今回の選書

「アジアで稼ぐ「アジア人材」になれ!」(パク・スックチャ) 朝日新聞出版

「アジアで稼ぐ「アジア人材」になれ!」(パク・スックチャ) 朝日新聞出版

選書サマリー

私は、日本という国に危機感を抱いている。日本は世界に類のない経済大国であり、世界は今も昔も変わらず、日本という国に尊敬のまなざしを向けている。

だが、日本の未来は暗い。人口減少と超高齢化により国内市場の回復はもはや望めない。経済は縮小するばかりだ。このままでは、日本はアジアの小国に成り下がってしまう。

国外に目を転ずれば、アジア諸国にはエネルギーがあふれている。人々は「明日の自分」が「今日の自分」よりやくなることを固く信じて、日々懸命に働いている。

こうした膨大なエネルギーを、日本は「アジア内需」として取り込むべきだ。そうすれば、日本の未来は開けてくる。しかし、今を逃せば、もうチャンスはないと思う。

勃興するアジア諸国に囲まれた日本は井の中の蛙状態だ。自らが置かれた立場を全く認識しようとしていないのだ。今の日本は、見ていて恐ろしくなるほど、自国の将来や国外の動向に無関心だ。

努力して勤勉に働き「ジャパン・アズ・ナンバーワン」を作り上げた世代は、今や引退しつつある。労働市場に残されているのは「豊かさ」の中で育った世代ばかりだ。

彼らは、競争を嫌い、努力に価値を置かない。ほどほどに勉強し、そこそこ仕事をして、まずまずの生活を送れればいいと思っている。世界で起こっていることなど、どこ吹く風といった様子だ。

彼らは、会社が自分や家族の面倒を一生見てくれると信じている。いや、信じようとしている。しかし、それは幻想に過ぎない。

今、40代、50代の世代ならそれでいいかもしれない。だが、30代、20代、さらに10代の世代は、今の大人たちが辛うじて享受している「そこそこ」の生活を送ることができることさえ難しいはずだ。

実際、ここ数年の新卒採用をめぐる情況は悲惨だ。日本経済団体連合会によると、2010年の新卒採用が前年度に比べて増加した企業は、わずか14.2%、一方減少した企業は、68.7%に上っている。

これは08年のリーマンショックの影響を引きずっているせいとも説明できるが、もっと根の深い問題だ。景気が回復すれば解決するような一時的なものではもはやない。構造的な問題なのだ。

若者の採用が振るわないのは、日本のマーケットが縮小し、企業が拠点を海外へ移転したり、外国人の採用を増やしたりしているからだ。

この流れは、この先も止まることはない。国も企業に奨励金を出すなど努力はしているが、根本的解決策になっていない。そうである以上、日本の大学生の採用数が増えることは、まず期待できない。

2010年6月、楽天の三木谷浩史社長は2012年末までに、社内の公用語を完全に英語にすると発表した。このニュースはマスコミでも大きく取り上げられ、英語力とグローバル人材注目を浴びた。

また、ユニクロを展開するファーストリテイリングの柳井正社長も2012年から英語を公用語にするという。同社も海外売上高比率は現在10%ほどしかない。だが、将来的は海外比率を引き上げる計画だ。

驚いたのは、英語を社内公用語化したことではない。海外取扱高比率が極めて低い企業にも関わらず、社内のグローバル化に本気で動いたことだ。

今のところ、海外の影響がないドメスティック企業のトップの持つ危機感の強さに衝撃を受けたのだ。強いリーダーシップを持つトップが日本の現状と世界の将来を検証したら、同じ結果になったのだ。

もちろん、パナソニックのように、以前からグローバル化に動いている企業は少なくない。革新的な企業は、急速に「グローバル化」と「英語化」に軸足を移す行動を取り始めているのだ。

人口減少で国内市場縮小が避けられない状況下、日本企業は急速に海外展開を目指し、人材のグローバル化へ向けて確実にアクセルを踏み始めているのだ。

選書コメント

新しい日本の姿と、これからあるべき人材の姿を提示する本です。アジアの時代が到来していますが、日本は今のままでは、そのチャンスを生かせそうにありません。

なぜなら、日本は様々な問題を抱えながら、危機意識が希薄で、これを打破する人材の育成も進んでいないからです。世間は「内向き」で「そこそこでいい」と考える風潮がはびこっています。

一方、日本の企業は、公用語を英語にしたり、外国人の採用を進めたり、海外に進出するなど、着々とグローバル化を進めています。このままでは、日本から、日本人の仕事がなくなってしまいます。

著者は、日本生まれの韓国人でコンサルタントのパク・スックチャさんです。日本の教育に危機感を持ち、自らお嬢さんを単身シンガポールに留学させています。その体験を踏まえて書かれています。

本書では、著者が日本の先行きに危機感を抱く理由を、様々なデータをもとに、自らの体験を交えて示します。そして、日本が目指すべき方向性と日本に求められる人材像について解説します。

ビジネス書の真価は、読み手が「どんな行動を起こすべきか」提言内容で問われるべきだと思います。単なる現状分析や批評で終わるビジネス書には読む価値がありません。

その点、本書は単なる日本絶望論ではありません。読み手がどちらに進むべきか、道筋をしっかり示してくれます。だから目を背けたくなる現実を描きつつも、最後は希望が持てる結論に導かれます。

会社のかじ取りをする経営者や、人材に携わる人、そして自分のキャリアをどう作っていくべきか悩む若いビジネスパーソンや学生、さらに自分の子供の教育を考える親世代にもお勧めします。

選者紹介

藤井孝一

経営コンサルタント。週末起業フォーラム代表。株式会社アンテレクト代表取締役

1966年千葉県生まれ。株式会社アンテレクト代表取締役。経営者や起業家という枠にとどまらず、ビジネスパーソン全般の知識武装のお手伝いを行うべく、著作やメールマガジン、講演会、DVDなど数々の媒体を活用した情報発信を続けている。著書にベストセラーとなった『週末起業』(筑摩書房)はじめ、『かき氷の魔法』(幻冬舎)、『情報起業』(フォレスト出版)など。

この記事は藤井孝一氏が運営するビジネス書を読みこなすビジネスパーソンの情報サイト「ビジネス選書&サマリー」」の過去記事を抜粋し、適宜加筆・修正を行って転載しています。