今回の選書

社長、その人材で世界と戦えますか? 日本人が知らない中国・アジアの「超頭脳」(杉山定久) イースト・プレス

社長、その人材で世界と戦えますか? 日本人が知らない中国・アジアの「超頭脳」(杉山定久) イースト・プレス

選書サマリー

日本は長い間、欧米を見て、そのやり方がベストだと信じてきた。しかし、米国は力が弱まり、欧州は特に弱体化している。絶対だと思っていた欧米的な考え方に限界が来ているのだ。

戦後長きにわたり絶対だと思っていた欧米的な考え方に限界が来ている今、日本はどうしたらいいのか答えを出せずにいる。まさに後追い成長の限界だ。

活気があるのは中国やアジア、ASEAN地域の国々だ。世界はすでに「中国・アジア化」している。もはやアジアに視点を移して活路を見出すしかないのだ。

これらのことは、日本人も頭ではわかっている。しかし、身にしみて理解しているかと言えば、そうでもない。だから、事態は逼迫しているのに、行動に起こすところまでいかないのだ。

このまま、なんとなく過ごせる気がしているのかもしれない。だが、今、アジアに向けての行動を起こさない限り、新たな活路は開けない。そのことをもっと深刻に受け止めるべきだ。

西欧とアジアは根本的に違う。欧米中心の時代のキーワードは、システム、MBA(経営学修士)、マネーだ。しかし、リーマンショック以降、米国を中心とした合理主義の限界に世界は気づいた。

これからの時代は、MBAや、マネー中心だった欧米的合理主義から、人脈やヒューマン・ネットワークなど「人」が中心になる。

今後は「人」を中心とした、健康・環境・高齢化・国際化・教育・コンピュータなどに関連した産業が伸びていく。

そして「人」、特にリーダーとしての人材はMBAのような頭脳ではなく、「徳」を持って人と事業を創り出すリーダーが求められる。

「徳」というのは人の道にかなう立派な行為、人を感化することのできる人格の力のことだ。つまり「人徳」が「才能」を上回るようなリーダーが求められるのだ。

今、日本に必要なことは、現状を厳しく問い直すことだ。列挙すると次のようになる。

 「人口減少で活力が低下」

 「超円高で輸出は最悪」

 「若者が内向き(安定志向)で外に出ない」

 「世界でトップの高い人件費」

 「世界で戦える人材の不足」

 「国内産業の空洞化」

これらの現状・課題を見ると、その多くはグローバルな視点からの問題であることに気づく。日本人は、もっともっとこうした「外からの目」で、物を見るべきだ。

それも想像だけでなく、実際に外に出て「外から日本を見る」べきだ。これからの時代は、外からの目でながめた世界視野の経営が、必要になってくるのだ。

最近「世界規模でやらねば滅びる業種」が急増し、あらゆる産業が国外の市場へ目を向け始めている。国内だけで生き延びようとする内向き姿勢から、海外の可能性に挑戦する企業が増えたのだ。

それなら、本社を日本以外の国に持ったほうがいい。日本を外から見ることができれば、世界の中でどうすべきかが、本当によく見えてくるのだ。

ずっと日本にいると、世界中どこの国も「日本と同じ」という感覚に陥ってしまう。これは、大変危険なことだ。自分の目と耳と頭を使って、世界を体感することが大事だ。

特に、外国の体感を一番必要としているのは、一般従業員でなく、経営者だ。たとえば、日産を甦らせたカルロス・ゴーン氏が、いつも、どこにいるかはわからない。だが、日産は非常に元気だ。

反対に、日本にいて判断する企業には、陰りが見えてきている。日本の外へ出て、世界を見る。それができる企業だけが、浮上するチャンスを見つけることができるのだ。

選書コメント

中国を知り尽くした著者による、人材論です。日本のビジネスパーソンに、中国の若者たちの頭脳を味方につけ、ビジネスの活路にすることを提唱します。

日本は、人口減少、超円高、税負担、グローバル人材の不足など、ビジネスを進める上で様々な障害に苦しめられています。これに対する打開策が見いだせず、長いこともがいています。

同時に、これまでお手本にしてきたアメリカやヨーロッパも、弱体化が顕著です。そこで、お隣の大国をはじめとするアジアの国々に目を向け、新しい付き合い方を考えようと説きます。

著者は、40年近く中国の教育を支援してきた方です。特に、中国のエリート人材の育成やコンサルティングに携わり、中国の各方面から、信頼され、感謝されています。

そんな著者の実体験をベースに、中国の良いところも、悪いところも知りつくした立場から、かなり突っ込んだ、しかもニュートラルな視点で教えてくれます。

もちろん、中国には反日感情などがあることから、苦手意識を持つ方も少なくないと思います。また、急成長している国ですので、理解が追い付かないところもあります。

しかし、お隣の大国であることは動かしようのない事実です。味方につけなければ損です。少なくとも、敵に回したほうがよいことは、ビジネスの世界では、一つもないはずです。

グローバルな視点から、中国も視野にビジネスを考えたいという方はもちろん、現在の中国の実情を知りたいと考える方、真摯に学びたいと考える方にお勧めです。

選者紹介

藤井孝一

経営コンサルタント。週末起業フォーラム代表。株式会社アンテレクト代表取締役

1966年千葉県生まれ。株式会社アンテレクト代表取締役。経営者や起業家という枠にとどまらず、ビジネスパーソン全般の知識武装のお手伝いを行うべく、著作やメールマガジン、講演会、DVDなど数々の媒体を活用した情報発信を続けている。著書にベストセラーとなった『週末起業』(筑摩書房)はじめ、『かき氷の魔法』(幻冬舎)、『情報起業』(フォレスト出版)など。

情報提供: ビジネスパーソンの情報サイト「ビジネス選書&サマリー