今回の選書

100円の不良在庫を5000円の商品に変える方法(村山涼一) 中経出版

100円の不良在庫を5000円の商品に変える方法(村山涼一) 中経出版

選書サマリー

日本の企業は、八方ふさがりだ。売上アップやコスト削減は、どこの企業も取り組み、可能な営業努力をし、切れるだけのコストをカットし続けている。それでも収益はあがらない。

トヨタ自動車でさえ、国内で売れず、海外に出たものの、円高差損で儲からない。その上、傘下に関連企業や従業員が相当数に達するため、ダウンサイジングもままならない。

ソニーやパナソニックなども、企業努力はしている。だが、業績が低迷し、うまくいっていない。日本を代表する企業も、なかなか打つ手がないのだ。

それは「売上-経費=利益」という、今まで常識だった、売上をアップし、コストを徹底的に抑えるというマイナスの発想、すなわち引き算式の手法が、すでに限界に来ているからだ。

その状況を打開するためには、新しいビジネスモデルを導入し、今までとは違う利益を作っていく「プラスの発想」が必要だ。

ビジネスモデルの導入に際し押さえておくべきものが「利益モデル」だ。どれほど優れたビジネスモデルでも「利益をあげる仕組み」がなければ、事業として継続することができない。

ビジネスを考える上で一番重要なことは「お金をどう稼ぐか」だ。仕組みが構築できれば、社内で企画が通りやすくなるし、クライアントにプランを提案する場合にも、説得力がでてくるはずだ。

とはいえ、何もないところから利益モデルを思いつくことは困難だ。打つ手をもれなく考えるには、次元の違う様々なフレームワークを検討する必要があるからだ。

だから、利益モデルを参考に、新しい収益源を発見する必要がある。既存の利益モデルが理解できれば、それを自社のマーケットや商品に当てはめれば、実現可能な利益モデルが見つけられるはずだ。

新規事業を収益化していく発想や、ビジネスモデルの転換を検討する際はもちろん、可能性のある事業を探っていく時にも、大きな指針になる。だから「利益モデル」は重要なのだ。

「利益をあげていく仕組み」を考える際に有効なのが、エイドリアン・スライウォツキ─が提唱した利益モデルだ。

彼は「持続的、かつ卓越した収益性で企業に莫大な価値をもたらす領域」をプロフィットゾーンと呼び「どこで利益があげられるか」という問いからビジネスをデザインするべきだと主張する。

「大きな市場シェアを獲得すれば、利益は後からついてくる」という、これまでの法則は成立しなくなった。製品を中心とした時代の古い目標値になってしまったのだ。

今、求められているのは、利益を生み出すための明確なプランと、メカニズムだ。その構築の指針となるのが、「利益モデル」なのだ。

なお、利益モデルをチェックする際には、次の4つの視点が必要だ。

・現在のビジネスは、どの利益モデルを使っているか

・競争相手のビジネスは、どの利益モデルを使っているか

・新しい収入の獲得のために、別の利益モデルが使えないか

・検討中のビジネスプランは、どの利益モデルに当てはまるか

収益をあげるために重要なことは、ビジネスの中に、いかに有効に、複数の利益モデルを組み込めるかだ。顧客ターゲットの拡大や、売上アップ、収益率向上には多面的な展開が必要だ。

現在のビジネスに別の利益モデルを組み合わせることで、新しい収入源を得ていくヒントがあるはずだ。

消費行動やコミュニケーションが、世界中で変わりつつある。とりわけ国内では、震災で人々のマインドが大きく変化した。何に価値を見出し、重要視するか、明確な転換点が今だ。

そういう時代だからこそ、過去の成功体験や従来のやり方に固執してはだめなのだ。将来を見据えた中長期的な取組みが大事だ。今こそ、新たな収益を生むビジネスモデルを構築するべきなのだ。

選書コメント

マーケティングのプロが「利益モデル」の作り方を教えます。世にあるビジネスを利益獲得のスタイルで5つに分類、さらに細分化し、15の利益モデルとして紹介します。

著者の村山涼一さんは、複数の広告代理店などを経た後、フリーのマーケティングプランナーとして、企業のマーケティング業務を請け負う方。いわばマーケティングのプロ中のプロです。

本書を、自社のビジネスにあてはめながら読み進めれば、それだけでたくさんのヒントとアイデアがひらめきます。あとは実践に移すだけです。

モノが売れない時代ですから、売るためのノウハウが求められています。それに応える形で、書店にも「売ること」をテーマにしたビジネス書がたくさん売られています。

しかし、その大半が「チラシの作り方」や「セールストークの工夫」、ウェブの作り方など、従来のやり方の延長線上にあるものです。しかし、今必要なのは、ビジネスモデルそのものの見直しです。

なお、この手の本は他にもあり、たとえば私も夢中で読んだ『ザ・プロフット』は名著です。本書は、ソーシャルメディアやスマートフォンなど、最近の日本の事情に対応しているところが魅力です。

また、ケーススタディで紹介している点も評価できます。10のケースを紹介し「どうすれば、利益を生み出せるか」を考えさせます。著者のコンサルティングを受けているような感覚で読めます。

ケーススタディ形式は「読んだ気がしない」という人もいるようです。しかし、本書は、密度が濃いため、読み応え十分です。むしろ、より理解が進み、助かります。

小さな会社の経営者から、企業の企画やマーケティングの担当者、その他、プランナーなど、マーケティングに携わるすべての人に、お勧めしたい本です。

選者紹介

藤井孝一

経営コンサルタント。週末起業フォーラム代表。株式会社アンテレクト代表取締役

1966年千葉県生まれ。株式会社アンテレクト代表取締役。経営者や起業家という枠にとどまらず、ビジネスパーソン全般の知識武装のお手伝いを行うべく、著作やメールマガジン、講演会、DVDなど数々の媒体を活用した情報発信を続けている。著書にベストセラーとなった『週末起業』(筑摩書房)はじめ、『かき氷の魔法』(幻冬舎)、『情報起業』(フォレスト出版)など。

情報提供: ビジネスパーソンの情報サイト「ビジネス選書&サマリー