今回の選書

「女性社長が日本を救う!」(横田響子) マガジンハウス

「女性社長が日本を救う!」(横田響子) マガジンハウス

選書サマリー

日本では、女性社長は、まだまだ少ない。総務省の調査では、日本の就労者人口6642万人のうち、経営者は153万人と約50人に1人の割合とされている。

個人事業主まで入れれば、10人に1人は「代表」と肩書きがつく仕事をしていることになる。冗談で「石を投げたら代表に当たる」などと言うが、都市部では、あながち冗談でもないのだ。

一方、女性社長はというと、帝国データバンクの調査では6.7万人に過ぎない。ざっと計算してみると、男性経営者20人に対して女性経営者一人にすぎないのだ。

ただ、日本でもこれから実力のある女性経営者が増えると予測されている。専修大学の鹿住倫世先生が、5年ほど前に女性経営者の職業経験と起業後の経営成果等を分析した研究成果を発表した。

それによると、企業で管理職を経験してから起業した女性経営者は、数字による経営管理や組織マネジメントができる人が多く、男性と同様に成長意欲があるという。

管理職やプロジェクト管理の経験の有無だけでは、有意な影響は見られないが、これらの経験年数が長いほど、創業した会社の資本金額や従業員数、年商が増大する傾向があるという。

今は、統計だけを見て「女性の方が廃業率が高い」とか「売上げの伸びが緩やかだ」などと言われている。しかし、今後、企業での経験豊かな女性たちの起業が増えれば、その差はもっと縮まるはずだ。

アメリカでは、経営者の4人に1人が女性だという。これは少し前の統計だから、今は3人に1人になっているかもしれない。つまり、日本はアメリカに比べ、女性トップがまだ少ないのが実情だ。

日本では、女性の就業率が低いだけでなく、管理職比率、トップ比率も少ない。アメリカでは、女性社長が1300万人の雇用を生みだしている。

日本の女性社長がアメリカ並みの割合で増え、平均5名の雇用を生み出すようになれば、100万人の雇用につながる。これは、1万人規模の企業を100社作るより、ずっと可能性があると思う。

かつて女性社長の集まりに対して、ある大手メディアの記者の方から「弱者連合」と言われたことがある。このような女性社長に対する偏見や思い込みをまず突破したいと思う。

女性は、社長に向いている。たとえば、女性は消費者ニーズをつかむことが得意だ。特に「私だったらこうする」「こうしたほうがもっと使いやすい」と考える傾向があるが、これが経営に活かせる。

また、女性は、子供のころから消しゴムやリボン一つでも、吟味を重ねて選ぶ傾向がある。そして、最終的に自分が「好きか嫌いか」で判断する。これが、決断する能力を育んでいるはずだ。

経費をきちんと吟味するのも女性だ。実際、会社を立ち上げるとき、男性は「何はなくとも都心にオフィス、人を雇う」というのに対し、女性は「今、必要か」で判断するそうだ。

「働き方はこうでなくては」という枠組みにとらわれないのも女性だ。出産や子育て、介護などのライフイベントが多く、仕事を合わせざるをえないからだ。従業員の多様な働き方も許容しやすい。

さらに、女性経営者は、まだ絶対数が少ない。だから、注目を集めやすい。メディアにも取り上げられやすいし、パーティーに誘われる回数も多いはずだ。

もちろん、女性ならではのハードルもある。後ろ盾がいるのでは、と勘ぐられたり、周囲から小生意気に見られたり、頼りなく思われたりすることがある。男性に比べて覚悟が足りない人も多いようだ。

それでも、これからは女性社長の時代といえる。10年以内には「石を投げれば女性社長に当たる」そんな世の中になるべきだ。元気な女性社長が増えれば、日本もじわじわ元気になるはずだ。

選書コメント

ハードルが高いと思われがちな起業を成し遂げ、社長として活躍するたくさんの女性の働き方から、新たな働き方を模索し、提案する本です。

著者は、女性社長の支援などを手掛ける会社の社長、横田響子さんです。最近、テレビなどでもご活躍中の方なので、ご存知の方も少なくないと思います。

女性の感性や、枠にとらわれない発想など、女性らしさを生かした社長が増えれば、雇用が生まれ、日本はもっともっと元気になる、そう横田さんは語ります。

女性の社会進出が進み、女性の管理職を見かけることも珍しくなくなりました。それでも、男性に比べれば少ないのが現実です。社長も同じで、女性社長は、男性社長20人に一人にすぎません。

数が少なければ、目にすることも少なくなります。お手本が身近にいなければ「自分も目指してみよう」という気持ちにはなりにくく、結果的に女性社長が増えません。

もちろん、メディアなどでは目にしても、そういう人はスーパーウーマンで、中々自分のこととしては捉えられません。もっと等身大の女性社長が身近にいる環境をつくることが大切です。

その点、本書は、1500名の女性社長をネットワークする横田さんの本だけに、女性社長が大勢登場します。自らの体験談にとどまらず、多種多様な女性社長の例を知ることができます。

「これなら、自分にもできるかも」そういう人が見つかるはずです。女性で、起業したい人、ビジネスでもっと活躍したい人、働き方を模索している人はもちろん、男性にもお勧めです。

選者紹介

藤井孝一

経営コンサルタント。週末起業フォーラム代表。株式会社アンテレクト代表取締役

1966年千葉県生まれ。株式会社アンテレクト代表取締役。経営者や起業家という枠にとどまらず、ビジネスパーソン全般の知識武装のお手伝いを行うべく、著作やメールマガジン、講演会、DVDなど数々の媒体を活用した情報発信を続けている。著書にベストセラーとなった『週末起業』(筑摩書房)はじめ、『かき氷の魔法』(幻冬舎)、『情報起業』(フォレスト出版)など。

この記事は藤井孝一氏が運営するビジネス書を読みこなすビジネスパーソンの情報サイト「ビジネス選書&サマリー」」の過去記事を抜粋し、適宜加筆・修正を行って転載しています。