東京大学大学院情報学環 BEAT(ベネッセ先端教育技術学講座)主催によるBEAT Seminar「外国語学習のソーシャルイノベーション」が9月4日、東京大学本郷キャンパスで開催されたので内容を紹介しよう。目玉はレアジョブとLang-8両社長の講演だ。

BEAT Seminarは3カ月ごとに開催されている(参加費無料)

本セミナーではSkypeによるオンライン英会話サービスで圧倒的なシェアを誇るRareJobを運営する株式会社レアジョブの加藤智久代表取締役社長と、相互添削型SNSのLang-8でWritingに特化したユニークなビジネスを展開しているランゲート株式会社の喜洋洋代表取締役、協調学習支援について研究をされている金沢大学の山田政寛准教授のお三方の講演と、聴講者によるグループディスカッション、パネルディスカッションが3時間に渡って行われた。

質よりも時間が英語学習には重要 - レアジョブ 加藤社長

データを駆使した説得力のあるプレゼンを行ったレアジョブ 加藤智久代表取締役社長

日本人の英語学習には質よりも量が重要だ。従来の通学型英会話はコストに問題があり、通信教育はモチベーション維持に問題があったのに対して、オンライン英会話のレアジョブはどちらも満足いく内容になっている。

日本人が英語をマスターするのにかかる時間は各種データから3,000時間と推定される。しかし日本人は中学から大学まででおよそ1,000時間しか英語学習に費やさないので、あと2,000時間足りない。日本人の英語のできなさを文科省のせいにする人がいるが、単に学習時間が足りないということだ。

この足りない2,000時間の学習をモチベーションを維持しながら行なう方法がオンライン英会話である。先生がフィリピン人ということで心配する人もいるかもしれないが、フィリピンはアジア最大の英語が公用語の国であり、レアジョブではフィリピンの東大と言われるフィリピン大学の学生と卒業生(トップ0.6%の人材)しか採用しないので先生の質は高い。さらに講師の大学での専攻がわかるので自分の専門分野の講師を選んで話すということもできる。

レアジョブのサービス形態

実際にフィリピンとつないでデモレッスンが行われた

アメリカ人にとって日本語習得には3,000時間かかるというデータ

加藤社長が伝えたかったことは"質より時間が大事"

先生ではないネイティブ同士の直感の交換 - ランゲート 喜社長

ユニークなプレゼンで会場を沸かせたランゲート株式会社 喜洋洋代表取締役

現在Lang-8は200カ国以上から利用されている。日本向けのサービスではなく世界中で使われるようにしたいと、喜社長が上海留学中に行った言語交換を日本で流行っていたSNSを使って事業化した。

Lang-8の本質はネイティブなら直感でわかる間違いの指摘を交換しあうことである。今は日記を対象としているが今後は音声もやっていきたい。

添削者が素人なので信頼性がないのではという懸念については、さまざまな人の指摘を総合的に判断していくのは自然な姿であると考えている。添削のモチベーションは思ったより高く、やってみると意外と楽しい。

Lang-8の課題は日記を書くということ自体の敷居が高いということ。ただ初心者向けサービスは現在考えていない。また最近は英語学習者と日本語学習者の数のバランスが取れなくなっている。これについてはプレミアムサービスで対応しているが、今後は添削作業に報酬を支払うという有料モデルもありうる。

Lang-8とは

添削の流れ

インフォーマルな雰囲気も重要 - 金沢大学 山田准教授

ソーシャルメディアを使った外国語教育の課題について解説した金沢大学 山田准教授

ソーシャルメディアを使った外国語教育についてはまず、第二言語習得の認知プロセス支援についての課題がある。

第二言語習得のプロセスとしてはインプット、アウトプット、インタラクションの3要素があり、このインタラクションについての研究が最近は盛んである。

もうひとつの課題はインフォーマルコミュニケーションであり、インタラクションを活発化させるためにさまざまな手法が考えられる。たとえば、自己開示、仲間意識、挨拶、感謝、絵文字などである。相手の画像やテキストチャットも効果的である。

ソーシャルメディアを使った外国語教育の課題

第二言語学習の認知プロセス。難解だ……

まじめだけじゃ学習効率は低い。これは納得

インフォーマルさの指標の一つが社会的存在感

結局こういうのがインフォーマルには良いらしい

ソーシャルメディアを使った学習の今後の課題

パネルディスカッション

以上の講演に引き続き、聴講者がいくつかのグループに分かれて行われたグループディスカッションを行い、まとめられた質問がパネルディスカッションで議論された。

パネルディスカッションのもよう

Q. 3,000時間よりももっと短時間で英語をマスターする人もいるのではないか?

A. そういう人もいるかもしれないが、日本全体で見ると時間をかけることが重要(加藤社長)

Q. フィリピン人のなまりは問題にならない?

A. フィリピン大学の学生のなまりは比較的少ないが、なまりは重要ではなく、コミュニケーション自体が重要(加藤社長)

Q. モチベーションを維持させるための方法は?

A. 問題と思っており、今後の課題(喜社長) / 目標管理や進捗管理の仕組みの導入や、他のユーザとつながるようなことをしていきたい(加藤社長)

Q. レアジョブとLang-8の学校教育への進出の可能性については?

A. Lang-8はすでに学校の宿題として使われているという実態があるが、利用料を請求するつもりはない(喜社長) / レアジョブも高校での採用が検討されている(加藤社長)

Q. ソーシャルメディアにより対面学習は不要となるのか?

A. (レアジョブ、Lang-8ともに)リアルとバーチャルは補完関係にあり、オフ会などで実際に会って学ぶということは重要

まとめ - どれだけ学習時間を伸ばせるかが今後の課題

司会を務めた東京大学 大学院情報学環 山内祐平准教授

本セミナー司会である東京大学の山内祐平准教授が以下のようにセミナーの内容をまとめた:

これまで教育において経済的な観点の議論は少なかった。ソーシャルメディアは教育における価格破壊である。学習時間をいかに延ばすかが今日の話題であったが、米国教育省の研究によるとeラーニングにより学習時間が延びるという結果が出ている。これまで学習効率の向上のみ研究してきた者にとっては衝撃的な内容である。

フィンランド人は20年前には英語を話せなかったが他国との経済交流が盛んになり英語を使うようになった結果、しゃべれるようになった。日本人は結局英語を日常生活で使わないからしゃべれないということではないか。ソーシャルメディアがそれを埋めてくれる。いかに学習時間を延ばすかが英語学習の今後の課題になると予想される。

筆者の感想 - モチベーションが最後の課題

以前より、英語学習は長く続けたものの勝ちという考えはあり、私も「あきらめない限り必ず伸びる」という信念のもと、今まで学習してきた。ソーシャルメディアにより低価格で、いつでもどこでも学習する環境は整いつつある。では皆が英語をマスターすることができるようになるかというとそうでもないだろう。たとえレアジョブが完全無料になったとしても使わない人は必ず存在する。2,000時間という時間を費やすだけの価値が英語にあるのかの判断は人それぞれだ。つまり、キーワードはモチベーションである。こればかりは外部から与えることは難しい。英語が社内公用語にでもならない限りは。

著者紹介

本多義則 (Yoshinori Honda)

日立製作所勤務のIT系研究者。10年前に趣味と実益を兼ねて英語学習を再開以来、アナログからデジタルまであらゆるツールを駆使して英語学習に励んでいる。職場では「英語ができる男」と見られているが、実はそうでもない真の実力との差を埋めるべく、英語学習をやめられなくなっている。休みの日の朝は英語のメルマガ執筆にいそしむのが習慣。取得した英語関連の資格は、英検1級、TOEIC955(瞬間最大風速)、通訳案内士(英語)。座右の銘は「あきらめない限り必ず伸びる」。著書に『伸ばしたい!英語力―あきらめない限り必ず伸びる』。Twitterアカウントはこちら