今回の選書

IQよりも、知識よりも、僕たちは知恵を身につけるべきだと思う(森田正康) クロスメディア・パブリッシング

IQよりも、知識よりも、僕たちは知恵を身につけるべきだと思う(森田正康) クロスメディア・パブリッシング

選書サマリー

「自由になりたければ、実力をつけろ」恩師からもらった、最も大切にしている言葉の一つだ。では「実力」とは、何か?

一般的には、実力というと「結果を出すこと」だ。ただ「結果さえ出せれば、それはイコール実力がある」のかというと、それはちょっと違う。

僕は、12歳で渡米し、25歳でビジネスの世界に足を踏み入れるまで、UCバークレー、ハーバード大学、ケンブリッジ大学、コロンビア大学など、自由気ままに学問の世界を放浪していた。

周囲には、エリートと呼ばれる人がたくさんいた。専門分野を究めた人、究めようとしている人たちと間近で接した。また、実業の世界でも、優秀な経営者やビジネスマンともお付き合いしてきた。

その経験で気づいたことは3つある。第1は「上に行けばいくほど、知識は役に立たない」ということだ。つまり、優秀な人の集まる所に行けば行くほど、知識量は問題にならないのだ。

知識は、ネットですぐに見つかる時代だ。そんな時代に「実力」がある人は、答えを検索するスピードや、得た知識を応用する能力を持っている。

また「目先の結果より、人との関係を続けることの方が重要」だ。さらに「合理性も大事だが、義理人情も大事」だ。

たとえば「同僚の足を引っ張り、出し抜こうとする人」と「周囲の人を味方につける人」のどちらが「実力」があるだろうか。会社の評価軸によっても違うだろうが、僕は後者を推す。

仕事は、機械でなく、血の通った人間を相手にするものだ。人間関係は「はい、売って終わり」ではない。半永久的に続くものだ。その中で信頼が築かれていく。単純な売上獲得ゲームではないのだ。

本当の実力とは、より多角的な視点で物事を考える思考のプロセス、結果に対するアプローチの仕方、知識の応用の仕方なのだ。その結果として「売上」などの実績が生まれてくるのだ。

そして、その力が「知恵」なのだ。知恵とは、辞書によると「物事の道理を判断し処理していく心の動き。物事の道筋を立て、計画し、正しく処理していく能力」だ。

物事を道理に沿って正しく処理していくには、状況判断力、決断力、コミュニケーション能力、交渉力など、あらゆる能力が必要だ。これらを実生活に取り入れるのは、知能指数や知識量だけでは無理だ。

なぜなら、人はロジックだけでは動かないからだ。正論が必ずしも人に受け入れられるわけではない。理論を学んだだけで、売れる製品やサービスを作ることはできないのだ。

世界には計算だけでは計りきれない不確定要素が多い。だからこそ、知識よりも、知恵を身につけるべきなのだ。

「知恵」というと「ずる賢い」感じがするかもしれない。だが、ここでいう「知恵」とは「どんな世界に放り出されても、うまくやっていける能力」のことだ。

「目標に対して最短距離を取る」という合理的な面がある一方、その根底に、人への愛情や、ホスピタリティーといった「義理人情」があってこそ、成り立つのだ。

たとえば「交渉」に必要なものは、合理性か、義理人情か。答えは、両方だ。「営業」も「マーケティング」も「企画立案」も「マネジメント」も、どれも同じだ。

場面によって、必要な「義理人情」や「合理的な考え方」は違う。だが、原理原則として、どちらか一方しか必要ない場面は、ほとんどない。そんな場面には出会ったことがない。

だから、知恵には、合理性だけでなく、義理人情も含めるべきなのだ。そんな知恵のエッセンスを学び、自分なりの生きやすい指針を探し出すことが、自由になるために不可欠なのだ。

選書コメント

仕事をする上で本当に必要な実力、たとえば、多角的な思考法や、アプローチ、知識の応用など「知恵」の正体を明らかにしつつ、その身に着け方をアドバイスしてくれる本です。

厳しい時代に生き残るべく、英語や資格など、さまざまな勉強に取り組むビジネスパーソンが増えています。本書は、そんな「知識」偏重の勉強をするより、真の実力を身に着けることを提唱します。

その上で、目標達成やアイデア発想、処世術やリーダーシップにいたるまで解説してくれます。世界で学び、実業の世界で実証されてきたことがベースになっていて、たいへんユニークです。

とにかく、目を引くのが、自ら「学歴フェチ」と呼ぶほどの、著者の学歴です。そんなわけで、はじめはアカデミックな内容を連想しましたが、内容は意外に読み易く、実践的でした。

もちろん、洞察はさすがで、随所に鋭さを感じます。たとえば「目標達成の基本プロセス」や「目標のとらえ方」などは、シンプルですが「なるほど」と思わされます。

図版もほとんどなく、文章ばかりの本で、ボリュームもありますが、各項、数ページのコラム風に、読み易く書かれています。頭の良い人の文章ほど、こういうもののようです。

構成もシンプルで、一見、取り留めなく書きなぐったような印象を持ちそうですが、その分「知恵」という広いテーマを多方面から解説してくれていて、むしろ学びの多い内容になっています。

仕事をする上で、アタマの使い方や、その鍛え方は本当に重要です。仕事を始めたばかりの人や、改めてやり方を見直したいと考える方が読めば、収穫がたくさんあると思います。

選者紹介

藤井孝一

経営コンサルタント。週末起業フォーラム代表。株式会社アンテレクト代表取締役

1966年千葉県生まれ。株式会社アンテレクト代表取締役。経営者や起業家という枠にとどまらず、ビジネスパーソン全般の知識武装のお手伝いを行うべく、著作やメールマガジン、講演会、DVDなど数々の媒体を活用した情報発信を続けている。著書にベストセラーとなった『週末起業』(筑摩書房)はじめ、『かき氷の魔法』(幻冬舎)、『情報起業』(フォレスト出版)など。

情報提供: ビジネスパーソンの情報サイト「ビジネス選書&サマリー