今回の選書

負けない力 一流の仕事ができる人に共通する武器(新将命) 東洋経済新報社

負けない力 一流の仕事ができる人に共通する武器(新将命) 東洋経済新報社

選書サマリー

私は40数年にわたり、シェル石油や日本コカ・コーラ、ジョンソン・エンド・ジョンソンなどの外資系企業、いわゆる「グローバル・エクセレント・カンパニー」で働いてきた。

ビジネス人生後半の20年は、3社の社長と1社の副社長を務めた。そういうと、強くて、自信満々の人物をイメージするかもしれない。たしかに、そうした面もあるかもしれない。

だが、若い頃の私は、内気で恥ずかしがり屋で、人前で話すと緊張で膝がガクガクと震える人間だった。ビジネスマンとしても、2度の降格と1度の社長解任という、合計3度の挫折を味わっている。

それでも、わが身を振り返った時、それなりに充実していた。それは、若い時から目標を持ち、自分を磨いてきたから、そして、短所があり、挫折や失敗をしても、負けない力を持っていたからだ。

たとえば、人には自分でコントロールできることと、できないことがある。一生懸命やっても結果が出せない人は、他人の価値や過去の出来事など、コントロールできないことに囚われているのだ。

できないことにあがいて消耗してしまっている。要するに、努力する部分を間違えているのだ。

逆に、成功する人、あるいはハッピーに生きている人は「自分の行動」や「未来の結果」など、あくまで自分がコントロールできることに集中しているものだ。

「勝つ」には2つのタイプがある。勝負に「勝つ」ことと、自分に「克つ」ことだ。最後に成功する人は、他人との勝負に「勝つ」こと以上に、自分に「克つ」ことに執着しているものだ。

なぜなら、他人との勝負は、運や力関係で決まることもあり、必ず勝てるとは限らないが、自分との勝負はその気になれば100%克てる。「やるかやらないか」「続けるか続けないか」選ぶのは自分だ。

たとえば、優秀なビジネスマンは、「誰よりも早く出社して、始業前に仕事の準備を整える」とか「どんなに忙しくても、社外の勉強を休まない」など、努力を続けているものだ。

たとえ些細な行動でも、自分に克ち続けている人は、長い目で見れば、仕事で安定した結果を出しているものなのだ。

ビジネスで勝ち続けることは、誰にとっても容易なことではない。というより、ビジネスでも、経営でも、そして人生も、上手くいかないことのほうが、圧倒的に多いのだ。

ファーストリテイリングの柳井正会長兼社長は『一勝九敗』という本を出されている。私が言いたいのは「一勝九分けの働き方」とでもいうべきものだ。

これは、現実の勝敗を意味するのではない。一勝は「少なくとも自分には克つ」で、九分けとは「とにかく負けないようにする」ことだ。仮に、勝負に負けても、心まで折れないようにする」ことだ。

どんなにがんばっても、自分が置かれた環境が悪ければ結果は出ないのだ。その時々の社会状況や運もある。出世するかどうかまで含めれば、努力が報われるのは、せいぜい50%ぐらいのものだ。

だからこそ、不遇の時には、内面を磨き、将来のための種まきをして、捲土重来に備えておくことだ。そうすれば、状況が好転した時に望ましい成果が出る可能性が高くなるはずだ。

今後、否応なしにグローバル化が加速する。そういう時代に求められるのは、次の5つのスキルとマインドだ。

・理念と目標をしっかり作る

・問題発見力を磨く

・グローバル基準のコミュニケーション能力を磨く

・人間的魅力を高める

・理念と目標達成を託せるリーダーを育てるリーダーになる

これらは、経営の要諦そのものだ。つまり、これからの厳しい社会で生き残るには、自分という会社を経営する社長として発想するべきなのだ。

選書コメント

タイトルからはイメージしにくいかも知れませんが、本書は仕事の本です。新しい時代に武器になることは何で、どうやってそれを身に着けるかを語りかけるように教えてくれます。

著者の新将命さんは、外資系のトップを歴任した方です。世代が違うとか、外資系企業という特殊な活躍をされた方の体験だから、自分には関係ないとの懸念は無用です。

また、偉い人の書いた本は、観念的な話になりがちですが、本書は、理念にはじまり、勉強法やプレゼンの方法などのスキルまでを網羅しており、中身の濃いビジネス書に仕上がっています。

新さんは、これからの時代に必要なスキルを30の武器として紹介してくれます。英語や中国語などの語学やITリテラシーはもちろん、動機向上力や、ユーモア力、胆力などユニークなものも含まれます。

外資で活躍された方ですが、だからこそなのか、意外にも「日本愛」を感じます。スキルの向上法としても「『紫式部』などの古典を読め」とか、「落語を聞け」などと言います。

世界に出て、私たちが、まず自分の「売り」や「強み」にするべきことは、日本人であることです。そのために、さらに日本を知り、極めることが重要、との指摘は、納得できます。

これからは、ますます日本もグローバル化の波に巻き込まれていきます。いち早くグローバルに活躍した先人の教えは尊く、ぜひ生かしていきたいものです。

外資系で働くかどうか、海外で働くかどうかは関係ありません。ぜひ、仕事を始めたばかり、これから仕事を始めるという若いビジネスパーソンに、広くお読みいただきたいと思います。

選者紹介

藤井孝一

経営コンサルタント。週末起業フォーラム代表。株式会社アンテレクト代表取締役

1966年千葉県生まれ。株式会社アンテレクト代表取締役。経営者や起業家という枠にとどまらず、ビジネスパーソン全般の知識武装のお手伝いを行うべく、著作やメールマガジン、講演会、DVDなど数々の媒体を活用した情報発信を続けている。著書にベストセラーとなった『週末起業』(筑摩書房)はじめ、『かき氷の魔法』(幻冬舎)、『情報起業』(フォレスト出版)など。

情報提供: ビジネスパーソンの情報サイト「ビジネス選書&サマリー