【コラム】

日本のミサイル防衛体制の実体を探る

1 日本のミサイル防衛体制(1)探知・追尾編

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2017年8月29日、そして9月15日と、北朝鮮が立て続けに「火星12」弾道ミサイルを太平洋に向けて発射した。いずれも渡島半島付近から襟裳岬という経路を通り、太平洋に向けて着弾した。日本に本土上空を北朝鮮の弾道ミサイルが通過したのは1998年以来のことである(「衛星打ち上げという名の事実上のミサイル発射」を除く)。

この件があってから、不安感を煽るかのごとき報道が少なくないように見受けられる。ここはひとつ頭を冷やして、今の日本におけるミサイル防衛の体制がどうなっているか、一般市民のレベルでできることがあるか、といった点を確認しておくことには意味があるだろう。

ミサイル発射を知る仕組み

弾道ミサイルとは、弾道飛行によって飛翔するミサイルである。発射した後、目標に向けて加速しながら飛翔して、所定の速度に達したところでロケットの燃焼を停止する。飛翔する方位・上昇角と燃焼停止時点での速度によって、どこに着弾するかが決まる。

一見したところでは大砲の弾と似ているが、大きく異なる点が1つある。砲弾は撃った瞬間の向きと初速で飛翔経路が決まるが、弾道ミサイルは発射した後にロケットを噴射して加速する。そのため、飛翔経路が確定するのは燃焼を停止した時点である。

これらのことを頭に入れた上で、弾道ミサイルの発射を知る仕組みについて見ていく。

発射のためにロケットを作動させると排気ガスから赤外線が放射されるので、それを赤外線センサーで探知する。そこで登場するのが「早期警戒衛星」である。赤道上に配置する衛星と、周回軌道を回る衛星がある。

日本は自前の早期警戒衛星を持っていないので、アメリカ軍の衛星から得られる情報に依存している。その陣容は以下の通りである。

赤道上に配置する衛星

DSP(Defense Support Program)から、SBIRS-GEO(Space Based Infrared System Geosynchronous Earth Orbit)への代替わりが進行中。SBIRS-GEOは3号機まで上がっている。

周回軌道を回る衛星

SBIRS-HEO(SBIRS Highly Elliptical Orbit)。DSPの時代には静止衛星だけだったが、それだと極地(特に北極方面)の警戒が手薄になるので、SBIRSへの代替わりに合わせて高楕円軌道を周回する衛星を加えた。

DSPやSBIRS-GEOは赤道上の静止軌道に載り、SBIRS-HEOは高楕円周回に載って周回する Photo:USAF

このほか、STSS(Space Tracking and Surveillance System)という早期警戒・追尾用衛星が試験運用中である。赤外線センサーを使用する衛星で、周回高度が低い分だけ探知目標に近い。ただ、周回衛星だから常に特定の地点を見張るわけにはいかず、常時監視を行うには複数の衛星を必要とする(これはSBIRS-HEOも同じ)。

これらの衛星が発射を探知すると、「どの地点で赤外線放射が発生したか = どの地点でミサイル発射があったか」がわかる。赤外線放射が少ない場所で、急に大量の放射が発生するからだ。

ミサイルの飛翔経路を知る仕組み

弾道ミサイルは大砲と違って、真上に向けて発射する。発射した後で、事前に入力した目標に向かう軌道に載せるために方位と上昇角を変化させていく。

ということは、発射がわかった瞬間には、ミサイルを発射したということしかわからない。その後の飛翔経路の変化を追わなければ、どちらに向けて飛翔しているのかはわからない。

そこで頼りになるのが、レーダーである。相手が小さく、しかも飛翔経路を精確に突き止めないと着弾地点の予想もままならないので、分解能が高い(精度が高い)、高い周波数帯の電波を使用するレーダーを使う。

アメリカ陸軍は、青森県の車力分屯基地と京都府の経ヶ岬通信所に、Xバンド・レーダー「AN/TPY-2」を配備している。もともとTHAAD(Terminal High-Altitude Area Defense)弾道弾迎撃ミサイルを管制・誘導する目的で開発されたレーダーだが、ソフトウェアの変更による、弾道ミサイルの追尾に専念する動作モードを追加した。

地図を見るとわかるが、車力も経ヶ岬も日本海に面した位置にあり、西~北西方向の監視に適していることがわかる。

一方、航空自衛隊は領空侵犯を監視するために、全国をくまなくカバーするレーダー網を張り巡らしている。基本的には航空機を探知するためのレーダーだが、4カ所(大湊、佐渡、下甑島、与座島)のレーダーサイトに配備している大型レーダー「J/FPS-5」は、弾道ミサイルの追尾能力も持たせてある。

また、7カ所(当別、加茂、大滝根山、輪島、経ヶ岬、笠取山、背振山)にある「J/FPS-3」レーダーに後付けで弾道弾追尾能力を持たせて、J/FPS-5を補完している。

先日の「火星12」の発射では北日本を通過していったから、大湊のJ/FPS-5や、加茂のJ/FPS-3が追尾していたと考えられる。余談だが、大湊のJ/FPS-5は大湊の駅前から見えるところにある。

このほか、米海軍や海上自衛隊がBMD対応のイージス艦を洋上に展開させていれば、それらイージス艦のレーダーも弾道ミサイルの探知・追尾が可能である。

こうしたレーダーによる追尾データは、アメリカ軍が運用するC2BMC(Command, Control, Battle Management and Communication)システムに上げられる。それによって飛翔経路を突き止めると初めて、着弾地点の予想が可能になる。発射の瞬間に着弾地点まで予測できるわけではない。

そこで得られたデータが日本政府に回ってきて、「Jアラート」によって一般市民レベルまで流れてくる仕組みである。C2BMCの本業は、弾道ミサイルの探知・追尾と交戦の管制だ。そのうち交戦の管制については、着弾地点の予測に基づき、最適な地点にいると考えられる迎撃資産にデータを送り、交戦の指令を出す。

日本側の指揮管制システム

ここまで述べてきたように、日本の弾道ミサイル防衛においてはアメリカ軍が持つ資産と日本の自衛隊が持つ資産を組み合わせる形になっている。すると、情報の流れ、指令の流れをきちんと整理しないと収拾がつかなくなる。

現時点で日本側にない資産は、早期警戒衛星と2基のXバンド・レーダーである。もっとも、後者はJ/FPS-5が代わりになるとも言える。

前述したDSPやSBIRSといった衛星がミサイル発射を探知すると、その情報は米軍のシステムに上がり、そこからJTAGS(Joint Tactical Ground Station)という通信機材を介して航空自衛隊の防空指揮管制システム・JADGE(Japan Aerospace Defense Ground Environment)に入ってくる。

また、Xバンド・レーダーの追尾情報も米軍のシステムに上がるので、その情報を日本側に提供する際は米軍のシステムから回ってくる形になる。米軍のXバンド・レーダーが自衛隊のJADGEシステムに直結しているわけではない。一方、航空自衛隊が持つレーダーの探知情報は当然ながら、ダイレクトにJADGEシステムに入る。

JADGEは航空機への対処をメインとするシステムだが、開発に際して弾道ミサイル防衛がらみの機能も組み込んだ。だから、自衛隊が持つ弾道ミサイル迎撃資産に対しては、アメリカ軍の資産から得た情報と自前の資産から得た情報に基づき、JADGEシステムから指令が飛ぶことになる。

組織面から言うと、海空自衛隊で構成するBMD統合任務部隊の仕事ということになるが、そこで使用する資産については次回に取り上げる。

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インデックス

連載目次
第2回 日本のミサイル防衛体制(2)迎撃編
第1回 日本のミサイル防衛体制(1)探知・追尾編
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