今回の選書

ザ・サンキュー・マーケティング(ゲイリー・ヴェイナチャック著 金森重樹 監訳) 実業之日本社

180日でグローバル人材になる方法(天野雅晴) 東洋経済新報社

選書サマリー

誰かがあなたのために何かしてくれた時のことを思い出してほしい。たとえば「週末、留守の間、犬の世話をしてくれた」とか「空港まで40分かけて車で迎えに来てくれた」とかだ。

その時、あなたはどんな気持ちだっただろうか?「ありがたいな」と思い「自分のために、そこまでしてくれる人がいるなんて、本当に幸せだ」と思ったはずだ。

機会があれば、きっとお返しをするだろう。機会がくるまで待たないかもしれない。そんな人が自分のそばにいることは、ありがたいことだ。「当然だ」などとは思わないはずだ。

実際、どんな人間関係も、当然のものと思ってはならない。人生とは、人間関係であり、それがすべてだ。「どう人間関係を築くか」が「どんな人生を送るか」を決める最大の要因になるのだ。

人間関係が重要なのは、ビジネスでも同じだ。役員会議は、本当のビジネスの場ではない。スポーツバーで、あるいはブロードウェイのショーの幕間に、ビジネスは展開するのだ。

握手をしたり、ちょっとした情報をもらったりしながら、ビジネスは進むのだ。小さな触れ合いから相手の人柄や考え方を知り、好感を持ち、信頼と忠誠心を育てる。それがビジネスに繋がるのだ。

こうした触れ合いを、あなたの顧客全体、できれば潜在的な顧客まで含めて広げることができたら、ビジネスはどうなるかを想像してほしい。

「そんなことは不可能だ」と思うかもしれない。5年前までなら、その通りだった。だが、今はそれが可能だ。正しいツールを、正しく利用すればできるのだ。そして、誰もが、そうすべき時代なのだ。

ソーシャルメディアの登場で、消費者は友達や家族とつき合うように、企業とつき合うことができるようになった。企業といつでも対話できるようなり、それに関心を持つ人がどんどん増えている。

これを拒む企業やブランドは、ビジネスの可能性の芽を摘み、長期的には、自らの存在を危うくする。なぜなら、人間の本質は、変わらないからだ。

人は、もし選択の余地があるなら、いつだって好きな人のそばで時間を過ごそうとする。できれば、好きな人を相手にビジネスをしたいし、好きな人から商品を買いたいと考えるのだ。

ソーシャルメディアは、それを可能にする。これを通じて築かれた信頼関係や絆は、すでに経済を動かす力として、急速に勢いを増してきているのだ。

将来も市場で影響力を持ちたいなら、ソーシャルメディアを正しく理解し、適切に利用して、1人ひとりの顧客と、1対1の関係を築くべきだ。

もともと、ビジネスとは、一対一対応だった。昔の活気ある町の商店を連想してほしい。そこでは、ビジネスは、強い人間関係や思いやり、口コミで支配されていた。

ところが、大規模小売店が急速に広がり、口コミやご近所が疎遠になった。さらにインターネットが普及して、企業は、顧客をないがしろにさえし始めたのだ。

ところが、ソーシャルメディアが登場して、インターネットを公平で開かれた競争の場にした。その結果、世の中の流れは一巡し、ビジネスは、振出しに戻ろうとしている。

世界は再び、大きな田舎町になった。企業は、かつての商店主のように、顧客一人一人と対話し、心遣いを示し、大切にしていることを伝えるべきだ。これが「サンキュー・マーケティング」だ。

「サンキュー・マーケティング」ができる会社は、規模に関係なく成功する。自分のメッセージとブランドを、どこまで広めるか、それを決めるのは、あなた自身なのだ。

選書コメント

ソーシャルメディアと、そこで企業が取り組むべき新しいマーケティング「サンキュー・マーケティング」について解説する本です。ソーシャルメディアの本質と、企業の課題がわかります。

日本でも、フェイスブックやツイッターなど、ソーシャルメディアが普及しつつあります。ただ、その意味するところが分かりにくく、本質を見誤っている企業や担当者が多いようです。

新しいツールが次々に登場しますので、経営者も、担当者も、その対応に追われるあまり、もっと大きな変化に目が向けられないのかもしれません。

本書は、そんなわかりにくい、ソーシャルメディアと、それが普及していくことの意味を、自らの事業体験と、成功事例を交えながら、分かりやすく紹介してくれます。

日本でもソーシャルメディア関連の書籍は多いですが、多くが機能の説明や、どうすれば反応が増えるかなど、戦術レベルの技術論に終始しており、いわゆる実務書の域を出ていません。

その点、本書は、ソーシャルメディアがコミュニケーションをどう変えてしまったのか、それに対して企業はどう対処するべきかを教えてくれます。

テクニックは載っていませんが、未来を見通すヒントをくれます。戦略や方針を立てる上で役立ちます。と言っても、堅苦しい本ではなく、事例が豊富でわかりやすく、楽しめます。

今、ソーシャルメディアを正しく理解しなければ、チャンスを逃すどころか、死活問題にさえなりかねません。経営者、事業主、一般社員まで、ビジネスに携わるすべての人が読むべき本だと思います。

選者紹介

藤井孝一

経営コンサルタント。週末起業フォーラム代表。株式会社アンテレクト代表取締役

1966年千葉県生まれ。株式会社アンテレクト代表取締役。経営者や起業家という枠にとどまらず、ビジネスパーソン全般の知識武装のお手伝いを行うべく、著作やメールマガジン、講演会、DVDなど数々の媒体を活用した情報発信を続けている。著書にベストセラーとなった『週末起業』(筑摩書房)はじめ、『かき氷の魔法』(幻冬舎)、『情報起業』(フォレスト出版)など。

情報提供: ビジネスパーソンの情報サイト「ビジネス選書&サマリー