【コラム】

東京バイツ

33 「マルチメディアとしての俳句」または「食品のIT革命」について

    福冨忠和  [2001/02/28]

    マルチメディアっていう言葉が世をにぎわしていた時に、よくその定義について説明を求められることがあった。というのは、マルチという言葉も、メディアという言葉も、さしあたり日本語として使われているものだから、特にそのルーツを考えるまでもなく、「マルチなメディア」として、いい加減なイメージで語られることが多かったせいもあるだろう。

    もともと60年代のメディアアートの運動から来ているこの言葉は、インターネットのように、たとえば「パケット通信を使った分散型ネットワーク」といった最低限の技術的定義があるわけでもないし、目ざとい文化人が情報通を気取って使うには便利な言葉だったのだ。実際、「映画だってもともとマルチメディアだった」という映画監督や、「紙芝居はマルチメディアだ」という文化史家などにはじまり、「本はマルチメディアだ」「テレビはマルチメディアだ」「マンガはマルチメディアだ」とメディア分野は総なめ的にマルチメディアに格上げされたあげく、「俳句はマルチメディアだ」「ファッションはマルチメディアだ」と、その領域を越えて使われ、あげくはすっかり陳腐化して、誰も使わなくなったのだった。

    インターネットの場合は、さすがにこうしたメタファーやアナロジーとしての使用方法は簡単ではない。句会の方式とバケット通信を重ねて「俳句はインターネットだ」といっても、やや無理な感じがする。それでも「江戸のインターネット」とか「霊界インターネット」という本や雑誌記事のタイトルが実際にある。だから、例の「IT」も同じように使えないことはないだろう。「映画はIT革命だった」とか、「IT革命としての俳句」、「江戸のIT革命」などと言ってみると、なんだかよくわからんが、なんとなくそれらしい論評が書けそうな気もしてくる。

    ともあれ、新しい言葉、特に外来語について、厳密な定義を考慮せず、あいまいなイメージのまま借用し、そのままレトリカルに使いこなしていくのは、卑近なところでは「天ぷら」にはじまり「メリケン粉」「ビフテキ」にいたるような、昔からの日本人の得意技だったらしい。

    これと近いところで、ごく最近笑ったのは、私がASCII24に連載していたコラムのタイトルが、カップ麺の商品名に使われたことだった。もちろんこれは偶然の一致だろう。私のコラムから借用したとしても、かまわないけれど。

    私があまりにも原稿を書かないので、あきれはてて連載打ちきりになった(というのは、半分はウソだが、リニューアルにともなって打ちきられた)そのコラムの名は、「電子麺」というもの。英文ではe-noodleとか、e-menと表記して、実は英訳版も用意され、一部は米国でメール配布されていた。

    しかし、このタイトル、正直ってかなり自嘲的なニュアンスをこめてつけたものなので、まさか食べ物の名前にされるとは思わなかった。ちょうどコラムのタイトルを考えているときに、渡辺浩弐氏に会う機会があったものだから、彼の著書名『マルチメディアバカ』のようなニュアンスの名前にしたいなと考え始めた。つぎに米国の雑誌などに、やたら「e」の付く見出しが増えてきたのに思い当たり、「eナントカ」という語感から探しはじめ、「電子麺」を思いついた。というのは、noodleっていう言葉を、少し詳しい英和事典で引いてみるとわかると思うけれど、「麺」以外に「バカ」「アホ」といった俗意もあるのだ。つい最近、在沖米軍の責任者が沖縄県民をnutsと形容して問題となったけれど、それが「木の実」という意味じゃないのと同じような、俗語としての使われ方。

    新商品の「電子麺」のほうは、電子レンジで調理できるカップ麺だそうだから、名称はそのまんま、とも言えるけれど、たとえ「食品のIT革命」だったとしても、一部では失笑を買う名であることも間違いない。まあ、テレビCFなどを観ると、そこまでわかっていてこの名を選んだふしもあり、なにも言うことはないのだけれど、今後「電子うどん」とか「電子スパ」が登場してきそうで、なんとなくコワいぞ。「e」の次は「バイオ」だと書いているビジネス雑誌なんかもあるから、その伝で「バイオ麺」とか「バイオカレー」とか、恐ろしいものも出てきそうだ。

    ちなみに、本コラムの「東京バイツ」は、情報単位のbyteとも、「食う」とか「齧る」といった意味のbiteにもとれる語感にしている。こちらも字引きをひいてもらえばわかるけれど、他のネガティブな意味合いだってある。だから、アルバイト雑誌の誌名などにしないように。

    ちなみに「電子麺」の時に考えた、別の「デジタルなんとか」シリーズの名称案を思い出した。

    「デジタルは及ばざるがごとし」
    「デジタル釘は打たれる」

    やっぱり、使えないかな。

    福冨忠和(Tadakazu Fukutomi)
    vwyz@jca.apc.org

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