今回の選書

「課長の時間術」(田中和彦) 日本実業出版社

「課長の時間術」(田中和彦) 日本実業出版社

選書サマリー

現在、会社から求められる課長の役割や負担は、おそらく20年前とは、比較できないくらいに大きくなっている。それに伴い、課長も同じ時間内に、どれだけ多くのアウトプットを出すかが問われる。

「できる課長」は例外なく時間術に長けている。「できる課長」になるには時間術を身につけるべきなのだ。

ただし、課長には課長の時間術がある。自分の時間をうまく使うことはもちろん、組織の長として、組織全体の時間をどうマネジメントするか考えなくてはならない。

課長は、仕事について経営者と関わりが持てる最下位のポジションだ。同時に、現場の仕事に直接手を下せる最上位のポジションだ。これほど幅の広い立場はない。だから課長の時間術は重要なのだ。

実は、重要度の高い上位2割の仕事が8割の成果を生み出している。そのため、課長の役割は「いかに重要度の高い2割の仕事を見極め、そこにメンバーを集中させるか」にある。

そもそも、仕事には4種類ある。一つ目は「緊急度も重要度も高い」仕事だ。ミスによるクレームがこれに当たる。

二つ目は「緊急度は高いが、重要度は低い」仕事だ。納期のはっきりしているルーティンワークなどがこれに当たる。一つ目も、ふたつ目も、効率的にすぐ終わらせるべきだ。

三つ目は「緊急度も重要度も低い」仕事だ。こんな仕事があるのかと思うかもしれないが、若いメンバーの中には、意味のない作業を黙々と続ける人も少なくない。これはやめさせるべきだ。

四つ目は「緊急度は低いが、重要度が高い」仕事だ。環境の変化に応じたリニューアルなどがそうだ。実は、この仕事が「8割の成果を生み出す2割の重要な仕事」だ。

この仕事は、中長期的な目標にして、じっくり取り組むべき仕事だ。難易度の高いが、成果に大きく影響する仕事だから、やりがいがあるはずだ。

「緊急度は低いが重要度は高い」仕事をする時間を捻出するのは難しい。なぜなら、課長ともなれば、自分の意思とは関係なく、部下によってスケジュールが埋められていくからだ。

だから、部下からスケジュールを埋められる前に、あらかじめ自分ひとりで使える時間を「自分へのアポイント」として、優先的に適度にちりばめて入れておくべきだ。

その際、注意点は「自分へのアポイント」は周囲には知らせないことだ。「そこは融通がきく」と思われてはならないからだ。

1日30分、少なくとも週に30分は「自分へのアポイント」を意識的にスケジュールに入れてみるべきだ。

考えるための「自分へのアポイント」が、かえって物事を効率的に進めてくれるはずだ。ビジョンを考え、戦略を練り、判断するために熟考したことが、組織のプラスになることを実感するはずだ。

「自分にしかできない、未来を創るために、時間をかけて考える仕事」は、課長の仕事の本質だ。しかし、同時に、そういう仕事以外の雑事に振り回されるのも、課長という立場の現実だ。

部下に振ることができる仕事ならいいが、中には、部下に任せられない仕事もある。

そのような仕事の優先順位を決めるのが「時間軸」と「空間軸」だ。その仕事を放置した場合、どれくらい影響が出るのか「時間軸」と「空間軸」で想像するのだ。

「時間軸」は「1日放置したらどうなるか?」「3日なら」「1週間なら」と時間を延ばして影響を予測することだ。「空間軸」は、影響範囲を「どんな人、何人くらいに」と空間的に予測することだ。

この二つの軸を意識して、かかるコストや、迷惑のかかる人とその人数などを予測する。すると、難しい優位づけも、比較的あっさり答えが出たりするものだ。

選書コメント

タイトル通り、課長のための時間の使い方です。できる課長が、どうやって時間を使っているのか、部下や上司に振り回されず、自分で時間の手綱を握り、成果を上げていくコツを教えてくれます。

課長は忙しい仕事です。マネジャーであり、プレイヤーでもある、上司でもあり、部下でもあるという具合に、色々な役割を担わされています。役割の数だけ、仕事があり、時間を取られます。

にもかかわず、課長のために書かれた時間の本はありませんでした。課長とそれ以外の人の時間術は違いますから、そこに特化して時間を論じる本が出たことは画期的です。

本書は「課長だからこそ」知っておくべき時間の考え方を、60項目解説してくれます。部下の行動の把握の仕方や部下とのコミュニケーションのための時間確保など、上司としての時間術が語られます。

同時に「上司の先回りせよ」「月曜日は、上司のスケジュールを把握しておけ」など、部下として、上司に振り回されない時間のコツについても書いてあります。

もちろん、課長以外の人の参考にもなります。特に、いずれ課長を目指す人は、いきなり課長になって困らないように、今から備えておくべきです。

また、大きな会社の課長なら、部下が数十人の単位でいるはずです。本書もその規模の組織を想定していますから、小さな会社なら、社長や幹部にも役に立つはずです。

人を束ねて最大の成果を上げたい人、いずれそういう立場になって仕事がしたいと考える人で、時間の使い方がうまくないと感じている人、もっと賢く時間を操りたいと考える人にお勧めします。

選者紹介

藤井孝一

経営コンサルタント。週末起業フォーラム代表。株式会社アンテレクト代表取締役

1966年千葉県生まれ。株式会社アンテレクト代表取締役。経営者や起業家という枠にとどまらず、ビジネスパーソン全般の知識武装のお手伝いを行うべく、著作やメールマガジン、講演会、DVDなど数々の媒体を活用した情報発信を続けている。著書にベストセラーとなった『週末起業』(筑摩書房)はじめ、『かき氷の魔法』(幻冬舎)、『情報起業』(フォレスト出版)など。

この記事は藤井孝一氏が運営するビジネス書を読みこなすビジネスパーソンの情報サイト「ビジネス選書&サマリー」」の過去記事を抜粋し、適宜加筆・修正を行って転載しています。