今回の選書

「部下を持つ人の時間術」(水口和彦) 実務教育出版

「部下を持つ人の時間術」(水口和彦) 実務教育出版

選書サマリー

会社組織における「リーダー」、すなわち「管理職」の人たちにとって、現在はたいへん厳しい時代だ。「リーダー受難の時代」といっていいくらいだ。

たとえば、ある管理職へのアンケートでは、8割以上もの管理職が、10年前と比べて「仕事の負荷が増えている」「どちらかというと増えている」と回答している。

原因の一つは「プレイングマネージャー」化が進んだことだ。マネージャーの多くが、自分自身も一人のプレイヤーとして仕事をこなさなければいけなくなったのだ。

上場企業の課長に対するアンケートでは、ほぼすべての課長がプレイングマネージャー化していることがわかった。そのうち4割の課長は、なんとプレイヤー業務が半分以上だという。

これでは「プレイングマネージャー」というより「マネージングプレイヤー」だ。忙しくて当然だ。職制上は管理職でなくても、実際はチームを率いているリーダーも少なくない。

このように、今やリーダーは「一人二役」をこなすことが当たり前の時代になったのだ。

現在、雑誌やウェブ、書籍など、さまざまな媒体で「リーダー論」を見かける。それだけ「迷えるリーダー」が多いのだ。

「プレイングマネージャー」化が進んだ今、リーダーには「一人二役の仕事をうまくこなす能力」が必要だ。しかし、多くの「リーダー論」では、その部分がなおざりにされている。

これは、プレイングマネージャーとしての「足場」に相当する部分だ。いわゆる「リーダーシップ」を論じる前に、この足場を固める必要があるのだ。

ITの普及で、どこにいてもパソコンや携帯電話で連絡を取ることができるようになった。チームの連携は、以前よりずっと取りやすい環境が整っている。

しかし、仕事のスピードが速くなるということは、それだけ自分のやるべきことや、判断すべき事項が増えるということだ。

また、同時進行で進む仕事も多いので、素早く頭を切り換え、短時間で次々と判断していくことが求められる。

仕事が細切れに「パケット化」された時代と言ってもいいだろう。「パケット」とは、携帯電話などでもおなじみだが、ネットワーク上で情報を送信する際の一つの単位を表している。

たとえば、メールで送る文章や添付ファイルは、複数のパケットに 分割されて送信される。普段は意識しないが、一つのメールがひと かたまりではなく、細切れにされて送られているのだ。

私たちの仕事も、昔に比べて、さらに細切れになった。プロジェクトを進める場合も、長時間のミーティングを行うのでなく、毎日、無数のメールをやり取りしながら進めていくのが当たり前になった。

私たちの頭は、パソコンや携帯電話と違い、メールをパケット化したり、パケットを元のメールに復元するような作業が得意ではない。

いろいろな案件に関わるメールを一度に数十通も受信すると「どれから返信しようか」と迷ってしまう。一つひとつの内容は簡単でも、数が増えると混乱するし、ストレスも感じる。

私は、こういう状況のことを「あれもこれも症候群」と呼ぶ。「あれもやらなければ、これもやらなければ」と慌ただしく、気持ちが焦ってしまう状況に陥ることを指している。

この「仕事のパケット化」にまつわる問題や「あれもこれも症候群」は、私たちの情報処理能力や判断力に限界があるため起こる。こうした能力は、訓練で向上する。だが限界もある。

記憶に頼るだけでなく、やるべきことを整理したり、処理したりしていくか、その手法を改良していくことが何よりも重要なのだ。

選書コメント

本書は、管理職のための時間管理の本です。管理職という階層に特化している点、新しい時代に即している点、そして時間管理のプロが書いている点が特徴的です。

背景には、悩める管理職の存在があります。かつての管理職と違い、プレイングマネージャーとして、管理をしながら、自らもプレイヤーを務めねばならない、現代の管理職の悩みに対応しています。

著者は、タイムマネジメントの専門家として、大手企業や官公庁で研修、指導などを行っている水口さんです。新聞やテレビなどマスコミでもおなじみです。

ビジネスパーソンに向けた時間にまつわる本は、いつの時代も求められる「定番ネタ」のひとつです。しかし、最近発刊されるものの多くは、時間節約術や習慣術を著者個人の体験から紹介する本です。

一方、本書は、仕事そのものに目を向けます。仕事の効率化やスケジュール化など、仕事を改善することで時間を確保する、いわゆるタイムマネジメントを教えてくれます。

特に、最近は仕事の質が変わっており、旧来の手法では対応できない部分が増えています。そこに配慮し、役割の再定義、戦略など、新しい時代に即した方法を紹介します。

なお、マネージャーの時間管理には、「他人の時間」という要素が加わります。使える時間が増える面もありますが、人の時間まで目配りをするという面倒な面もあります。だから手法が必要です。

時間を使いこなすマネージャーのやり方が学べます。スケジュールの立て方など、階層問わず使える部分もありますので、マネージャー以外の人にもお勧めします。

選者紹介

藤井孝一

経営コンサルタント。週末起業フォーラム代表。株式会社アンテレクト代表取締役

1966年千葉県生まれ。株式会社アンテレクト代表取締役。経営者や起業家という枠にとどまらず、ビジネスパーソン全般の知識武装のお手伝いを行うべく、著作やメールマガジン、講演会、DVDなど数々の媒体を活用した情報発信を続けている。著書にベストセラーとなった『週末起業』(筑摩書房)はじめ、『かき氷の魔法』(幻冬舎)、『情報起業』(フォレスト出版)など。

この記事は藤井孝一氏が運営するビジネス書を読みこなすビジネスパーソンの情報サイト「ビジネス選書&サマリー」」の過去記事を抜粋し、適宜加筆・修正を行って転載しています。