今回の選書

二流を超一流に変える「心」の燃やし方 プロ野球二軍監督の人材再生メソッド(野田稔) フォレスト出版

二流を超一流に変える「心」の燃やし方 プロ野球二軍監督の人材再生メソッド(野田稔) フォレスト出版

選書サマリー

長引く不況下と成果主義にはさまれ、日本人と日本企業が摩耗している。私たちが、かつてのような競争力を取り戻すには、どうすればいいのか。

答えは、プロ野球の二軍監督という職業にある。彼らの選手育成方法や組織統率の手腕を分析すれば、日本企業復活のためのヒントがゴロゴロ転がっている。

伸び悩む若手やくすぶっているベテランの「折れた心」に火をつける方法など、二軍には指導者として学ぶべき要素が、たくさんあるのだ。

現在、プロ野球の一軍を率いている監督を見ると、二軍監督出身者が目立つ。選手同様、指導者にとっても、二軍は一軍に上がるためのステップアップの場所なのだ。

一軍で求められるのは「結果」だけだ。対して、二軍監督に求められるのは「人材の育成」だ。同じ監督でも、一軍と二軍では求められる役割が違うのだ。

二軍では、一軍で経験できないことが学べる。それらは、指導者にとって必要不可欠な要素だ。二軍とは、将来一軍で名将になるための実地研修が行える場所なのだ。

プロ野球の世界と違い、企業には一軍と二軍の境界線がない。誰もが、自分のことを一軍クラスと思っている。だからこそ、マネジャーは、二軍監督的な研修を意識的に行う必要があるのだ。

一般企業のマネジャーには「結果」だけでなく「若手の育成」も求められている。つまり、一軍と二軍の監督両方の役割を担っているのだ。

プレイヤーの経験があれば「結果」を残す方法はわかる。あえて、二軍監督的な仕事、役割、意義に目を向けるべきだ。あなた自身の成長、部下育成法、マネジメント術に、新たな光が差し込むはずだ。

短期間に成果ばかりを求める日本企業は、姿勢を改めるべきだ。それができなければ、社員は疲弊してしまうし、企業自体も成長できない。だからこそ、二軍監督的指導者が求められるのだ。

成果主義による「短期利益の極大化」は「長期利益を犠牲」にする。人材の育成が損なわれれば、利益も失われる。これらを考慮に入れるのが、二軍監督型マネジメントだ。

優勝を義務づけられている一軍監督は、短期利益も長期利益も極大化が求められている。しかし、優勝を目指す際、短期しか見ない監督は、バランスの取れない意思決定をする。

たとえば「このピッチャーの肩が壊れてもいいから投げさせる」と思っている監督がいるとしたら、そのチームは3年でガタガタになる。そういう発想をしないように、二軍を経験すべきなのだ。

人を育てるには時間が必要だ。武道や華道の世界に伝わる人材育成法に「守破離」という言葉がある。まず「守」では師匠から流儀を学び、その流儀を習得しようと努力する。

次に「破」では師匠の流儀を習得した後、他派の流儀を学ぶ。そして「守」と「破」の段階を経て「離」では何ものにもとらわれない独自の境地を築き上げる。

野球や芸能の場合、「守破離」は一度きりだ。野球選手が引退後にホッケー選手になることはないからだ。ところが、ビジネスマンは違う。異動や昇格のたびに「守破離」を経て学び直す必要がある。

一軍の営業プレイヤーは「離」の段階にあるかもしれないが、彼がマネジャーに転じれば、改めて「守」の段階から、学び直す必要があるのだ。

プレイヤーから、マネジメント業というアウェイの世界に飛び込むのだから、最初は簡単にいかない。でも、だからこそ、リーダーとしても、人間としても、さらに成長することができるのだ。

選書コメント

人材の育成と再生の本です。プロ野球の監督、中でも二軍の監督とそのマネジメント手法に、ビジネスを学ぶという、ユニークな着想の本です。

なぜ、あえて二軍なのかは、二軍の方が、企業に近いからです。たしかに、会社は超一流の選手で構成された一軍より、やる気や能力にムラのある二軍に似ています。

力のない若手もいれば、やる気を失ったベテラン、スランプに陥った人もいます。彼らを一つの方向に向ける方法は、二軍のマネジメントに学ぶべきなのです。

著者は、テレビのキャスターなどとしても活躍される、コンサルタントの野田稔さんです。本書でも、精力的な取材とユニークな視点で、楽しく、分かり易く、人づくりを教えてくれます。

野球が題材になっていますが、本文で、しっかりエピソードを紹介してくれますので、野球に興味や関心のない人でも十分、理解することができます。

もちろん、本書は野球の本ではなく、ビジネスの本です。野球のエピソードに、著者自身の体験などビジネスの実例を加えています。さらに職場で活用する方法も詳しく紹介してくれます。

もちろん、それぞれが心理学の理論に立脚しています。たとえば、学習無力感やキャリア・アンカー、ピグマリオン効果などを根拠にしています。主観だけで書かれているわけではありません。

最近は、組織も流動化しています。管理職の立場でなくても、チームをまとめる役割が期待されるはずです。そんなチームのリーダーや、小さな会社の経営者にも、本書の一読をお勧めします。

選者紹介

藤井孝一

経営コンサルタント。週末起業フォーラム代表。株式会社アンテレクト代表取締役

1966年千葉県生まれ。株式会社アンテレクト代表取締役。経営者や起業家という枠にとどまらず、ビジネスパーソン全般の知識武装のお手伝いを行うべく、著作やメールマガジン、講演会、DVDなど数々の媒体を活用した情報発信を続けている。著書にベストセラーとなった『週末起業』(筑摩書房)はじめ、『かき氷の魔法』(幻冬舎)、『情報起業』(フォレスト出版)など。

情報提供: ビジネスパーソンの情報サイト「ビジネス選書&サマリー