今回の選書

考え方のコツ(松浦弥太郎) 朝日新聞出版

考え方のコツ(松浦弥太郎) 朝日新聞出版

選書サマリー

ゼロから何かを生み出す。そのためには、自分の頭で考えることだ。しかし実のところ「考えているつもりで、考えていない」という状態の人が多いようだ。

原因は「何かをしながらでも、考えることはできる」という過信があるからだ。だからこそ、考える習慣=思考の時間を確保するべきなのだ。

一日二回、思考の時間を作ることだ。まず、午前中の一時間を確保する。なぜなら、午前中はリフレッシュされているからだ。午前中は、あらゆることを頭で整理し、アイデアを出す「思考の時間」だ。

こう決めれば、働き方が変わる。ただし、思考は必ず一時間で切る。それ以上考えても、効率が悪いからだ。

午後の一時間は、午前中に積み残した考えのうち、必要なことをさらに考える。この一時間は、午前中に生まれてきたアイデアをさまざまな角度で検証するためにも必要だ。

「思考の時間」を確保したら、大きな白い紙を用意し、机に置く。そして、目の前にある白い紙を、じっと見つめる。白い紙と対峙することで、情報を遮断し、ウォーミングアップができるのだ。

これにより、知識や、様々な情報から解放され、ゼロの状態で考えるためにリセットできる。しばらく紙を見つめ、心が落ち着いてきたら、思考のプロセスに踏み出す。

「考えのかけら」は、言葉の切れ端だ。そんな「考えのかけら」をひたすら白い紙に書いていく。すると、だんだん自分の頭の中の景色が視覚化されていく。

白い紙に投影された頭の中の景色のうち、特定の一点を深く掘っていく。これこそ、考えるということだ。最初はばらばらのキーワードも、紙に書き出したものを見ていくことで繋がってくる。

同列だった「考えのかけら」のうち、いくつかがまとまれば、アイデアの入口になる。白い紙を見ていると、深く掘る場所がわかってくる。この一連の作業が、思考の基本的プロセスであり訓練だ。

考える際は、必ず二つの答えを出す、つまり「一考二案」が基本だ。必ず「答えを二つ出す」というスタンスでいると、ひとつの答えを探そうとするときよりも多少肩の力が抜ける。

そのため、ハンドルに遊びがある状態で答えを見つけることができる。また、アイデアを二つ考える癖をつけると、思考が偏らずに、済む。二つの答えは、真逆でも構わない。

アイデアが二つ出てきたら、A案とB案をもとに、C案を考える。二案出すのは、あくまで思考のプロセスだ。A案とB案が出た段階では、たいてい壁にぶつかる。

思考の壁に突き当たったとき、考えるのを止めてしまうか、止めないかは重要だ。アイデアを出すとは、実は思考の壁に突き当たった時がスタートだからだ。

A案とB案の二つを考えるときも、思考の壁を越えてC案を考える時も、絶対忘れてはならないのは「自分にとっての良し悪し」あるいは「自分や会社の利益」ではダメだ。

指針は「人に喜ばれるかどうか」であるべきだ。この指針に常に寄り添いながら考え抜くことが、思考の壁を越える唯一の方法なのだ。

アイデアが出たら、人に話すことだ。頭の中が活性化され、無意識のうちに、様々なことが同時多発的に導き出される。純粋なアイデアは、人に話すことでさらに進化する。アイデアが育つのだ。

また、アイデアは伝わらなければ意味がない。人に伝わるようにデザインすべきだ。「誰が、何を、いつ、どこで、どのように、いくらでやるか」を満たすことが、アイデアのデザインだ。

人に話すことで「正しいかどうか」も精査できる。入念な精査とは、そのアイデアが「普通かどうか」を検証することだ。突飛過ぎることや、一部の人にしかわからないことは、アイデアではないのだ。

「純粋でオリジナリティがあり、同時に普遍的なもの。誰とでも分かち合えるもの」これこそが、優れたアイデアと言えるのだ。

選書コメント

現代のビジネスパーソンのための、ちょっとユニークな仕事術の本です。知識や情報に惑わされず、自分の頭で考えることの大切さを説き、その方法を助言してくれます。

著者は『暮しの手帖』編集長で、文筆だけでなく、書店経営など、様々な分野で活躍する方です。そんな著者が、ご自身の「仕事術」を赤裸々に紹介してくれます。

より、豊かに、自分らしく働き、暮らすことで、本当の意味で幸せになることができます。そのヒントを、著者自身の経験から、分かり易く教えてくれます。

タイトルには「考え方」とありますが、「思考術」にとどまらず、「想像術」「コミュニケーション術」「時間管理術」「グローバル術」など、様々な側面から仕事術を解説しています。

構成は、エッセイ風で読み易い作りになっています。それでも、各項ごとの締めくくりに、ポイントを紹介するなど、学びが得やすい工夫がされています。

たとえば、「毎日、午前と午後に考える時間を1時間ずつ確保しろ」ということに共感しました。私自身、早朝と昼食後の2回、できるだけ「考える時間」を確保しようとしてきました。

毎日、2時間の考える時間を確保することは容易ではありませんが、これができれば、得るものは計り知れないと思います。仕事や勉強、睡眠などの時間を削ってでも、確保する価値があると思います。

日々の仕事と生活、そして人生に、より真摯に、向き合いたいという方に、たくさんのヒントをくれます。色々な世代の、色々な立場の方が、お読みになることをお勧めします。

選者紹介

藤井孝一

経営コンサルタント。週末起業フォーラム代表。株式会社アンテレクト代表取締役

1966年千葉県生まれ。株式会社アンテレクト代表取締役。経営者や起業家という枠にとどまらず、ビジネスパーソン全般の知識武装のお手伝いを行うべく、著作やメールマガジン、講演会、DVDなど数々の媒体を活用した情報発信を続けている。著書にベストセラーとなった『週末起業』(筑摩書房)はじめ、『かき氷の魔法』(幻冬舎)、『情報起業』(フォレスト出版)など。

情報提供: ビジネスパーソンの情報サイト「ビジネス選書&サマリー