん、この2人が非常に無口なのでメールを使っているというわけではない(笑)。最初のメールはともあれ、2回目以降は、口で言うのが少し恥ずかしいようなメンタリティーの表現としてメールがある。2回のデートで「恋をしちゃいました」というスピード感の背景には、1ヶ月間のメル友関係があるだろう。相手の顔も、声も、息遣いも、匂いもわからないメールでやりとりされるのは、むしろ非常にピュアな形のコミュニケーションだ。かたちかっこうから、徐々に相手を知るという昔の恋愛とちがって、何を考えているかすでにわかっている相手とデートする。こういう芯の部分からからはじまった関係が、いい感じで進展するケースは、パソコン通信の時代から話題になっていた。逆に、すぐに深い関係になってしまうという危険性も多いのだけど。

    よく考えれば、古い時代から、新しいコミュニケーションの技術が広まると、ポピュラーソングに、それにまつわるラブソングが登場してきた。たとえば、電話。後に夫人となった恋人の家の電話番号を曲名にしたグレン・ミラーは有名だ。日本でもカバーされた「電話でデート」というヒット曲を憶えている人もいるだろうし、スティービー・ワンダーの「I just call to say I love you(君に愛しているというために、いま電話している)」というフレーズも印象的。それでも、パンクの時代には、電話の向こうから「聞こえている? (Are you recieving me?)」と繰り返すXTCに象徴されるような、ツールを使ったコミュニケーションの、ディスコミュニケーションな側面を描くことにバイアスがあったと思う。MTVなどのビデオ文化が音楽界に広まってきたとき、「ビデオはラジオスターを殺す」と歌ったのは、後にZTTを作るトレバー・ホーンじゃなかったっけ。

    私が知り得た範囲で、サイバースペースについて最初に歌詞に盛り込んだのは、サンフランシスコをベースに活動していた女性グループのデ・クックーだ。自作の電子打楽器などを使ったり、電子技術を駆使したインタラクティブなライブが有名なこのグループは、90年代初頭にグレートフルデッドの前座をつとめただけでなく、お膝元のシリコンバレーでも有名で、よくCG会社のパーティなんかに呼ばれていた。まだ一般にインターネットが普及し始めた頃のことだが、歌詞に盛り込むにも、それなりの背景があったのだ。

    そして21世紀は、タンポポというわけ。
    しかし、待てよ。実は私が知らないだけで、携帯メール以前にも、ファックスラブソングとか、留守電ラブソングとか、パソ通ラブソングもあったのかもしれない、という気もしてきた。「ビデオテックスで恋を語ろう」みたいなものがあっても、売れていないだけで、気づかなかっただけだったりして。電子系のツールじゃなくても、手紙(郵便)の代わりに、宅急便とかバイク便でラブレター出す人だっていそうだし、海外からだったらFEDEXを使う人もいる。その場合は、あのカラオケデュオ定番ソングも「カナダからのFEDEX」になるわけだ。おいおい。

    福冨忠和(Tadakazu Fukutomi)
    vwyz@jca.apc.org

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