今回の選書

リッツ・カールトンと日本人の流儀 人を動かす「洋の言葉」と「和の心」(高野登) ポプラ社

リッツ・カールトンと日本人の流儀 人を動かす「洋の言葉」と「和の心」(高野登) ポプラ社

選書サマリー

ザ・リッツ・カールトン大阪が開業した時から「ホスピタリティ」という言葉を使い続けている。他社が、ホスピタリティをまだ明確に定義していなかったころからだ。

ほかのホテルが「志向のサービス」「最高のサービス」と言っている時から「サービスを超える瞬間」を発想し、「ホスピタリティ」を目指していた。

ホスピタリティとはどういうことか。「ホテル」だけでなく病院を意味する「ホスピタル」や末期医療のための看護施設「ホスピス」もホスピタリティの概念からきている。

身体や心の傷んだ人たちを治療する病院も、旅で疲れた人たちを癒すホテルも、人としての尊厳を失わず生き切ることを望む人を支えるホスピスも、突き詰めれば、同じところに行き着く。

たとえば「ハサミを貸してほしい」と頼まれた時、大概の人は、柄のほうを相手に、刃の方を自分に向けて手渡すはずだ。極めて自然なことだ。

もう一歩進んで考えて、3人から「ハサミを貸して」と言われたとする。その時、同じものを3丁用意するのは、ごく普通のサービスに過ぎない。

もし、3人がそれぞれ左利き、3歳の幼児、視覚障がい者だったらどうか。使う相手の立場を考えて、左利き用、子ども用、視覚障がい者用のハサミが準備できるか。それが、ホスピタリティだ。

世の中や人様のために働くことが、生きる証だ。お役に立てたと実感できた時、人は成長する。成長とは「人の心に寄り添い、人の思いを感じる力をつけることなのだ。

成功するためには「自分の年収の5%を、自分の成長のために投資せよ」と言われる。だが、リッツ・カールトン本社のマーケティング担当副社長のアドバイスは違った。それでは足りないという。

彼は、現在の年収でなく、自分が目指す年収の5%を投資せよという。現在の年収が500万円なら、5%は25万円だ。だが、目指す年収が1000万円なら、5%は50万円だ。

年収500万円の人が、年間25万円を自己投資に回すのは、今の自分を維持するためにすぎない。より高いステージを目指すなら、自分を磨き、成長させるために、50万円の投資が必要なのだ。

具体的な投資先は、色々ある。本を読む、セミナーに参加、意識の高い人と会って食事をする、ボランティアに参加するなどだ。自分に合った方法で、感性を磨き続ける習慣を身につけることだ。

自分を高め、自分を律するためにできることは、普段の生活の中にもたくさんある。それは、日常生活で「誰もがやっていることを、誰もがやらないレベルでやってみる」ということだ。

たとえば、ザ・リッツ・カールトン大阪では、スタッフが社員食堂で販売しているペットボトルの飲料を、直接口をつけて飲まないように決めた。必ず、グラスに注いで飲むように習慣づけたのだ。

理由は、もともと日本の文化には、容器に直接口をつけて飲む習慣がなかったからだ。お茶は急須から湯呑茶碗に、お酒は徳利からお猪口に注ぐことが、日本の美しき文化であり、ふるまいだ。

普段、ペットボトルから直接水を飲む生活をしている人間が、お客様の前でだけ、水差しからグラスに水を注ぐことをしても、しぐさはぎこちないものになるはずだ。

人間のしぐさや立ち居ふるまいというのは、普段の暮らし方や日常の習慣が、ダイレクトににじみ出てしまう。少なくともお客様にサービスをする立場にある人は、感性を鈍らせるべきではない。

リッツ・カールトンは、外資系企業だからこそ、日本人のふるまいや文化を重んじる。これが「誰もがやっていることを、誰もがやらないレベルでやってみる」ということの意味なのだ。

選書コメント

「日本人は、どんな人間か?」「これから、どんな風に生きていくべきか?」について語る本です。著者は、世界的に有名なあのホテル、ザ・リッツ・カールトンの元支社長、高野登さんです。

高野さんは、日本とアメリカで、それぞれ20年間、ホテルマンとしてキャリアを積まれてきました。その経験と仕事を通した出会いを活かし、本書を書かれました。

アメリカでキャリアを積まれた方の本は「アメリカがどれほど素晴らしいか」「日本はどれほどダメか」を語る本が多いですが、本書は、そのようなところはまったくありません。

日本と、アメリカの良い点をあげつつ、改めて日本人の素晴らしさを教えてくれます。その上で、これからの日本人が進むべき道を示してくれます。

実は、本書の発刊に合わせて著者の高野さんに、直接お会いすることができました。私が、本書を読んで関心を持った、なぜこの時期に、本書を書こうと思ったのかということを尋ねてみました。

ご本人いわく、やはり震災が大きいということです。あの時、多くの日本人が、色々なことを考えました。まさに「日本人が、日本人らしさを取り戻すチャンス」でした。

ところが、最近、多くの人にとって、早くも震災の記憶が薄れつつあるようです。ここでもう一度、じっくり考える機会を作りたいということで、本書を書いたそうです。

実際、本書を読んだことで「自分に何ができるのか」「何がするべきか」を色々考えさせられました。自分と対話する対話する時間を作るきっかけになるはずです。ぜひ、この時期に読んでみてください。

選者紹介

藤井孝一

経営コンサルタント。週末起業フォーラム代表。株式会社アンテレクト代表取締役

1966年千葉県生まれ。株式会社アンテレクト代表取締役。経営者や起業家という枠にとどまらず、ビジネスパーソン全般の知識武装のお手伝いを行うべく、著作やメールマガジン、講演会、DVDなど数々の媒体を活用した情報発信を続けている。著書にベストセラーとなった『週末起業』(筑摩書房)はじめ、『かき氷の魔法』(幻冬舎)、『情報起業』(フォレスト出版)など。

情報提供: ビジネスパーソンの情報サイト「ビジネス選書&サマリー